所感
総評:傾向がガラリと変化
これまでは各大問ごとに出題分野が分かれており,複数の単元にまたがる複合問題の出題は少なかったですが,今年はその傾向がガラリと変化。
「なんだこれ!」というのが最初の印象です。
類題も少なく,「知っている事柄と,問題文から読み取れる設定を駆使してその場で考える力」が要求されているため,公式暗記で学習してきた受験生にとっては非常に厳しい内容だったはずです。
2022年は少し易化傾向であり,難易度も落ち着いた傾向でしたが,2023年は物理が得意な受験生にとっても高得点を取るのが非常に難しい内容になっています。
自分の受験がこの問題の年じゃなくてよかった,と思うくらいには難しいです。
「物理は満点を目指せるし,化学に回す時間をかせぐつもりで」という時代は終わってしまった印象です。
高得点が難しく,難しすぎて逆に差が付きにくいので,「解ける問題で確実に正解する」ことが非常に重要ですね。
2023年全体の特徴
- 与えられた条件から,その場で「考える」タイプの問題が多い。
- 時間内に全ての問題を解くのは難しい。解ける問題を確実に解くことが大事。
- 手がつけられない問題では,過程を丁寧に記述して部分点を狙うのも重要。
出題量について
答えるものの数は「38個」であり,前年からやや増えました。
問題の設定が1つ1つ複雑であり,解答に時間がかかるものが増えたため,体感としては「かなり量が増えた」という印象です。
理由を記述させる問題も増えており,答案作成にかかる時間についてもよく考える必要があります。
上にも述べましたが,「見たことがない設定」が多く,問題文の理解に非常に時間がかかります。
問題文の情報を丁寧に読み解き,その場で状況を整理して立式する必要があるため,「考える時間」を多く要するでしょう。
内容について
「こんなの見たことない!」という設定の問題が増えました。
図をパッと見るだけでもわかると思いますが,とにかくどの問題も設定が複雑です。
状況を整理するだけでもかなりの時間がかかったはず…。
これまでは,大問ごとに単元が区切られていることが大半でしたが,複数の分野にまたがる出題が目立っています。
第1問は力学,電磁気学,原子物理,第2問は力学,波動,電磁気学,第3問は熱力学と,全ての単元の内容が問われるセットでした。
このような単元をまたぐ複合問題は他大学でも例が少なく,問題集にも掲載されていないため,慣れている受験生はほとんどいないことでしょう。
そうした意味でも全体として非常に難易度が高くなったといえます。
いずれの問題も,公式の丸暗記や典型問題の流用だけでは対応するのが困難です。
また,例年は各大問の最初は比較的容易な問題が並んでいましたが,どの大問も「これは流石に簡単!」といえる設問がほとんどありません。
与えられた複雑な状況を読みとき,知っている知識をフル活用しながらその場で考える思考力が問われる内容となっています。
解く順番
どの問題も見慣れない図ばかりで,どれから解くべきか判断するのは非常に難しかったでしょう。
特に第2問は図が非常に煩雑なため,避けた受験生は多かったはず。
結果として第2問が最も点数を取りやすかったわけですが,見極めるのはまず難しかったでしょう。
今回のように,手がつけられなさそうな問題ばかり並んでいたときには,得意な単元の問題から解くのが吉です。
今回は,図からだけでは単元すらわかりかねるのでそこも難しいところですね…。
羽白が推奨する順番は以下です。実際にこの順番で解いたという人は少ないように思われますが…。
推奨解答順序
第2問 → 第1問 → 第3問
羽白は最初に時間を測って解いたとき,第3問→第1問→第2問の順番で解きました。
第1問:原子核の崩壊,崩壊後の原子核の運動
一見すると原子の内容に見えますが,Ⅰ(2)以外はほとんど力学と電磁気の内容です。
25分で完答は難しいですが,Ⅰの内容をしっかりと解き切り,時間内に解ける範囲でⅡを解く,という戦略になるでしょう。
2023年のセットは「確実に正解できる平易な問題」が少ないため,本文のⅠの部分を解き切っておくことは非常に重要です。
Ⅱは座標系の変換が必要になったりと,設定が複雑です。
内容自体は「電場中の荷電粒子の運動」なので,等加速度運動ですね。
しかし,2次元空間での運動を数学的に処理する必要があったり,分裂の前後で粒子の質量や電荷が変化するため立式ミスをしやすかったりと,なかなか得点しにくい問題が多い印象です。
特に後半は,ほとんど数学といってもよいほど計算処理が複雑な問題なため,限られた時間内で完答するのは相当厳しいでしょう。
後半の問題は配点も少ないことが予想されるため,一旦飛ばして他の大問を先に解く,といった戦略が重要です。
第2問:質量を精密に測定する装置
見た目がとにかくごっつい。
