力の種類
場の力と接触力
このセクションでは,具体的な力を学習していきます。まずはじめに,大きく分けて力が2種類存在することを理解してください。
力の分類
① 場の力:物体が場から受ける力
物理基礎の範囲では重力のみが該当する。力の作用図をかくときに反作用が存在しない。
② 接触力:接触している物体から受ける力
場の力以外のすべての力。ばねの弾性力,張力,垂直抗力,静止摩擦力,動摩擦力,浮力など。必ず作用・反作用がセットになって存在する。
これらの力について具体的に順番に学習していきます。
力の単位
力の単位は $\punit{kg}$,$\punit{m}$,$\punit{s}$ を用いると $\mathrm{[kg\cdot m/s^{2}]}$ とかけますが,これをまとめて1つの単位 $\punit{N}$(ニュートン)として扱います。
重力
万有引力の法則と重力
あらゆる物体はお互いを引きつけ合う力(万有引力)を及ぼしていることが知られています。これが有名な「万有引力の法則」ですね。
ニュートンが木から落ちるりんごを見てこの法則にたどり着いたといわれています。
羽白は木から落ちるりんごを見ても「あーあ,食べれるりんごが1個減っちゃったよ…」くらいのことしか考えられません。
この法則からわかる通り,地球と地球上の物体はお互いを引きつけ合う力を及ぼし合っています。
このうち,地球が地表付近の物体を引っ張る力は,場所によらず一定であると考えることができ,その大きさは物体の質量 $m\kg$ に比例する形で $mg\N$ になることが知られています。
この力のことを重力と呼んでいます。
ここで出てきた $g$ は,等加速度運動のところで学習した重力加速度 $g$ です。また,重力の向きは必ず鉛直下向き(地面に向かう向き)になります。
重力
質量 $m$ の物体は,鉛直下向きに大きさ $mg$ の重力を受ける。
垂直抗力
垂直抗力とは
接触している物体同士はお互いを押す向きの力を及ぼし合います。
地面に立っている人が地面にめり込んでいかないのも地面が人を支える(上向きに押す)力を及ぼしているためですし,壁によりかかった人が壁にめり込んでいかないのも壁が人を支える(横向きに押す)力を及ぼしているからです。
このような力を垂直抗力と呼びます。向きは接触面に対して垂直な方向です。
向きだけじゃなくて,大きさも教えてほしいのですが…。
垂直抗力の大きさは問題を解いてみないとわかりません!重力 $mg$ のように,「必ずこの形でかける」というものがないのです。
力のつり合いの式や,運動方程式を用いて計算してはじめて求まるので,最初に力の作用図をかく段階では何らかの文字($N$ や $R$ を用いることが多い)を使って自分で設定します。
慣れてくるとなぜか最初から垂直抗力を $mg$ やら $mg\cos\theta$ といきなりかく人が増えてしまうのですが,いかなる場合でも必ず力の作用図をかく際には垂直抗力を文字で設定するようにしてください。
作用・反作用の法則を踏まえて
垂直抗力の力の作用図をかく際には特に作用・反作用を意識するようにしてください。
物体Aが物体Bを押す垂直抗力を見つけたのであれば,必ず物体Bも物体Aに垂直抗力を及ぼし返している(反作用)ので,等大逆向きとなるように力の作用図にかき込みます。
問題へのアプローチ
では,具体的な問題を通じて,力の作用図のかき方,力のつり合いの式の立て方を見ていきましょう。
例題
図のように,質量 $m$ の物体Aが質量 $M$ の物体Bの上に置かれている。以下の問いに答えよ。ただし,重力加速度の大きさを $g$ とする。
物体Bが物体Aに及ぼす垂直抗力の大きさ $N_1$ を求めよ。
地面が物体Bに及ぼす垂直抗力の大きさ $N_2$ を求めよ。
こうした問題を解く際にはまずはじめに力の作用図をかきます。
この際,力の作用図は物体ごとに分けてかくようにしてください(かく際の手順はこれから説明します)。
これはとてもとても重要ですので必ず習慣づけましょう。
問題文の図はたいてい物体がまとまってかかれているので,力の作用図をかくときには問題用紙の図にかき込まずに,自分でイチからかく必要があります。
