所感
総評:問題数,内容ともに易化。取り組みやすいセット。
前年までと比較して,内容量,難易度ともにだいぶ下がった印象です。
理解度が点数に素直に反映される,良問揃いのセットだったと考えられるでしょう。
絶対に解けないでしょこんなん,という難問もなく,時間さえかければ物理が得意な受験生は満点も狙えるはず。
実際の試験ではゆったり考える時間的余裕はないため,愚直に解くだけではなく,受験的なテクニックも組み合わせながら解いていくことの重要さが実感される内容になっています。
2022年全体の特徴
- 素直な問題が多い。理解度がそのまま点数に反映される。
- 差が付きやすい。前半のミスが致命傷になる。
- 解答数は減ったものの,依然として時間の制約が厳しい。
出題量について
前年までと比較してかなり減りました。
答えるものの数は「32個」であり,前年と比較して10個以上減っています。
しかしながら,問題の状況設定が複雑だったりと時間のかかる要素が多く,依然として「速やかに解き進める力」が重要です。
また,答えるものの数が減っているため,前半の問題には部分点が多く設定されていることが予想されます。確実に合っている自信がある問題は答えのみでも構わないでしょうが,自信がない場合,答えまでたどり着けなかった場合には丁寧に解答作成をして部分点を狙いにいきましょう。
内容について
全く見慣れないというような状況設定はなく,比較的どの問題も解きやすかったものと思われます。出題内容も素直な内容の印象です。
しっかりとした物理の実力があれば,40点は目指せるでしょう。
逆に,なんとなく物理を理解しているだけの状況だと時間もかかり,点数も伸びないはずです。非常に差が付きやすいセットだったといえます。
前半の内容で勘違いや初歩的なミスをしてしまうと後半も連鎖的に間違えてしまうような設定となっており,受験特有のテクニックも重要です。
総合力が点数に反映され,得るものの多いセットでしょう。
解く順番
問題の図を見た限りでは,どの設問も取り組みやすそうな印象です。
第2問はダイオードが出てくるため,少し取り組みにくそうな印象でしょうか。しかしながら,電磁誘導と回路という頻出の設定であるため,得意な人にとっては手を付けやすかったものと思われます。
第1問は惑星の内容になっているので,それだけで嫌悪感を抱く受験生も多かったように思います。
けれどそれは周りの受験生も同じ。変な問題が出ても,「周りの受験生も同じことを思っているだろう…」と落ち着けるだけの心の余裕が大切。
どの問題から解いても大きな差はなかったものと思います。
羽白が推奨する順番は以下です。
推奨解答順序
第3問 → 第1問 → 第2問
第1問:潮汐運動の解析。見掛け倒しだが数学的要素が少し強め。
一見すると惑星運動がテーマになっているように思いますが,万有引力の式$$f=G\bun{Mm}{r^2}$$くらいしか使いません。
問題文から状況設定を読み取り,空気を読んで解き進めていくことが重要な大問です。
高得点を取るための鍵を握るのはⅡ(1)でしょう。重心がテーマとなっており,慣れている人にとっては一瞬だけれども慣れていないと一苦労,という内容です。
この問題がすんなり解ければ,Ⅱ(3)の計算にも心の余裕を持って時間をかけて取り組めます。一方,この問題に時間をかけすぎてしまうとⅡ(2)以降を解く際に残り時間の少なさがプレッシャーとなり,計算ミスにもつながるでしょう。
Ⅱ(3)はやや計算が複雑ですが,それ以降の設問は時間をかければ難しくはないため,満点も目指せる内容です。
第2問:繰り返しの操作を含む定番問題。
ダイオードが含まれている問題なので難しそうに感じられますが,単純な整流作用の働きしかしないため,見掛け倒しな印象です。
まずは問題をみたときに「回路と電磁誘導の問題だ,ラッキー!」と思えるくらいに,この手の問題の演習を積んでいることが重要。
東大に限らず,電磁誘導絡みの回路の問題は入試全体で頻出のテーマですし,差が付きやすい内容ですので必ず深く理解して得意にしておくべきです。
設定はやや複雑ですが,それでもⅡ(5)までは状況整理を的確に行ってスムーズに立式できれば,短時間で正答が出せるはずです。なんとかしてⅡ(5)までは完答したい。
Ⅲは残り時間との相談ですが,回路の書き換えさえ適切に行えれば時間をかけずに解ける内容です。捨てるにしても,最後の $R_1=3R$ という答えはかくだけかいて部分点を稼ぎたいところ。
Ⅱ(4) を空欄で出したり,Ⅲ(2) の最後の問題を放棄するのはもったいない。記号問題はさっぱりわからなくても必ず答えをかく。最後の $R_1$ を答える問題も,なにかかくなら $3R$ ですよね…?