図も複雑だし,文章量も多いし…。ということで避けたくなる大問ですが,1つ1つの設問で問われていることはさほど難しくはありません。
Ⅰは文章で長々と説明されていますが,突飛な発想は不要で,知っている問題や状況に結びつけやすい印象です。
また,前半の問題は間違えていても後半に影響しない作りになっており,1つのミスから総崩れが起こりにくいように工夫されていますね。
後半のⅡでは話が完全に前半と切り離されています。
Ⅰが解けていなくても問題文には目を通したいところですね。(1)あたりは時間をかけずに答えが出せるので,やはり時間が許す限り全ての問題に目を通す姿勢は重要です。
内容もそこまで難しいものではなく,(2)以降は数式処理を進めていく内容です。(3)の計算も複雑ではありません。
ということで,「時間さえかけられれば」完答も目指せる内容になっています。
しかし25分という時間で完答するのは物理が得意な受験生でも至難の技でしょう。
Ⅰをしっかり解ききった上で,Ⅱの答えられる問題のみをパッと答えることができれば十分合格です。
第3問:風船に関する問題
(1) からだいぶ難しい印象です。そもそも使っているのが「液体」ですからね。
一見すると「定圧変化」と同様に考えられそうですが,「本当にそれでよいのか?」をしっかりと考えながら解き進める必要があります。
それゆえ「まぁ合っているだろう!」という確証を持って解き進めることができず,精神的にも厳しかった受験生が多かったことでしょう。
(2) は (1) に比べると解きやすく,そのまま (3) も解けるため,このあたりで少し安心でしょうか。
逆に物理が苦手な受験生でも,なんとかⅠの内容は完答したいところです。
Ⅱからは気体の内容になりますが,見慣れない状況設定について考える「思考力」が問われます。
Ⅰ(3)の利用に注目できればなんてことないのですが,やはりなんとなく「これで合っているのか…」という不安がつきまといます。
Ⅲ は数学要素もある難問。
ほとんどの受験生が解けないことが予想されるため,こちらの設問で差がつくことはないでしょう。
しかし (2) の答えは2択,(3) の答えは6択です。ちんぷんかんぷんでも答えはかくだけかきましょう。
目標点
科類 | 第1問 | 第2問 | 第3問 | 計 |
---|---|---|---|---|
理Ⅰ・Ⅱ | 12点 | 12点 | 10点 | 34点 |
理Ⅲ | 15点 | 15点 | 14点 | 44点 |
参考資料
解答の作成方法など,東大物理の対策総論については以下のページもご参考に。
こちらもCHECK
-
東京大学 物理 傾向と対策
東大物理の傾向分析のページです。
試験時間の使い方や解答作成方法について,詳しく説明しています。続きを見る
難易度・配点
第1問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | A | 3点 |
(2) | B | 3点 | |
(3) | A | 4点 | |
Ⅱ | (1) | C | 6点 |
(2) | D | 2点 | |
(3) | C | 2点 |
第2問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | B | 2点 |
(2) | A | 2点 | |
(3) | B | 4点 | |
(4) | C | 4点 | |
(5) | B | 2点 | |
Ⅱ | (1) | B | 2点 |
(2) | C | 2点 | |
(3) | B | 2点 |
第3問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | B | 3点 |
(2) | A | 3点 | |
(3) | B | 2点 | |
Ⅱ | (1) | B | 3点 |
(2) | C | 3点 | |
Ⅲ | (1) | C | 2点 |
(2) | D | 2点 | |
(3) | D | 2点 |
採点基準
第1問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 運動方程式を立式して | 2点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 円運動の周期を求めて | 1点 | |
条件式を正しく立式して | 1点 | ||
正答を得て | 1点 | ||
(3) | 運動量保存則を立式して | 1点 | |
エネルギー保存則を立式して | 1点 | ||
正答を得て | 各1点 | ||
Ⅱ | (1) | 正答を得て | 各1点 |
(2) | $\theta_0=0$ のときの運動エネルギーの範囲を得て | 1点 | |