最初は面倒に感じるかもしれませんが,この点を徹底しないと絶対にどこかで痛い目にあいます。
今回の問題で比較してみましょう。
まずはすべてをまとめてかいた力の作用図です。
続いて,物体ごとにわけてかいた力の作用図です。
どちらがスッキリしているか,いうまでもないですよね。
まとめた力の作用図では,どの力がどの物体に作用している力なのかが非常にわかりにくいです。
力のつり合いの式も,運動方程式も,原則的に物体ごとに立式するわけですから,力の作用図をかく段階で物体ごとに整理してしまうと非常にスムーズなのです。
では物体ごとにそれぞれ力の作用図をかく手順を確認していきましょう。
物体Aも物体Bもまずはじめに,場の力である重力をかき込みます。次に,それ以外の力(接触力)を探していきます。
物体Aについて
物体Aは物体Bとしか接触していません。
落下していかないように物体Bに支えてもらっているわけですから,上向きの垂直抗力 $N_1$(物体Bが物体Aを支える力)が作用していることがわかります。
ということは,その反作用(物体Aが物体Bを押し返す力)も存在するわけですから,この段階で反作用も物体Bの力の作用図にかき込んでしまいます。
作用・反作用の法則を踏まえると,下向きに $N_1$ であることがわかりますね。
以上で物体Aの力の作用図が完成です。
物体Bについて
物体Bが接触しているのは物体Aと地面の2つですが,すでに物体Aとの間の垂直抗力はかき込んであります。
残っているのは地面との間の接触力ですが,やはり物体Bが地面にめり込んでいかないように,地面が物体Bを支えているので,物体Bは地面から上向きの垂直抗力を受けていることがわかります。これが $N_2$ になります。
これで2つの物体の力の作用図が完成しました。いずれの物体も静止しているので,力はつり合っているはずですから,いよいよ力のつり合いの式を立てていきます。
力のつり合いの式は2つの方向について立てるのが原則ですが,今回は水平方向の力は存在しないため,鉛直方向の力のつり合いの式のみでokです。
$$\text{物体A:\ }mg=N_1,\quad \text{物体B:\ }Mg+N_1=N_2$$
として立式できるので,これを解くことで,
$$N_1=mg,\ N_2=(m+M)g$$であることがわかります。
力の作用図のかき方
① 力の作用図は物体ごとにかく。問題文の図にかき込まない。
② 作用・反作用を意識して力のかき忘れがないようにする。
物体をまとめて考える方法
このように,「物体ごとに力の作用図をかいて,物体ごとに力のつり合いの式もしくは運動方程式を立式する」というのが大原則ですが,問題によっては「2つの物体をまとめて1つの物体として考えてしまう」という方法が楽なこともあります。
2物体をまとめて1つの系として考える,という表現をします。
先ほどの例題もその方法が使えるので紹介しておきます。
最初から物体Aと物体Bを質量が $m+M$ の大きな物体としてまとめて考えてしまいます。
この大きな物体と接触しているのは地面だけなので,力の作用図は図の通りです。
力のつり合いから,
$$N_2=(m+M)g$$
であることが瞬時にわかりますね。
離れる・離れないを考える問題
アプローチの仕方
「物体が地面から離れる条件を求めよ」といったように,2つの物体が離れる条件を考える問題があります。
2つの物体が離れるということは,「お互いに押せなくなる(押す必要がない)状況になった」ということです。垂直抗力が不要になった,ということですね。
逆に,2つの物体が接触しているときは,お互いに正の垂直抗力を及ぼし合っているはずです。
つまり,2物体が接触しているときは垂直抗力が正の値で,離れる瞬間に $0$ になるわけです。問題を解く際にはこれを利用して以下の通りに解きます。
離れる・離れない問題
- 2物体が離れていないと仮定して垂直抗力 $N$ を設定し,力の作用図をかく。
- 力のつり合いや運動方程式から具体的に $N$ を求める。
- 離れる瞬間に垂直抗力の大きさ $N$ が $0$ になることを利用して問題を解く。
まずは「離れない」と考えて,垂直抗力を求めればよいのですね!