第3問:素直すぎてもいけない,気体分子運動論の問題。
気体分子運動論の問題は様々なモデルで入試に出題されますが,$$\bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$$という結論は必ず同じです。
つまり,「どこかで詰まっても,逆算して解いていける」。これをわかっているだけでもかなり有利。
気体分子それぞれで状態方程式が成り立つことを前提とすれば(まぁ直感的にそうですよね…),(3)は状態方程式を立てるだけの問題ですので,(2)が解けなくても正答できるはず。
そして(2)が解けている場合には(3)でその確認もできるため,間違えようのない問題ともいえるでしょう。(4)もわかっていれば秒殺ですよね。
はじめは Ⅰ(1) から解いていくのが良いにしても,わからなくなった段階で「どうせ結論は同じ!知っている式を使って解けるものから解いていこう!」という切り替えが大切です。そうすれば Ⅰ(3) や (4) は絶対に落とさないはず。
Ⅱは気体の微小変化の扱いに慣れているかどうかで差がついた内容だったと思います。とはいえ,立てられる式はエネルギー保存則と状態方程式くらいですからね…。とりあえず全部立ててみる,という方針でも(時間はかかるにしても)解けるはずです。
Ⅲ はただの定圧変化の問題。Ⅱ が解けていなくても必ず解きたい問題。扱いに慣れていれば,Ⅲ は本当に秒殺です。ここに時間がかかっているようではまだまだ。
Ⅲ に目を通しすらしていない場合は大反省です。
目標点
科類 | 第1問 | 第2問 | 第3問 | 計 |
---|---|---|---|---|
理Ⅰ・Ⅱ | 13点 | 14点 | 13点 | 40点 |
理Ⅲ | 19点 | 16点 | 17点 | 50点 |
参考資料
東京大学公式ホームページは以下です。
解答の作成方法など,東大物理の対策総論については以下のページもご参考に。
こちらもCHECK
-
東京大学 物理 傾向と対策
東大物理の傾向分析のページです。
試験時間の使い方や解答作成方法について,詳しく説明しています。続きを見る
難易度・配点
第1問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | A | 4点 |
(2) | A | 3点 | |
Ⅱ | (1) | B | 4点 |
(2) | B | 2点 | |
(3) | C | 2点 | |
(4) | B | 4点 | |
Ⅲ | C | 1点 |
第2問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | A | 4点 |
(2) | B | 2点 | |
Ⅱ | (1) | A | 2点 |
(2) | A | 2点 | |
(3) | B | 2点 | |
(4) | C | 2点 | |
(5) | B | 2点 | |
Ⅲ | (1) | C | 2点 |
(2) | C | 2点 |
第3問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | B | 5点 |
(2) | B | 2点 | |
(3) | B | 4点 | |
(4) | B | 2点 | |
Ⅱ | (1) | C | 2点 |
(2) | C | 2点 | |
Ⅲ | (1) | B | 2点 |
(2) | C | 1点 |
採点基準
第1問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 正答を得て | 各2点 |
(2) | 万有引力を正しく表して | 1点 | |
正答を得て | 2点 | ||
Ⅱ | (1) | 運動方程式を立式して | 1点 |
$a_1$ (または $a_2$)を求めて | 1点 | ||
正答を得て | 各1点 | ||
(2) | $x$ 座標を求めて | 1点 | |
$y$ 座標を求めて | 1点 | ||
(3) | 正しく立式して | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
(4) | 力の大きさを求めて | 各1点 | |
力の向きを求めて | 各1点 | ||
Ⅲ | 正答を得て | 1点 |
第2問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 正答を得て | 各2点 |
(2) | エネルギー保存則を立式して | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
Ⅱ | (1) | キルヒホッフの第二法則を立式して | 1点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 正答を得て | 2点 | |
(3) | 回路に電流が流れないと述べて | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
(4) | 正答を得て | 2点 | |
(5) | 電流が $0$ になると述べて | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
