物体に働く力
力について
いま学習している単元は「力学」です。名前の通り,「力」について学ぶ単元です。ここまでは速度や加速度などについて学んできましたが,ここからはいよいよ力について学びます。
いよいよ本題ですね!
なぜ力について学ぶかというと,物体に働く力がわかれば,後に学ぶ運動方程式を利用することで物体の運動の加速度を求めることができるからです。
加速度が求められれば,これまでに学習した内容を利用することで物体の位置を求めることができますよね。つまり,「物体に働く力から,物体の運動の様子を予測できる」わけです。
そのためにはまず,力について学ぶ必要があります。物体に働く力を考えて力の作用図を正確にかけることが第一歩です。
次に,力の作用図を元に運動方程式を立式する方法を学習します。
この手順が身に付けば物体の運動の加速度が計算できるようになるので,あとは等加速度運動の公式などを用いて速度や位置を考えていく流れになります。
これらの手順を一つ一つ丁寧にみていきましょう。
力の扱い方
力には向きと大きさがあります。たとえば重力という力がありますが,これは「鉛直下向きに大きさ $mg$」などと表現されることが多いです。
このように,力は必ず向きと大きさをセットで考えます。このことからわかる通り,力は向きと大きさを持つベクトル量です。
ということは,数学で学んだベクトルの足し算のように,2つの力のベクトルを足して1つの力として考えることもできますね!
複数の力を合成して,1つにまとめた力を合力と呼びます。
また,数学でベクトルを扱う際に成分で考えることが多かったと思いますが,力のベクトルもこれと同じように2つの方向に成分分解して考えることができます。
放物運動を学習した際に速度や加速度を2つの方向に分解して考えたのと同じように,力も2方向に分解して考えることができるのです。
力のつり合い
「力がつり合う」とは?
物体が静止しているとき,物体に働く力の合力は $\vec{0}$ になります。このような状況を,力がつり合っていると表現します。
「物体に働く力の合力が $\vec{0}$ になる」というと小難しく感じられますが,力がつり合うときは1つの合力で考えることはほとんどありません。
適切な2つの方向(直交する2方向で考えることが大半)を自分で設定し,その各方向の成分について力のつり合いの式を立式することが大半です。
簡単な例
机の上に教科書を置くと,教科書は机の上で静止します。このとき,「教科書に働く重力」と「机が教科書を支える力」がつり合っています。
前者は鉛直下向き,後者は鉛直上向きで,力のつり合いの式は,
$$\stext{(教科書に働く重力の大きさ)}=\stext{(机が教科書を支える力の大きさ)}$$
となります。
運動方程式
力がつり合わない場合
では,物体に作用する力がつり合っていない場合は…?
この場合,物体は静止できないため運動することになりますが,質量が $m$ の物体に加えられる力 $\vec{f}$ と,物体に生じる加速度 $\vec{a}$ の間には,
$$m\dvec{a}=\dvec{f}$$の関係が成立することが知られています。この関係式のことを運動方程式と呼びます。
運動方程式
質量 $m$ の物体に作用する合力 $\vec{f}$ と,加速度 $\vec{a}$ の間には,
$$m\dvec{a}=\dvec{f}$$の関係が成立する。
詳しくは後のセクションで学習します。
作用・反作用の法則
力は必ずセットで考える!
物体にはたらく力は,一方的に作用することはありません。
ある物体Aが物体Bに力 $\vec{f}$ を及ぼすとき,必ず物体Bは物体Aに同じ大きさで反対向きの力 $-\vec{f}$ を及ぼし返します。
このような力のことを反作用といい,この原理のことを作用・反作用の法則と呼びます。
「作用」「反作用」という名前の力があるわけではなく,「どんな力も必ずペアで存在していて,片方を作用,もう片方を反作用と呼んでいる」という意味である点に注意してください。
力の作用図をかくときは,必ずこの作用と反作用がセットになるように意識することが重要です。
作用・反作用の法則
物体Aが物体Bに力を及ぼすとき,物体Aは物体Bから等大逆向きの力を受ける。
作用・反作用の法則の具体例
例①:壁によりかかる人
疲れて壁にもたれかかっている人について考えてみましょう。壁によりかかることで壁から支えてもらえる(作用)ので,多少は立っているのが楽になります。
一方で,壁の視点に立って考えてみると,人からよりかかられていることで押される向きの力(反作用)を受けるはずです。
このように「壁が人を支える(押す)力」と「人が壁を押す力」はセットになっており,作用・反作用の法則が確かに成り立っていることが確認できます。
この際,どちらを作用として考えるかは自由なので,「壁が人を支える(押す)力」を作用,「人が壁を押す力」を反作用として考えてもokです。
作用と反作用が必ずセットになって存在している,ということが重要なのですね!
例②:スーツケースを引く
旅行に行く際,スーツケースを利用して荷物を持ち運ぶ人も多いでしょう。地面に置いて引っ張れるので便利ですよね。
このとき,スーツケースが動くのは人がスーツケースを引っ張る力(作用)があるからです。
逆にスーツケースを引っ張ると歩くのが大変になるのは,人もスーツケースに引っ張り返されて後ろ向きの力(反作用)を受けてしまうためです。
ここでも「人がスーツケースを引っ張る力」と「スーツケースが人を引っ張り返す力」がセットになっていて,確かに作用・反作用の法則が成立しています。
さて,ここまで力の性質について学習してきましたが,具体例を見てみないとイメージが掴みづらいと思います。
次のセクションで,具体的な力を学びながら,これらの性質について改めて確認してきましょう。
このセクションの内容を単独で理解するのはなかなか難しいので,ある程度理解できたら次のセクションに進んでしまって,具体例を通して理解を深めてください。