$\theta_0=\pi$ のときの運動エネルギーの範囲を得て | 1点 | ||
(3) | 正答を得て | 1点 | |
正しく理由を述べて | 1点 |
第2問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 正答を得て | 2点 |
(2) | 正答を得て | 2点 | |
(3) | キルヒホッフの第二法則を立式して | 2点 | |
正しく立式して | 1点 | ||
正答を得て | 1点 | ||
(4) | $z_1$ を求めて | 2点 | |
$V_2$ を求めて | 2点 | ||
(5) | 正答を得て | 2点 | |
Ⅱ | (1) | $V$ を求めて | 1点 |
$H$ の大きさを求めて | 1点 | ||
(2) | 正答を得て | 各1点 | |
(3) | 抵抗値 $R$ の測定値を得て | 1点 | |
相対誤差を求めて | 1点 |
第3問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 風船の体積変化を求めて | 1点 |
仕事を求める式を正しく立てて | 1点 | ||
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 表面積の変化を求めて | 1点 | |
正答を得て | 2点 | ||
(3) | 正答を得て | 2点 | |
Ⅱ | (1) | 正しい選択肢を選んで | 各1点 |
正しく理由を説明して | 1点 | ||
(2) | 方針を正しく示して | 1点 | |
正しく立式して | 1点 | ||
正答を得て | 1点 | ||
Ⅲ | (1) | 圧力の変化が負になることに注目して | 1点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 正答を得て | 1点 | |
正しく理由を説明して | 1点 | ||
(3) | 正答を得て | 2点 |
第1問
手書き解答
東大2023_1Ⅰについて
こちらは「根拠となる式」と「答え」のセットでok。答えに自信がなければたくさんかいてもよいですが,時間をかけずに完結に。
Ⅱ(1)について
穴埋め問題なので難しいところです。答えのみでの採点が予想されるため,答えのみとしました。2023年の難易度であれば,部分点が発生する可能性もあるため,自信がない設問についてはわかるところまで途中経過をかいておくのもありでしょう。
Ⅱ(3)について
理由をどこまで記述するかが難しいところです。「わかっている!」ということが伝わるような,簡潔な答案を心がけたいところですね。
Ⅰ(1)
問題の設定は複雑ですが,丁寧に読み解いていくと「ただの荷電粒子の運動」の話だとわかるはずです。
以下の点にしっかりと気をつけましょう。
注意点
粒子の質量が $4m$,電荷が $2q$,円運動の半径が $\bun{a}{2}$
焦るとこういったところでミスが起こりやすいです。特に最初の問題は丁寧に解く習慣を。連鎖してその先が全てダメになることもありますからね。
Ⅰ(2)
原子物理の内容です。
半減期について考える内容ですが,その場で考えて立式すれば難しいことはないでしょう。
底が $2$ の対数を考える必要がありますが,式変形自体はそこまで大変ではないはず。
Ⅰ(3)
運動量保存則とエネルギー保存則を連立する内容。
なんとしても確実に正解しないといけない問題です!
間違えるポイントがあるとすれば,粒子の質量くらいでしょうか。
こうした「多くの受験生が解ける問題」は配点が大きくなりやすいため,多少時間をかけてでも確実に答えを合わせにいくべきです。
Ⅱ(1)ア
原点で静止していた X が電場からクーロン力を受けて等加速度運動をする,というだけの話です。
等加速度運動なので公式を立てればよいですね!
まぁそれでもよいのですが,問われているのは「速さと移動距離の関係」なので,エネルギー保存則で十分です。
$$\Bun12\cdot4m(\alpha v\SUB{A})^2=2qEx_0$$という立式が最もシンプルです。
等加速度運動なら何でも公式,という考え方はやはりかっこ悪い。
問われているものによっては,適宜保存則を使って処理できるようにしておくことで大きく時間短縮できるはず。
Ⅱ(1)イ
こちらも等加速度運動の公式で処理できるのですが,「時間を問われている問題で,加えられる力が一定,速度の情報が得られている」という状態ですので,「運動量変化と力積の関係」を用いるのが最もスマートです。
求値を $t_1$ として,
$$4mv\alpha\SUB{A}=2qE\cdot t_1$$となりますね。
この立式で解いた受験生は少ないのではないでしょうか?
