はじめに
物理の学習の難しさ
学習塾に通っているとあまり感じる場面はないかもしれませんが,自力で学習を進めていると実感するのではないでしょうか。
「物理って,自分で学習をすすめるのが難しい」
そうなんです。物理は学習計画を立てるのが非常に難しい。
そして1周目の学習ではほぼ間違いなく「ブツリワケワカラン」という状態に陥るため,自分の勉強方法が間違っているのではないかと不安になるのです。
そんな「ブツリワケワカラン」という状態から1人でも多くの人が抜け出せるよう,物理の学習の進め方についてまとめました。
この記事を読めば「ブツリワケワカラン」から抜け出す方法が明確にわかります!
物理の特徴
他科目と比較した物理の特徴
他の科目と比較して,物理は科目としての特徴な特徴が3つあります。
順番に,以下に紹介していきます。
① 最初は理解し難い
物理以外の科目だと
勉強をすると,比較的すぐに成績が上がる科目があります。英語などがその良い例でしょう。
単語や熟語を覚えれば読める文章も増えますし,英作文での表現の幅も広がります。
化学や生物,文系科目もそれに近いでしょう。
勉強して覚えた知識がテストに出れば,そのまま点数に反映されるはずです。
こうした傾向は特に初学のうちは顕著です。知らない知識がどんどん増えていくので,学力も一気に伸びて「勉強した分,力も付いている!」というのが実感しやすいのが特徴です。
最初に習ってすぐのテストは勉強した分だけ点数も伸びるし,気持ちよく進められます。
一方,ある程度の実力が付いてしまうとそこから先は勉強量がそのまま実力に反映されるとは限らず,「以前は勉強して得意になったはずだったのに,思うように力が伸びなくなってきた…」と感じるようになります。
確かに,高3になって過去問演習をするくらいの段階から,あまり実力が伸びているという実感がなくなってきました…。
勉強した時間(学習の進捗度)と,力が付いているという実感(試験の点数)は以下のようなグラフのイメージです。
一方で物理は…。
物理は初学の段階で「わけがわからない…!」となります。
羽白も初学の時点では物理に強い苦手意識を持っていました。1周目の時点で「物理わかりやすい!得意!」と思える人は天才。
なんとなく全体像が見えない。とにかく「掴みどころのない」感じがして,よくわからないなぁ,となるのが一般的なのです。
しかしそうはいっても,世の中「物理が嫌い!」な人だらけではありません。
物理が嫌いなぴよぴよ学生だらけだったら羽白も困ってしまいます。
物理が好き,得意という人もたくさんいますよね。
では,「物理が得意!」という人は,どこで物理を好きになるのか。
それは,「2周目の学習で理解を深め,問題演習量も増えた段階」であることが多いでしょう。
羽白が物理を好きになったのも2周目でした。
「よくわからないなぁ」と思いながらも1周目を踏ん張って,2周目以降で理解を深めていければ,一気に力が伸びていきます。
この「一気に伸びるポイント」を乗り越えられるかどうかが全てなのです。
学力が伸びるポイント
初学の際,物理は「よくわからない」という状態になるのが普通。それを乗り越えて,2周目以降で理解を深めると一気に力が伸びる時期が必ずやってくる。
② 高みを目指すなら「理解」が不可欠
2次試験レベルでの高い力を付けるために
学校の試験や共通テストで9割を取る,というレベルであれば,教科書どおりの理解,問題演習を徹底的に行うだけで十分です。
しかし,2次試験レベルの難しい問題を難なく解けるようにしていくためには,「しっかりとした理解」が特に重要になります。
そのためには,「他人に説明できるレベルで理解する」ことが大切です。
- 知っている公式を自分の言葉で説明できるようにする。(可能なものは)導出もできるようにする。
- 解いた問題はただ答えを確認するだけでなく,「その方針にたどり着いた根拠」も含めて説明できるようにする。別解や補足の内容も確認し,あらゆる視点から問題の内容を紐解く。
といった点を心がけて学習を進めると良いでしょう。
羽白も教える立場になってから,理解が深まった内容がたくさんあります。
理解を深めるために
公式などの基本事項にしても,解いた問題にしても,「人に説明できる」ように頭の中を整理する。
更にその上を目指すなら
東大物理も余裕で解けるように,というレベルの話です。
ここを目指すのであれば,公式の成り立ちから理解を進めていくことになります。
このレベルで初めて「微積物理」という話が出てきます。
微積物理についてはこちら!