Ⅲ | (1) | 正答を得て | 各1点 |
(2) | $|v_2-v_0|$ を求めて | 1点 | |
$R_1=3R$ を得て | 1点 |
第3問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 1分子1回の衝突での力積を求めて | 2点 |
単位時間あたりの衝突回数を求めて | 2点 | ||
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 正答を得て | 2点 | |
(3) | 正しく立式して | 各1点 | |
正答を得て | 各1点 | ||
(4) | 正答を得て | 2点 | |
Ⅱ | (1) | 気体がされる仕事を求めて | 1点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 状態方程式を立式して | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
Ⅲ | (1) | 状態方程式を立式して | 1点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 正答を得て | 1点 |
第1問
手書き解答
東大2022_1Ⅰについて
あまりにも基本問題なので,答えに自信があれば答えのみも可。
Ⅱ(3)について
計算が多い問題です。答えはきれいな形になるので,たどり着ければ簡略化した答案で良いでしょう。自信がなければ部分点狙いで丁寧に解答を作成しておくべきです。
Ⅲについて
最後の設問で,配点が1点の可能性もあるため,どこまで書くかは難しいところ。
ひとまず答えが出たなら答えのみでも可。部分点を狙いに行くのであれば,近似の過程を書いておくべき。
Ⅰ(1)
癒やし系問題。
遠心力の問題では,「円運動の中心はどこか」を常に意識しましょう。
Ⅰ(2)
こちらも癒やし系問題。
問題文の指示にある通り,遠心力と万有引力の合力を考えればok。
Ⅱ(1)
重心周りを円運動する2物体の問題です。
重心については,東大でも出題頻度が高く,必須の理解事項となっています。重心については以下を再確認しておきましょう。
ポイント
重心から見た2物体の運動量の和は $\vec{0}$ なので,重心から見た2物体の速さの比は質量の逆比となる。また,重心からの2物体の距離の比も質量の逆比となる。
これを応用して,重心から見た2物体の移動距離の大きさの比が質量の逆比となることを 利用することが多い。
以上を踏まえて今回の問題の状況を整理します。
重心からの距離については,
$$a_1=\bun{M_2}{M_1+M_2},\ a_2=\bun{M_1}{M_1+M_2}$$
速さの比については,
$$v_1:v_2=M_2:M_1$$
が成り立ちます。
これさえわかれば,運動方程式から $v_1$ もしくは $v_2$ を求めて,比を用いて他方の速さを求める,という方針にすみやかにたどり着けるはずです。
この問題の方針を立てる際に1秒でも手が止まった場合には重心の復習を徹底的にしておきましょう。非常に差が付きます。
Ⅱ(2)
図1-2(b) を見ながら立式していけば難しくないでしょう。
三角関数の基本的な問題です。
これが東大数学の設問だったら「どうしてこんな簡単な問題…?」ってなりません?なのに物理で出題されると「難しい!」と言い出す人がたくさん。数学でできることは物理でも当たり前に。
Ⅱ(3)(4)
点 $\mathrm{X}$ やら点 $\mathrm{Y}$ やらの運動を考えるにあたっては,「フライングカーペット」のイメージがあるとわかりやすいでしょう。
点 $\mathrm{X}$,点 $\mathrm{Y}$ を結ぶカーペットが,重心 $\rmG$ と点 $\mathrm{O}$ を結ぶ軸によって回転しているイメージです。
すると,図に示す点 $\mathrm{A}$,点 $\mathrm{B}$ が浮かび上がってくるはずです。これが点 $\mathrm{X}$,$\mathrm{Y}$ の円運動の中心になりますね。
ここまでくれば,点 $\mathrm{X}$,$\mathrm{Y}$ の円運動の軌道が自然と見えてくるはずです。
あとはほとんど計算問題。
フライングカーペットを知っているかで差がつきますね。小さい頃には勉強だけでなく,遊園地でよく遊びなさい,という東大からのメッセージでしょうか(違う)
Ⅲ
計算問題です。時間との相談。
今回の問題はただ数値を代入するだけでなく,適切な近似が必要です。
微小量 $x$ についての近似式
$$(1+x)^{\alpha}\fallingdotseq 1+\alpha x$$
は頻出ですね。
なんとなく計算していてもたどり着かない式なので,「とにかく $(1+x)^{\alpha}$ の形を作る!」という意識を持って式変形していくことが重要です。
正しく近似をすると,最終的に,
$$\bun{2.0\times 10^{30}}{7.3\times 10^{22}}\cdot\bun{(3.8)^3\times10^{24}}{(1.5)^3\times10^{11}}$$
という数値計算にたどり着きます。
こんなの正確に計算している時間はないのでは…?