「分量が多くて時間が足りない!」という状況なわけですから,「なんでも公式!」とするのではなく,少しでも時間が短縮できるように工夫して立式することが重要です。
Ⅱ(1)ウ
座標系の変換の問題です。
$\rmX$ 静止系における $\rmA$ の分裂直後の速度が $(v\SUB{A}\cos\theta_0,\,v\SUB{A}\sin\theta_0)$,$\rmX$ 静止系自体の速度が $(\alpha v\SUB{A},\,0)$ ですので,静止系における $\rmA$ の速度は,
$$(v\SUB{A}\cos\theta_0,\,v\SUB{A}\sin\theta_0)+(\alpha v\SUB{A},\,0)=(v\SUB{A}\cos\theta_0+\alpha v\SUB{A},\,v\SUB{A}\sin\theta_0)$$
ですね。
転回が起こるためには,速度の $x$ 成分が負の値であればokです。
Ⅱ(1)エ
数学の問題です。
ウの条件を満たす $\theta_0$ が存在するためには(つまり,$\rmA$ が転回する条件が存在するためには),$\alpha<1$ である必要がありますね。
このあたりはもはや物理ではなく,数式処理です。
Ⅱ(1)オ
ここからは $\rmA$ について考えます!質量が $m$,電荷が $q$ に変化しているので気をつけましょう。
$\rmA$ は,$(x_0,\,0)$ から初速度 $(v\SUB{A}\cos\theta_0+\alpha v\SUB{A},\,v\SUB{A}\sin\theta_0)$ で運動し始めます。
ここから先は,$(qE,\,0)$ の力を受けて等加速度運動を行うので,等加速度運動の公式でゴリゴリ計算してもokなのですが,エネルギーを利用して議論するとスムーズです。
$x$ 軸方向のみの運動に注目します。
仮に原点まで到達するものとすると,原点における運動エネルギーは,
$$K=\bun12m(v\SUB{A}\cos\theta_0+\alpha v\SUB{A})^2-qEx_0$$となりますが,実際には原点に到達しない条件を考えたいので,「上の式で計算される $K$ が存在しない」という条件を考えればokですね。
形式的に,$K<0$ とかけますので,これを整理すればokです。
エネルギーの話なのに $x$ 軸方向のみを取り出して議論していたり,到達条件を数式でうまく処理していたりと,簡単なようで高度なことをやっています。
Ⅱ(1)カ
こちらも数学的な計算問題ですね。エと同様に考えればok。
Ⅱ(2)
$\theta_0=0$ と $\theta_0=\pi$ の場合を考える内容です。
初速度は $(\alpha\pm1)v\SUB{A}$ ですので,クーロン力の仕事を加えることでまずは検出器に到達した際の運動エネルギーを計算しましょう。
$\theta_0=0,\,\pi$ それぞれの状況での運動エネルギーを $K_0,\,K_{\pi}$ とすると,
$$\begin{aligned}K_0&=\bun12mv\SUB{A}\!^2\{-(\alpha-1)^2+6\}\\ K_{\pi}&=\bun12mv\SUB{A}\!^2\{-(\alpha+1)^2+6\}\end{aligned}$$
です。
ここから先は数学です。2次関数の最大最小問題なので,数学として考えれば決して難しくないでしょう。
ただし,$\theta=\pi$ のときは転回を考える必要があるため,$\alpha$ の範囲に注意が必要です。
まともに解くとかなり時間がかかりますね。
Ⅱ(3)
Ⅱ(2) の結果を解釈しましょう。
$$\begin{aligned}&\bun{3-2\sqrt2}{2}mv\SUB{A}\!^2\leqq K\leqq2mv\SUB{A}\!^2\quad\stext{……\ ①}\\ &\bun52mv\SUB{A}\!^2\leqq K\leqq3mv\SUB{A}\!^2\quad\stext{……\ ②}\end{aligned}$$が (2) の答えです。
このうち,② は $\theta_0=0$ における $K$ の範囲ですが,$mv\SUB{A}\!^2$ より大きくなっていますね。
一方で,$\theta_0=\pi$ である ① の運動エネルギーの範囲には,$mv\SUB{A}\!^2$ 以下が含まれています。
これより,$\theta_0$ が $\pi$ に近い角度で分裂が起こった際に,検出器で検出される $\rmA$ の運動エネルギーがより小さくなることが期待されます。
続いて,$\alpha$ についても考えてみましょう。
① の不等式の下限は,$\alpha=\sqrt{2}$ すなわち $x_0=L$ に対応しています。
つまり,より検出器に近い場所で分裂が起こった際に,検出器で検出される $\rmA$ の運動エネルギーがより小さくなることが期待されます。
$T\ll\bun{L}{v\SUB{A}}$ の状況では,大半の $\rmX$ が原点付近で分裂してしまい,上記の2つを満たす $\rmX$ の割合は非常に低くなることが予想されますね。
よって,$T\gg\bun{L}{v\SUB{A}}$ の場合が答えになります。
これをまとめて記述すれば答えになりますが,まとめるのが大変…!