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微積物理【使うか使わないかではなく,どこまで使うか】
よく話題になる「微積物理」云々に関して。
現役で東大理Ⅲ合格した経験,鉄緑会で長年物理を教えた経験から,考えをまとめました。続きを見る
③ 論理が全て。発想は不要。
数学では
数学では,どうしても「なぜその方法を取ったのか」が説明できない問題があります。
たまたまひらめいたから,手を動かして実験してみたらそうなることが予想されたからなど,「この状況ならこれ!」というのが決めきれないことも多々。
一方で物理は
全ての問題で「なぜそうやって解いたのか」が説明できます。
「こういう状況で,問題でこれを問われていて,だからこの式を立てる」というのが全て理論的に説明できるのです。
そもそも物理には「発想」というものが不要でしょう。
羽白が数学の講師ではなく,物理の講師になった理由の1つもこれ。どんな内容も道筋を立ててわかりやすく説明できるのが物理の魅力。
「なんとなく問題を解ける」という段階から,「根拠を持って解いて,人にも説明できる」ようになると実力も飛躍的に上がります。
④ 独学が難しい
参考書を読んで,自力で理解するのがとにかく大変。
市販の参考書をさくさく読んで,自力で予習するスタイルで物理をすんなり習得できた人ってかなり少ないはず。
羽白も数学は1周目は独学で高校範囲を全て学習しましたが,物理に関しては鉄緑会のカリキュラムに沿って1周目の学習を進めました。
特に波動の単元の「進行波」や「定在波」は,動画を見ることによってイメージが得やすいため,参考書を読んで自分一人で全て理解をするのが困難でしょう。
まずは学習塾や,学校の授業で先生の説明を聞いて,復習していくスタイルで1周目の学習を進めるのがオススメです。
自力でやろうとしないのが正解。
でも塾に通えないし,学校の先生もなんだかわかりにくいし。そんなときはどうしたら…?
そうなんです。そういうときに困ってしまいます。
映像付きで,視覚的にわかりやすい講義も見れる参考書があれば…。というところですよね。
そんな教材を作成するため,羽白は現在「物理のトリセツ」「物理基礎のトリセツ」を執筆中です。
物理の独学
1周目を参考書を読んで独学で進めるのは難しい。やろうとしないのが正解。
学習の進め方
何周もすることが前提
物理の特徴として,「1周目でぱっぱらぱーになる」という点を挙げました。
ぱっぱらぱーのままでは困るので,必ず2周目以降が必要になります。
1周で全てを理解しようとしないことが大切です。
1周目から「志望校が難関大だから,微積を使って本格的な物理を勉強していこう」というのは無理。仮にそれができる天才だとしても効率が悪い。
1周目はまずは公式を使いこなせるように,基本問題を解けるように。
そして2周目以降で解ける問題の難易度を上げつつ,原理や公式の理解を深めていくのです。
わからないことはすぐに聞く
問題が解けないときに,考え込んでしまってすごく時間が経ってしまうんですよね…。
1周目の段階では,「わからない!」と思ったらすぐにわかる人に質問しましょう。
塾に通っているのであれば,塾の先生に聞いてしまうのが一番。
自分で解決できないことも多いでしょうし,仮にできたとしてもものすごく時間がかかります。
そういった意味で,物理に関しては塾に通うことも重要ですね。
通塾の必要性についてはこちら!
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大学受験に向けて塾に通うべき?
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一方で,2周目以降では「じっくり自力で考えて,理解を深める」というステップが重要になってきます。
わからない内容を持ち合って,友達同士で議論をするのもよいでしょう。
友達がわからなくて困っている内容を自分が説明することで,自分の頭の中も整理されます。
それでもわからないとき,合っているか不安なときは先生に聞きます!
物理の学習の進め方
何周もすることで理解を深めていく。1周で終わらせようとしない。
1周目は特に,わからない内容についてはすぐに先生に質問する。
1周目の学習
万人に共通すること
1周目はとにかく深く考えすぎないこと。
教科書的な理解(公式暗記)でも十分なので,とにかく1通り学習して,基本的な問題を解けるようにすることが目標です。
公式の成り立ちなど,気にしていてはキリがないですよね!サクサク進めます!
