浮力
アルキメデスの原理
アルキメデスの原理というものをご存知でしょうか?
液体の中に沈む物体に働く浮力に関する,以下のような性質のことです。
アルキメデスの原理
流体中の物体は,それが排除している流体が受けていた重力と等しい大きさの浮力を鉛直上向きに受ける。
「流体」やら「排除」やら,なんだか難しそうですが…。
深く考えず,ひとまず現段階では『浮力は「流体が受けていた重力」』というのがわかればokなのです。
図を用いながら具体的に考えてみましょう。
単位体積($1\mmm$)あたりの質量のことを密度と呼びます。単位はその定義からわかるように,$\punit{kg/m^3}$です。
さて,密度(単位体積あたりの質量)が $\rho\punit{kg/m^3}$ の液体の中に,体積が $V\mmm$ の物体が沈んでいるとします。
物体に作用する浮力を考えるにあたっては,「物体がある場所にもともとあった液体が受けていた重力」を考えてしまえばよいのです。
物体がある場所にはもともと体積が $V\mmm$ の液体が存在していたわけですが,その質量は $\rho V\kg$ と表現できます。
この質量 $\rho V\kg$ の液体がもともと受けていた重力の大きさは $\rho Vg\N$ ですから,液体の中に沈む物体が受ける浮力は鉛直上向きに $\rho Vg\N$ になります。
浮力
密度が $\rho$ の液体の中に沈む体積が $V$ の物体は,鉛直上向きに $\rho Vg$ の大きさの浮力を受ける。
今回は液体の例で説明しましたが,気体についても同様のことが成り立ちます。
また,完全に沈んでいない物体の場合は「液体の中に沈んでいる部分の体積」で考えればokです。
例題
密度が $\rho_0$ の液体の上に,断面積が $S$,高さが $h$,密度が $\rho$ の物体が浮かんでいる。このとき,水面上にとび出している部分の高さ $x$ を求めよ。
物体の体積は $Sh$,質量は $\rho Sh$ であるから,物体に作用する重力は鉛直下向きに $\rho Shg$ である。
物体のうち,液体に沈んでいる部分の体積は $S(h-x)$ なので,物体に作用する浮力は鉛直上向きに $\rho_0S(h-x)g$ である。
力のつり合いより,
$$\rho_0S(h-x)g=\rho Shg$$が成り立つので,これを解いて,
$$x=\left(1-\bun{\rho}{\rho_0}\right)h$$
さて,上の問題のように込み入った問題になると「浮力は $\rho Vg$」という暗記が通用しません。
公式として覚えてしまってもよいですが,「$\rho$ は物体ではなく液体の密度」「$V$ は物体のうち,液体内に沈んでいる部分の体積」という点をしっかりと理解しておきましょう。
答えの吟味
物理では答えの吟味が非常に重要です。それぞれの文字に意味があるわけですから,その答えが何を意味しているのか,という点を常に考える習慣をつけておくとよいと思います。
今回の答えは,
$$x=\left(1-\bun{\rho}{\rho_0}\right)h$$でしたが,物体が液体の上に浮かんでいるわけですから,$x>0$ でなければいけません。
これに答えの式を代入して整理すると,
$$\rho_0>\rho$$という条件式が導かれます。
これは「物体の密度が液体の密度より大きいと,浮かぶことができずに沈んでしまう」ことを意味しているわけです。
弾性力
弾性力とは
次にばねが物体に及ぼす力を考えます。小さい頃にばねで遊んだり,小学校の実験で使ったことがあったりと,実感が湧きやすい力なのではないかと思います。
具体的にイメージできるとわかりやすいですね!
ばねを伸ばすと元の長さに戻される向きに,逆にばねを縮めると元の長さに戻すように押し戻される向きに力が働く,というのは皆さんご存知かと思います。
ばねが伸び縮みした際に物体に及ぼす力を弾性力と呼びます。
また,上で「元の長さ」と述べたように,ばねには基準の長さ(自然長)が決まっています。
では,力の大きさは…?
引っ張れば引っ張るほど強い力で引き戻され,押し込めば押し込むほど強い力で押し戻される,というのも感覚的に理解しやすいと思います。
実験してみればわかることなのですが,この力の大きさはばねの自然長からの伸び・縮みの大きさに比例することが知られています(フックの法則)。
この比例係数をばね定数,または弾性定数と呼び,$k\punit{N/m}$ で表します。
ばねが自然長から $x_1\m$ 伸びている場合には縮める方向に $kx_1\N$ の力が,自然長から $x_2\m$ 縮んでいる場合には伸びる方向に $kx_2\N$ の力が作用する,ということです。
このように,伸びている場合,縮んでいる場合でそれぞれ向きを考えてしまえば困ることはないのですが,座標を設定して議論をしなければいけないこともあるので,そちらの考え方も例題を通して確認しておきましょう。
座標を設定した向き付きの議論
例題
水平面上に,ばね定数$k$ のばねにつながれた物体がある。ばねが自然長となる位置を原点とし,ばねが伸びる向きに $x$軸を定める。物体の位置が $x$ のとき,物体に作用する弾性力を求めよ。
ばねが自然長から伸びている場合,縮んでいる場合でそれぞれ考えましょう。
ばねが伸びている場合
力の作用図は図の通りになります。
このとき,$x>0$ ですから,ばねの伸びは $x$ です。
弾性力は $x$軸負の向きに $kx$ となりますが,力もベクトル量であって $x$ 軸と同じ向きを正の向きとして考えるのがルールですので,$f=-kx$ と表現することになります。
ばねが縮んでいる場合
力の作用図は以下の通りです。
このときも「右向きに $kx$!」と言いたくなる気持ちはわかるのですが,$x$ が負であることに注意してください。たとえば $x=-10$,というような状況なわけですが,「右向きに $-10k$!」と言ってしまってはまずいですよね。
右向きに負の値,ということは,結局左向きに正の値をとることになってしまって,向きがおかしなことになります。
「右向きに◯◯!」というからには,◯◯の部分が正の値になるようにしなければいけませんね。
そのためには,$x$ ではなくその絶対値 $|x|$ を使えばよいのですが,$x<0$ であることがわかっているので $|x|=-x$ を利用して絶対値を外してしまえばよいのです。
結局,右向きに $-kx$ ということになるので,$f=-kx$ になります。
以上をまとめると,$x$ の正負に関わらず $f=-kx$ と表現できることがわかります。
ばねが伸びているときも,縮んでいるときも,符号付きで考えれば1つの式でまとめて考えられるのは便利ですね。
弾性力
ばね定数$k$ のばねにつながれた物体について,自然長の位置を原点,変位を $x$ とするとき,物体に作用する弾性力は,
$$f=-kx$$