より正確な議論
試験時間内にここから先の議論まで考えるのは時間的に厳しいでしょう。Ⅱ(2) から結論を予測し,「きっと計算するとそうなるんだよね!」と考えて答案を書くのが無難と思われます。
上の解答で十分であるものと思われますが,本当に正しいのか数式でも確認しておきましょう。
$\theta_0$ の方向に分裂した $\rmA$ の静止系における速度は,$(v\SUB{A}\cos\theta_0+\alpha \SUB{A},\,\SUB{A}\sin\theta_0)$ でした。
検出器に到達するまでに $qE(L-x_0)$ だけ仕事をされるため,検出器における運動エネルギーは,
$$\begin{aligned}K&=\bun12m\!^2\{(v\SUB{A}\cos\theta_0+\alpha v\SUB{A})^2+(v\SUB{A}\sin\theta_0)^2\}+qE(L-x_0)\\ &=\bun12mv\SUB{A}\!^2(-\alpha^2+2\alpha\cos\theta_0+5)\end{aligned}$$
として得られます。
よって,考える条件 $K<mv\SUB{A}\!^2$ を整理すると,
$$\alpha^2-2\alpha\cos\theta_0-3>0$$という不等式になります。
この不等式について,$\alpha,\,\theta_0$ を変数とみて考えていきます。
$y=\alpha^2-2\alpha\cos\theta_0-3$ は,軸が $\alpha=\cos\theta_0$,$y$ 切片が $-3$ の放物線ですので,概形は次の通りです。
$y>0$ となるためには,軸である $\cos\theta_0$ がより小さく(より $\cos\theta_0=-1$ に近く),$\alpha$ の値がより大きい(より $x=L$ の近くで分裂する)必要があることがわかりますね。
期待通りの結論が得られました!
第2問
手書き解答
東大2023_2Ⅰ(1)
答えのみでもよいでしょう。状況を整理するために,手書き解答では等価な状況を図示しました。
Ⅰ(3)
回路図はかいておくとよいでしょう。キルヒホッフの第二法則も部分点が期待されるため,記述しておくのが望ましいかと思います。
Ⅰ(4)(5)
もはや部分点が与えられる途中式がないため,答えのみでもよいでしょう。
Ⅲ(2)(3)
後半の穴埋め問題,計算問題であり,配点が非常に低いことが予想されます。いずれも1点だとすると,答えの点数しかないため,答えのみ記述しました。
Ⅰ(1)
図からして複雑なのですが,「導線のどの場所でも,同じ方向に導線と磁束密度が直行している」ことに気付けば見通しが立ちやすいでしょう。
この時点で,導線を伸ばしてしまって等価回路を考えられると非常に後が楽になります。
導線の長さが $l=2\pi rN$ であることと合わせて,$V_1=lv_0B_0$ として答えが得られます。
なお,この設問と同じ考え方をする問題が 1984年東大物理の第2問で出題されています。
その問題が鉄緑会高3の過去問演習のセットで使用されているのですが,なんとも平均点が低い!
本問と全く同じ内容が最初の設問となっているのですが,符号が間違っていたりで正答率が非常に低いのです。
その点を踏まえると,本問も最初の設問でありながら正答率は決して高くない(むしろ低い)と考えられます。
しかしⅠ(5)の設問以外には影響しません!自信を持って答えられなくても,気持ちの切り替えも重要です!