問題集を解く際も,解説の「別解」や「補足」といった内容が理解出来なくても「問題は解けたしok!」と割り切るのも大切です。
全ての内容を完璧にしようとせず,基本問題の答えを合わせられるようにする。これが何よりの目標です。
難関大受験を考えている場合
2周目以降につながるように1周目の学習を進めましょう。
ある程度は微積を取り入れたり,理解できる部分は公式の成り立ちを理解していく,といった方法が効率的です。
とはいえ深入りは厳禁。考えてもわからない内容,導出が難しい公式もたくさんあるので,そういった部分は2周目以降で理解していくとして割り切りましょう。
使用する参考書
塾に通っているのであれば塾の教材,通っていないのであれば,学校で配られる問題集を使用するのが良いでしょう。
1周目は教科書傍用の問題集で十分です。
1例として,市販の問題集では「リードα物理基礎・物理」などがオススメです。(市販ではありませんでした)
1周目の学習の問題点
1周目に合った「問題集」は上に述べた通りですが,理解するための「参考書」は最適なものがありません。
丁寧な解説,動画解説が付いている参考書が理想です。
この位置づけの参考書として,羽白が「物理基礎のトリセツ」「物理のトリセツ」を執筆中です。
1周目の学習
深く考えすぎずに,公式を使いこなして問題の答えを正しく求められるようにする。意味や導出がしっかり理解できなくても,「そういうもの」と割り切って覚えてしまうことも許容。
2周目の学習
理解を深める
1周目は,一通り全ての範囲を学習して「公式を使えるようにすること」が目標でした。
2周目は,その「理解を深める」ことが重要になります。
自分の言葉で説明できない内容は理解できていないも同然なのです…。聞いて分かったつもりになっているだけ…。
「人に説明できるかどうか」である程度理解度が確認できますので,物理が苦手な友達に一通り教科書レベルの内容を説明して教えてあげる,といった方法も有効でしょう。
問題を解く際にも,ただ答えを出すだけではなく,問題の内容を説明できるまで理解しましょう。
その際,以下のポイントに力を入れると良いでしょう。
ポイント
- なぜその式を立てたのか(なぜエネルギー保存則を立てたのか,など)
- 関連事項と結びつける(台が固定されている問題であれば,動く状況ときはどうなるのか,など)
こうした理解が深まっていけば,「ブツリワケワカラン」という状態から脱することができ,一気に実力が伸びていきます。
この時期が学習していて最も気持ちの良い期間でしょう。
解く問題の難易度を1ステップ上げる
理解を深めながら,いきなり解く問題を難しくすると心が折れるので,使用する問題集は標準的な内容のものでokです。
学習が順調に進んでいるのであれば,「物理のエッセンス」などがオススメです。
難関大を目指すなら
物理の学習が順調な場合,難関大を目指す場合には,発展的な問題集に取り組むのも良いでしょう。
「名問の森」や「重要問題集」がオススメです。
羽白は重要問題集を使っていました。
使った問題集は徹底的に理解する
解き進める際には,とにかく理解を徹底すること。
2周目では「たくさん問題を解く」ことよりも,「1冊の問題集を完璧に仕上げること」が重要です。
使用する問題集も1回解くだけでなく,解けなかった問題は時間を空けて必ず解き直すようにしましょう。
「この問題集に載っている問題なら,どれでも絶対に解ける!」という自信を持てるようになるまで,3周目以降に進まないように。
2周目の学習
基本事項,解いた問題の内容を,自分の言葉で説明できるように理解する。使った問題集は全ての問題が解けるようになるまで徹底的に解き直す。
3周目以降
さらに理解を深める
2周目同様,更に内容の理解を徹底していきます。
問題を解く段階から「なぜその式を立てたのか」を意識し,曖昧な部分は時間をかけてじっくり考えて理解しましょう。
答えを見る段階で「合ってるかなぁ…」と不安なうちはまだまだ。
「どう考えても合ってるでしょ,なんならもう自分で解説できるわ。」くらいの状況を目指します。
問題集は入試レベルのものを
2周目よりも更に難しい問題集に取り組みましょう。
どのレベルのものになるかは学習状況,志望大学によって大きく異なってくるため,一概にオススメできるものはありません。
2周目で標準的なものを使用したのであれば,「名問の森」や「重要問題集」を3周目として利用するのも良いでしょう。
難関大学志望であれば,「標準問題精講」や「難問題の系統とその解き方」がオススメです。
羽白は高2のときに「難問題の系統とその解き方」を使いました。
量も大切
3周目以降にもなれば,基本事項はある程度身についているでしょうし,「この問題は解けたし,理解しきれたからok!」とスムーズに進められる問題も増えてくるでしょう。
解き直しに割く時間もだんだん減ってくることが予想されるため,問題数をこなしていくことも重要です。
学習の進度と実力の関連
順調に学習が進んでいる場合,「学習の進度」と「実感できる実力」の関係は以下のグラフのようになるでしょう。
理解を深める学習
より高みを目指すなら欠かせない
難関大学の入学試験の後半の問題を時間内に解けるようになるためには,「ただ問題を解く」だけでなく,基本事項を「しっかりと理解する」ことが必要不可欠です。
どんな問題も明確な根拠を持って解く必要があり,そのためには「原理を理解している」ことが重要です。
合っているか不安な問題も,自分で根拠を考えられるようになると自信が持てますね!