有効数字1桁の計算ですので,どこまで正確に処理するかは時間との相談。
$$3.8\fallingdotseq4.0,\ 7.3\fallingdotseq7$$
といった簡略化や,$1.5$ を $\bun32$ と書き換えて約分する,といった方法で素早く計算したいものです。
第2問
手書き解答
東大2022_2Ⅰ(1)
穴埋め問題なので部分点はないものと考えて答えのみ記述。
ただし,全体として問題数が少ない年なので,自信がなければ間違えたときの保険として途中式を書いておくことも可。
Ⅱ(3)
どう考えても $0$ なので,答えのみとした。$0$ になる理由まで記述し始めたらきりがない。
Ⅱ(4)
記号選択なので答えのみ。
Ⅲ(2)
$|v_2-v_0|$ については過程を記述するにしても,$R_1$ についてもかき始めるときりがないため,平方完成や相加相乗平均の関係を利用するなどの途中経過は省略した。
Ⅰ(1)
回路を貫く磁束を求めて,ファラデーの電磁誘導の法則から誘導起電力大きさを求めるという内容。
オーソドックスな設問なのですが,ミスをすると後半に響く可能性もあるので,丁寧に素早く解きたいですね。
Ⅰ(2)
Ⅰ(1)でジュール熱を求めている状況で,速さを求める設問になっているため,エネルギー保存則にたどり着くのは難しくないでしょう。
Ⅱ(1)
誘導起電力を含めたわかりやすい回路の形がかければ一瞬です。
この設問から,回路反時計回りの誘導起電力 $Lv_aB$ が,
$$Lv_aB>V$$
を満たしているときに回路に反時計回りの電流が流れることがわかりますね。
余裕があれば,答えを出すだけでなく,設問ごとに状況を整理しながら解き進めていきましょう。
Ⅱ(2)
回路の右辺に働く電磁力(ローレンツ力)を考えればokです。
すでに (1) で電流を求めているので,向きに注意して解答しましょう。
「変化を嫌う」わけですから,左向きの力が作用するのは当然ですね!
Ⅱ(3)
ダイオードの整流作用で,電流が流れないことに気づけば一瞬です。
自信が持てるはずですので答えだけでもokでしょう。
Ⅱ(4)
これまでの内容を総合的に考察する問題です。
すでに Ⅱ(2) で回路が受けるローレンツ力を求めているので,回路が1周あたりになされる仕事が,
$$W=-\bun{LBd(Lv_aB-V)}{R}$$
であることがわかりますね。
回路が負の仕事をされるわけですから,この $W$ の分だけ運動エネルギーが減少していきます。
気をつけないといけないのは,「1周するごとに速度が減少するので,$v_a$ が小さくなっていく」ことです。
これより,1周あたりに失う運動エネルギーも減少していくことがわかるため,③ のグラフが選べるわけです。
前の設問の結果を利用する際には,「全ての文字が本当に定数か,値が変わるものがないか」を必ず確認!
Ⅱ(5)
(4) からも,最終的に回路の運動エネルギーが一定になることがわかります。
(1) でも述べたように,回路に電流が流れるためには $Lv_aB>V$ である必要があるため,$v_a$ が $\bun{V}{BL}$ を超えると回路に電流が流れなくなることがわかりますね。
記述としては,「ローレンツ力が $0$ になる状況を考えて」などが適切ですが,文字数が多くなってしまってかくのに時間がかかるため,手書き解答では「$I\to0$ となるので」と記述しました。
解答の文字数の削減,大切です。
Ⅲ(1)
正しく状況が整理できたかどうかが全てでしょう。
本問のような複雑な状況では,必ず「わかりやすい回路の図」をかくようにしましょう。
この図がかけるかどうかが全てです。回路図さえかければ後はキル2を立てるだけですからね。
電位差を求める際は,電圧の三角形を導線に沿って足していけばokです。
この際,電圧を通していないダイオードがある場合にはその場所を避けるようにしましょう。ダイオードに電圧がかかっているためです。
回路さえかけてしまえば,キル2やらエネルギー保存則やらを立てるだけの単純な問題になりますね!