Ⅰ(2)
マイケルソン干渉計と同様の内容です。
いきなり波動の問題になって焦るかもしれませんが,難しくないので落ち着いて。
鏡 $\rmM_1$ で反射される光と,鏡 $\rmM_2$ で反射される光の干渉を考えるわけですが,鏡 $\rmM_1$ が動くことで光路差が変化します。
光は鏡とハーフミラーの間を往復するため,鏡が $z$ 動いたときに光路差がその2倍だけ変化するのが注意点ですね。
光路差が $\lambda$ 変化するごとに位相差が $2\pi$ 変化することを踏まえて立式しましょう。
Ⅰ(3)
回路がとにかく複雑なので,わかりやすい「いつもの回路」をかくのが大切です。
この際,$V_1,\,V_2$ の向き,電流の向きに気をつけましょう。
上のような回路図がかけたら,キルヒホッフの第二法則を立てるのは簡単じゃないですか…?
$$V_1+V_2=RI$$と難なく立式できますよね。
複雑な回路
必要な部分を取り出して,簡潔な回路図を自分でかく。
今後もこうした出題は増えると思われるため,適宜「わかりやすい状況」に整理していくことを意識しましょう。
合力についても (1) で利用した簡易的な図を用いると便利です。
図から,
$$F=(m+M)g-T-lIB_0$$であることがすぐにわかりますね。
Ⅰ (4)
時間が十分経過して,円盤が静止したので,$F=0,\,T=Mg,\,v=0$ として考えればokですね。
さらに,$v=0$ であることから,$V_1=0$ となることがわかります。キルヒホッフの第二法則を踏まえると,
$$V_2=|V\SUB{A}|$$が得られるので,あとはこれを整理していくだけです。
Ⅰ(5)
こちらは計算問題ですね。
使える文字に注意しながら,整理しましょう。
Ⅱ(1)
前半の内容で疲れてしまっている人も多いかと思われますが,ここで話が完全に切り替わります!
つまり,Ⅰの内容がさっぱりでも解けるということ!!
やはり「全ての問題に目を通すこと」は非常に重要ですね。
さて,問題については「必要な部分のわかりやすい回路図をかく」ことがやはり重要です。
上の図がかければ,
$$V+RI_2=R\SUB{H}I_1$$と立式するのは難しくないでしょう。
磁場については問われているのが「大きさ」であることに注意して立式するだけです。
ここは絶対に落としたくないところですね。この年のセットの数少ない癒やし系問題です。
Ⅱ(2)
こちらの設問も問われていることは実はシンプルです。
$H=0$ であることを利用し,(1) で立てた式を整理していけばよいのですが,途中で式が足りないことに気づくはず。
この状況で立てられる式といわれたらキルヒホッフの第二法則くらいですから,立式できそうな部分を探しましょう。
容易に $AV=R'I_3$ にたどりつけるはずです。
Ⅱ(3)
ただの計算問題!
しかも数値設定も良心的で,さほど時間をかけずに答えが得られるはずです。
Ⅱ(2) まで解けていれば,ややサービス問題になるのですが,時間との兼ね合いで正解できた受験生は非常に限られていたものと思われます。
前の設問の結果を利用する際には,「全ての文字が本当に定数か,値が変わるものがないか」を必ず確認!