2周目以降は問題演習に並行して「理解を深める」作業を進めましょう。
知っている公式,解いた問題は「自分の言葉で説明できるようにする」。これでかなり実力が伸びるはずです。
簡単な例
例えば以下のような問題を考えてみましょう。
例
高さ $h$ の位置から小球を自由落下させたとき,地面に達するまでの時間を求めよ。
1周目なら
等加速度運動の公式から $h=\bun12gt^2$ と立式して求める人が大半でしょう。
これで答えが出せれば十分です。公式を正しく使えて,答えが合っていることが重要。
2周目以降なら
「等加速度運動」であり,「時間を求める問題」であることに注目します。
「等加速度運動」だから公式は使える。けれど「時間を求める問題」だから,運動量変化と力積の関係も使えるな。
地面に落下するときの速さ $v=\sqrt{2gh}$ は覚えているからこれを使って,
$$mv=mg\cdot t$$でok。
といったように,式を立てた根拠を明確にし,複数の解法を考えます。
上の話を読んで,「運動量変化と力積の関係を使う考えはなかった!」と思う内はまだまだ理解が浅い…!
ここで,「ちなみに,距離を考える問題は仕事と相性がよいから,エネルギー保存則が使いやすいんだったな」という関連事項まで思い出せれば完璧。
オススメの参考書
「新物理入門」や「理論物理の指標」といった書籍がオススメです。
が,いずれもかなり難しい内容。東大物理や京大物理を余裕で解けるようになりたい,というレベルの人以外は不要でしょう。
羽白の経験から
羽白は高3の学習で「新物理入門」を使用していました。
高3の1年間を振り返ると,問題を解く時間と同じくらいに「公式の導出」や「悩んだ問題をじっくり考える」といった作業に時間を充てていました。
「新物理入門」も手を動かして3周したことで見える世界が変わり,難しい問題も根拠を持ってスラスラと解けるようになりました。
過去問演習
入試本番と同じ形式で演習する
問題集を解く際には,じっくり考えながら,理解を深めながら解いていくことが重要だというのはこれまでに述べた通りです。
一方で,過去問演習では「入試本番と同じ形式で,同じ環境下で演習する」ことが重要です。
本番と同じ環境で
- 化学とセットで合計時間を計って解く。
- 解答用紙の形式も本番と同様のものを使用する。
「化学と物理,どちらを先に解くか」「大問はどの順番で解くか」「記述はどのくらい書くか」といった内容も考えながら,実践的な演習をしていきます。
高3の1年間で,東大形式の理科のセット演習は50回以上行いました。本番は「あ-,いつもの形式ね。」という安心感。
類題の確認,基本事項の確認もセットで
答え合わせをしたら,関連事項などをまとめて復習します。
曖昧になっていた知識事項の整理や,類題の確認(学習が順調に進んでいれば,似た問題がどの問題集に載っていたかすぐに思い出せるはず…)を行いましょう。
使用する参考書
大学の過去問は様々な入手方法がありますが,年度をさかのぼりすぎると形式や出題範囲が変わってきてしまいます。
東大や京大などであれば模試の過去問が販売されているため,それらを有効活用すると良いでしょう。
可能であれば,知り合いの先輩などから過年度分も入手できるとより使える問題が増えますね。
まとめ
物理の学習の進め方についてまとめました。
物理には他科目と比較して,以下のような特徴があります。
物理の特徴
- 最初は理解し難い。「ブツリワケワカラン」になるのが普通。
- 理解を深めることで実力が一気に伸びる。
- 問題を解く際に「発想」は不要。すべて論理的に説明できる。
- 独学で習得するのが難しい。
これらを踏まえ,何周も学習し直しながら,螺旋階段を登っていくように理解を深めていくのが物理の学習方法となります。
1周目は「深入りしすぎずに基本事項を確認し,公式を使いこなして基本問題を解けるようにする」,2周目は「理解を深めながら,自分の言葉で説明できるよう状態を目指す。1冊の問題集を徹底的に理解する」ことが重要です。
3周目以降に進める場合は,問題数も増やしながら効率的に学習を進めていくのが良いでしょう。少しでも曖昧な曖昧な部分はとにかく基本に戻って,頭の中の整理です。
過去問演習は本番と同じ条件下で。化学とセットで,時間を計って,同じ解答用紙で。何度も何度も慣れるまで繰り返し演習しましょう。