こうした離れる・離れないについて考える問題は円運動の分野で出題されることが多いため,物理基礎の範囲ではあまり見かけないかもしれません。
しかし,出題されてもおかしくない内容ですので,しっかりと考え方は理解しておきましょう。
張力
張力とは
ぴんと張った糸が物体を引っ張る力のことを張力と呼びます。
向きは糸の向きと同じなので悩むことはないのですが,垂直抗力と同じで問題を解いてみないと大きさはわかりません。
未知数として扱うため,まずは $T$ などの文字で自分で設定する必要があります。力のつり合いの式や運動方程式を解くことではじめて求まります。
垂直抗力と同じで作用と反作用にも注意しましょう。
例題
図のように,質量が $m$ の物体Aと質量が $M$ の物体Bが糸につながれている。糸Pが物体Aに及ぼす張力の大きさ $T_1$ と,糸Qが物体Bに及ぼす張力の大きさ $T_2$ を求めよ。ただし,重力加速度の大きさを $g$ とする。
さて,また物体ごとに力の作用図をかくことからはじめていきましょう。今回は,物体A,物体Bと糸Qの力の作用図をかいていきます。
まずは場の力である重力をかき込んでいきます。このとき,糸の質量は $0$ なので,重力は働かないものとして考えます。
これは暗黙のルールですので,そういうものだと思ってください。
図
物体Bについて
物体Bに注目しましょう。物体Bは糸Qとつながれていますので,糸Qから張力を受けているはずです。
この大きさが $T_2$ ですので,これも力の作用図にかき込みます。
結局,物体Bは糸Qに引っ張ってもらっているから落下しないでその場に留まっている,ということになります。
この反作用を糸Qが受けるはずです。
物体Bを糸Qが引っ張る力が上向きに $T_2$ だったわけですから,糸Qが物体Bに引っ張り返される力(反作用)は下向きに $T_2$ になりますね。
では,糸Qが物体Aを引っ張る張力は…?
これは少し話がややこしいのですが,糸Qは軽い糸で質量が無視できることがポイントです。
質量が $0$ の場合,運動方程式は,
$$0\cdot a=f$$となり,加速度がいくつであっても必ず $f=0$ が成立します。
$f$ は合力を意味するので,$f=0$ は力のつり合いが成り立つことを意味していますね。
少し違和感があるかもしれませんが,質量が $0$ の物体では,常に力のつり合いが成り立つことがわかります。
すると今回の場合,糸Qに働く力は先ほど求めた「物体Bに引っ張り返される力:下向きに $T_2$」と,「物体Aに引っ張り返される力」のみですから,力のつり合いを踏まえると後者の力が「上向きに $T_2$」であることがわかります。
このように,質量が $0$ の糸については重要な以下の性質が成り立ちます。
軽い糸の張力
質量が無視できる軽い糸が両端の物体に及ぼす張力の大きさは等しい。
物体Aについて
最後に物体Aについて考えましょう。
上で述べた通り,物体Aを糸Qが下向きに引っ張る張力は大きさが $T_2$ ですから,力の作用図はずの通りであることがわかります。
ちなみに,糸Pについても先ほどと同じことがいえるので,天井を下向きに $T_1$ で引っ張ります。
以上で力の作用図が完成しました。
物体A,Bについてそれぞれ力のつり合いの式は,
$$\text{物体A:\ }mg+T_2=T_1,\quad \text{物体B:\ }Mg=T_2$$
となります。これより,
$$T_1=(m+M)g,\ T_2=Mg$$であることがわかります。
今回は最初なので,糸Qについて丁寧に考えましたが,実際に問題を解く際には「軽い糸が両端の物体に及ぼす張力の大きさが等しい」ことを頭の中で利用して,物体A,Bの力の作用図のみをかけばokです。
張力の向きが糸の張る方向と同じであることを踏まえると,力の作用図はスムーズにかけますね!
先ほどの垂直抗力の例題と同様,2つの物体をまとめて1つの大きな物体として考える方法もありますので確認しておきましょう。
1つの系として考える
物体A,Bをまとめて質量が $m+M$ の1つの物体であると考えることもできます。
このときの力の作用図は図の通りです。
力のつり合いより,
$$T_1=(m+M)g$$であることがわかりますね。
糸がたるむ・たるまないを考える問題
アプローチの仕方
先ほど垂直抗力で考えた,2つの物体が離れる・離れないを考えるのと同様に,張力についても糸がたるむ・たるまない条件を考える問題が出題されることがあります。
考え方は同様で,糸がピンと張っている間は物体を引っ張るので $T>0$ であり,たるむ瞬間に $T=0$ となります。
糸がたるんでいるときは数式上,$T<0$ とかくことができます。実際に問題を解く際には以下の手順で考えます。
糸が張る・張らない問題
- 糸がピンと張っていると仮定して張力$T$ を設定し,力の作用図をかく。
- 力のつり合いや運動方程式から具体的に $T$ を求める。
- 糸がたるむ瞬間に張力の大きさ$T$ が $0$ になることを利用して問題を解く。