まとめ
結局,Ⅰ で立式しているのは「運動方程式」と「キルヒホッフの第二法則」,Ⅱ で立式しているのは「キルヒホッフの第二法則」がメインです。
回路の一部分が動く問題では,運動方程式とキルヒホッフの第二法則を連立するのが定石ですので,本問も決して特別なことはやっていないのです。
解説されると「なんだ,そんなことなのか」と感じる受験生は多いはず。
こうした問題にもスムーズに対応できるよう,日頃から「必要な部分だけのわかりやすい回路図をかく」「前半がわからなくても後半の問題に目を通す」といった実践的な部分を意識しておくことが大切でしょう。
第3問
手書き解答
東大2023_3Ⅰ(1)について
思いの外難しい問題です。自信がなければ途中経過は詳細に記述してもよいかと思います。
Ⅱ(1)
下線部の理由説明を求められていることから,穴埋めについては説明が不要とも捉えられます。答えのみでokでしょう。
Ⅱ(2)
沢山途中経過をかきたくなる問題ですが,簡潔な答案を心がけたいところです。「物質量の総和が保存される」というポイントが伝わる内容にしましょう。
Ⅲ(2)について
厳密に説明しようとするとこちらもかなり煩雑な答案になります。「わかっている!」ことが伝わるような答案を完結にかきたいところです。
Ⅲ(3)について
最後の設問であり,かつ選択問題なので,配点は非常に少ないことが予想されます。答えのみでよいでしょう。
Ⅰ (1)
ピストンの仕事について問われているので,素直にピストンに注目です。
ピストンの移動距離を $\varDelta x$ とすると,外力 $F$ の仕事は,
$$W=F\varDelta x=(p-p_0)S\varDelta x$$と計算できます。
$S\varDelta x$ は風船の体積変化に等しいので, あとは計算すればokです。
あまり慣れていない計算かもしれませんが,「微小量の二次以上の項を無視する」という計算は頻出ですのでしっかりと確認しておきましょう。
最初の設問から「典型的」とはいえない内容で,かなり戸惑った受験生も多いはず。
Ⅰ(2)
「表面積を大きくするのに要した仕事」ですので,問題文で与えられた $\varDelta W=\sigma\varDelta S$ を計算すればokです。
Ⅰ(3)
(1) と (2) が解けていればさほど難しくないはず。
$$p=p_0+\bun{2\sigma}{r}\quad\stext{……\ ☆}$$という簡潔な結論が得られます。
Ⅱ(1)
だいぶ複雑な話になってきますね。
まず,2つの風船の半径をわずかに変化させています。☆より,半径が小さくなると圧力が高くなることがわかりますね。
よって,小さい風船の圧力が大きい風船の圧力より高くなるため,気体分子が「小さい風船→大きい風船」へと移動します。
これによって,小さい風船はさらに小さくなり,圧力が上昇するため,さらに内部の気体分子の移動が続きます。
最終的に,小さい風船は潰れてしまうわけですね。
Ⅱ(2)
使える文字に $r\SUB{A},\,r\SUB{B},\,r\SUB{C}$ が含まれているので,「変化の前後を比較するような式を立てるのだろう」という予想が立てられます。
気体の状態変化の前後で立式するものといえば,状態方程式ですよね。
今回は代表的な状態変化ではなく,気体の総物質量が保存されていることに注目して立式することになります。
状態方程式は,
$$\left(p_0+\bun{2\sigma}{r}\right)\cdot\bun43\pi r^3=nRT\ (=\text{(一定)})$$になりますので,こちらを利用して立式すればok。
見慣れない話が続きます。解説を聞くと「なんだそんなことか」と感じられると思いますが,本番の受験会場で時間に追われて解くのには非常に難しい問題でしょう。
Ⅲ(1)
これは難しい!
時間との相談ではありますが,解法がぱっと思いつかなければこれ以降は飛ばしてしまうのが得策でしょう。
ただし,簡単にで良いので目を通すのは忘れずに!(2)も(3)も当てずっぽうでも答えだけはかけますからね。
「片方の風船を少しだけしぼませて手を離すと,すぐに元に戻るのでは?」と考えたくなります。
直感的にはそんなイメージですが…。
しかし,最終的に2つの風船の大きさが等しくならなかったということは,「少しだけしぼませた風船はさらにしぼんだ」ということです。
風船の大きさの変化は,Ⅱで考えたように「圧力の差が生じることによる,気体分子の移動」として考えましょう。
つまり,「少しだけ片方の風船をしぼませたことでその風船の圧力が上がり,他方の風船へと気体分子が移動することでさらにしぼんだ」ということがわかりますね。
ということで,$r$ の微小変化に対する $P$ 変化の振る舞いを知りたいわけですので,$\Bun{\dP}{\dr}$ を調べる,というのは自然な流れでしょう。
$$\Bun{\dP}{\dr}=\bun{2a}{r^4}(3r_0-2r)$$ですので,$r\SUB{D}$ の付近で $\bun{\dP}{\dr}<0$ であるためには,
