力学 物理

滑車における束縛条件

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師
物理基礎のトリセツ著者
数学のトリセツ共著者

束縛条件とは

羽白

友達にこんなことを聞かれたとしましょう。どのように答えますか…?

束縛条件?

恋人に「束縛が強い」って言われちゃって…。一体,どこからが「束縛」になるの…?

考え方は人それぞれですよね。

一般に,世の中の半数以上の人が「束縛されている」と感じ始める条件のことを束縛条件と呼びます

…というのは冗談です。

ふざけすぎです,いい加減にしてください。

生徒

でも一般に「束縛」っていわれたら,まずはその「束縛」を思い浮かべませんか…?

しかし,物理で扱う「束縛条件」はそうではありません。

生徒

「運動に課される幾何学的制限」のことを束縛条件と呼びます。

こう表現すると難しく聞こえますが,「糸が伸び縮みしない」「物体が床から浮き上がらない」といった条件のことです。

特に,「滑車が絡む問題」「動く台の上を物体が運動する問題」で利用することが多いので,それぞれについて確認していきましょう。

滑車が絡む束縛条件 ①

「糸が伸び縮みしない」という条件を数式で考えます。

例題

天井から固定された定滑車の両端に,物体Aと動滑車が繋がれている。動滑車には,糸を介して物体Bと物体Cが繋がれている。いずれの物体も静止している状態からそっと手を離すと,各物体は運動を始めた。各物体の加速度を図の向きに $\alpha,\,\beta,\,\gamma$ とするとき,$\alpha,\,\beta,\,\gamma$ が満たす関係式を求めよ。ただし,滑車の摩擦は無視でき,糸は伸び縮みしないものとする。

定滑車に注目した議論

まずは図のように定滑車に注目します。

糸を介して,右側に物体A,左側に動滑車が繋がれています。

物体Aの加速度が上向きに $\alpha$ であることがわかっていますが,動滑車の加速度はどうなるでしょうか?

たとえば,$\alpha=10$ なのに,動滑車の加速度が下向きに $300$ だったら,明らかに糸がちぎれて(あるいは伸びて)しまいますよね。

糸がちぎれないためには,動滑車の加速度が下向きに $\alpha$ である必要があります。

つまり,糸の両端に繋がれた物体の加速度は,大きさが等しく,互いに逆向きである必要があるのです。このことは感覚的にも明らかでしょう。

動滑車に注目した議論

続いて,動滑車に注目します。

動滑車は下向きに $\alpha$ で加速している状況ですが,$\alpha,\,\beta,\,\gamma$ の間には何らかの制約が必要ですよね。

たとえば,$\alpha=2$,$\beta=200$,$\gamma=5$ だとしたらどうでしょう?

生徒

「動滑車と物体Cはほとんど加速しないのに,物体Bだけ下向きに勢いよく加速している」ということですので,明らかに糸がちぎれてしまっています。

よって,動滑車についても「糸が伸び縮みしない」という制約を考えないといけません。

羽白

しかし,こうなると多くの学生が悲鳴を上げてしまいます。

確かに滑車が動いているので非常にややこしいんです。

でも,滑車さえ動かなければ簡単でしたよね?「糸の両端に繋がれた物体の加速度は,大きさが等しく,互いに逆向きである」として考えることができました。

視点を変えて

そこで,滑車が動かないように,滑車と共に動く視点から考えてみましょう。滑車と共に動くので,滑車は静止して見えます。

一方で,物体B,物体Cについては,滑車に対する相対運動を考えないといけません。

相対運動の加速度は,「(相手)$-$(自分)」で求めることができましたね。今,動滑車と共に動く「自分の視点」の加速度は下向きに $\alpha$ です。

この視点に対する物体B,物体Cの相対加速度はそれぞれ,$\beta-\alpha$,$\gamma-\alpha$ とかくことができます。

ここまでの話から,次のような図をかくことができます。

これで「滑車を止める」ことに成功しましたので,あとは「糸の両端に繋がれた物体の加速度は,大きさが等しく,互いに逆向きである」という条件を数式にすればokです。
$$\gamma-\alpha=-(\beta-\alpha)$$ですね。よってこれを整理した,
$$2\alpha=\beta+\gamma$$が求める束縛条件になります!

滑車が絡む束縛条件 ②

別の考え方も紹介しておきます。

手を離してから $\varDelta t$ だけ時間が経過すると,各物体は加速度の向きに $\bun12\times\stext{\hspace{-.5em}(加速度)}\times(\varDelta t)^2$ だけ移動します。よって,変位の比は,
$$\Bun12\alpha(\varDelta t)^2:\bun12\beta(\varDelta t)^2:\bun12\gamma(\varDelta t)^2=\alpha:\beta:\gamma$$です。

加速度の比と等しくなることがわかりますね。このことを利用して束縛条件を導いてみましょう。

糸のたるみを考える

まず,物体B,Cを固定して,物体Aだけを動かして考えます。

物体Aが上向きに移動した距離と同じだけ,動滑車は下向きに移動しますね。すると,動滑車にかかっている糸がたるみます。

動滑車が下向きに下がった距離と同じだけ,「左右それぞれに」たるみが生じることに注意しましょう。

たるみの回収

しかし実際には糸はたるみませんので,物体Bと物体Cを動かしてこのたるみを回収しましょう。

物体Bと物体Cの移動距離は,比を利用して考えればokです。

両側のたるみが回収されるため,図より,

$$2\alpha=\beta+\gamma$$が成り立つことがわかります。

先程と同様の束縛条件を求めることができましたね!

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