$$r\SUB{D}>\bun32r_0$$であればよいことがわかります。
また,$\Bun{\dP}{\dr}$ を考えたことで,$r$ と $P$ の関係をグラフに図示することができます。
Ⅲ(2)
「必要なら図を用いてよい」といわれているくらいですから,グラフを用いて議論するんだろうな,という方針はすぐに立つでしょう。
(1) の状況から十分に時間が経った後の,2つの風船の半径をそれぞれ $r_1,\,r_2\ (r_1<r_2)$ としましょう。
風船の圧力は等しくなっているはずですので,グラフ上での $r_1,\,r_2$ の関係は次の通りです。
本問では,温度変化について考えていますので,温度 $T$ と風船の半径 $r$ の関係も確認しておきましょう。
状態方程式として,
$$\left(p_0+2a\bun{r-r_0}{r^3}\right)\cdot\bun43\pi r^3=nRT$$が成立するので,これを整理すると,
$$\bun43\pi\left\{p_0r^3+2a(r-r_0)\right\}=nRT$$が得られます。
これより,「気体の温度が上がると,風船の半径は大きくなる」ことがわかります。
では実際に気体の温度を上昇させて考えてみましょう。
気体分子の移動がないものとすれば,上で述べたように風船の半径はどちらも大きくなるはずですので,グラフ上で $r_1,\,r_2$ は次図のように変化します。
グラフから,「小さい風船は圧力が上がり,大きい風船は圧力が下がる」ことがわかりますね。
これより,小さい風船から大きい風船へと気体分子が移動することがわかります。
大きい風船はより大きくなりますが,小さい風船は大きい風船と圧力が等しくなる半径までしぼんでいきます。
大きい風船はより大きくなることがわかりましたので,最終的な両風船の圧力は元の状態より低いことがわかりましたね。
難しい!記述するのも難しいです。「わかっている」ことが伝わる答案作成を心がけましょう!
$$\begin{aligned}\bun43\pi\left\{p_0(r_1\!^3+r_2\!^3)+2a(r_1+r_2)-4ar_0\right\}=nRT\end{aligned}$$
が成り立つ。
圧力が上昇するとすれば,$r_1$ は大きく,$r_2$ は小さくなるが,$r_2$ の減少量のほうが大きく,上式の左辺は小さくなる。
これは $T$ が上昇して右辺が大きくなることに反するため,圧力は低下することがいえる。
Ⅲ(3)
ちゃんと考えて解答するのは相当難しいでしょう。
とりあえず答えをかいておくか,ということでそれっぽいグラフを選ぶにしても ⑥ は選びづらいと思いますので,正答率は相当低いことが予想されます。
難易度的には流石にステモンでしょう…。
気体の温度と風船の半径について考える内容です。
これまでの内容から,「温度を上げると大きな風船はより大きくなり,小さい風船はしぼんでいく」ことがわかっています。
この時点で ① と ③ は除外できますね。
続いて,温度を下げると両風船の圧力は上がり,体積が $\bun32r_0$ で一致することがわかります。
体積が一致した後,さらに温度を下げるといずれの風船も等しい半径を保ちながら小さくなっていきます。
これより,④ もしくは ⑥ のいずれかが正解であることがわかります。
なんとなく,④ のほうがそれっぽい形にみえますが…。
ここから先が難しいです。
$r=\bun32r_0$ 付近での議論がむずかしく,全体で考えようにも,
$$\bun43\pi\left\{p_0(r_1\!^3+r_2\!^3)+2a(r_1+r_2)-4ar_0\right\}=nRT$$の扱いが非常に難しいです。
どうしてややこしいのか,を考えると…。
なぜ難しいかというと,$r_1,\,r_2$ の2変数になっているからです。
どちらか片方だけで考えられないかな…
$T\to\infty$ では,$r_1\to r_0$,$r_2\to\infty$ であることがわかっています。
ということは!$r_2$ に対して $r_1$ を無視することができますね。
すると,
$$\bun43\pi\left(p_0r_1\!^3-2ar_1\right)\fallingdotseq \bun43p_0\pi\cdot r_1\!^3=nRT$$の関係が得られます。
定数を整理すると,$r_1=kT^{\frac13}$ ですので,
$$\bun{\dr_1}{\dT}=\bun13kT^{-\frac{2}{3}},\ \bun{\d^2r_1}{\dT^2}=-\bun29kT^{-\frac53}<0$$と計算できます。
これより,$r_1$ のグラフが上に凸であることがいえるので,⑥ が正解だとわかります。
難しい!!試験時間内にここまで考えられる受験生は果たしているのでしょうか…。