Ⅲ(2)
Ⅰ と同じ手順で,まずは $|v_2-v_1|$ を計算します。
$$\bun{B^2L^2d}{m}\left(\bun{1}{R_1}+\bun{1}{R_2}\right)$$
という値が出てくるはずです。
ここからはただの最大,最小問題。結局は,
数学なら
$x+y=6$ のとき,$\bun{1}{x}+\bun{1}{y}$ の最小値を求めよ。ただし,$x>0,\ y>0$ とする。
という問題に過ぎません。
難しいですか?数学の問題としてみたらアホみたいな問題じゃないですか?
物理だからって難しく考えずに,数学で当たり前にやることは物理でも当たり前にできるようにしておくべきです。
なお,物理では似た形の最大・最小を扱うことがよくありますが,
$$\bun{1}{R_1}+\bun{1}{R_2}=\bun{6}{R_1R_2}$$
と変形した上で,分母に対して相加相乗平均の関係を使う,という流れを知っていると便利です。
さて,この問題ですが,「残り時間10秒!とりあえずなにか答えをかいて!」と言われたら,どうしますか?
$R_1$ と $R_2$ には対称性があるわけですから,普通に考えて $R_1=R_2=3R$ のときに $|v_2-v_0|$ が最小になりそうですよね。
これくらいはちょっと考えればぱっとわかるはずですので,内容がさっぱりでもひとまず「$R_1=3R$ のとき」と,答えだけでもかいておくことが大切でしょう。
鮮やかに解く力も大事ですが,こうしたところで泥臭く1点をもぎ取る姿勢も受験ではとても大切。
第3問
手書き解答
東大2022_3Ⅰ(1)について
途中式をかき始めたらきりがない問題。計算用紙のつもりで最初から全て解答用紙上にかきながら答えを求めていくのもありか。
Ⅰ(2),(3)について
気体 $\mathrm{Y}$ については気体 $\mathrm{X}$ と同様に考えられるため,「同様に考えて」という記述で過程を省略した。部分点狙いの場合は詳細に論述すべき。
Ⅲ(2)について
単原子分子理想気体における定圧変化の性質$$Q^{in}:\varDelta U:W^{out}=5:3:2$$を利用して解いた場合,どこまで記述するかが難しいところ。
手書き解答では,$$\left(1+\bun32+\bun32\right)p_1V_1$$と立式したが,採点官に伝わるか怪しいため,答えのみの場合と大差ないかもしれない。
Ⅰ 全体として
気体分子運動論の問題として解き進め,
- 気体それぞれで状態方程式が成り立つ。
- 領域2の圧力は,各気体の圧力の和となる。
ことを確認する,というのが問題の流れですが,これらの結論が成り立つことは知っているでしょう。
ということで,(1) から順に解き進めながら,答えを確認していく,というのが正しい戦法ですが,どこかで詰まったら必ず後ろからも解けるようにしておくべきです。
気体分子運動論の結論 $\bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$ は,どんなモデルでも同じです。
気体分子運動論の結論
どんなモデルでも,気体分子運動論の結論は必ず同じ。
Ⅰ(3)
ということで,Ⅰ(3) からみてみましょう。
気体 $\mathrm{X}$ について,状態方程式が成り立つはずですから,
$$p_1(V_1+V_2)=RT$$
でなければなりません。この時点で (3) の答えが出ます。
Ⅰ(1)
気体 $\mathrm{X}$ の圧力について,$p_1S=F_1$ が成り立ちます。
さらに,エネルギー等分配則 である
$$\bun12m\overline{v_z\!^2}=\bun12kT$$
を用いることで,
$$F_1=\bun{RTS}{V_1+V_2}=\bun{m\overline{v_z\!^2}SN_{\mathrm{A}}}{V_1+V_2}$$
として答えが得られます。
気体 $\mathrm{Y}$ についても同様に考えることで,Ⅰ(2) と Ⅰ(3) の答えが出せます。
Ⅰ(4)
運動エネルギーの和として計算してもよいのですが(本来はそれが題意),ここまでの流れから,各気体について
$$U=\bun32RT$$
が成り立つことは明らかでしょう。
よって,暗算で答えが出せます。
Ⅱ(1)
微小変化についての問題です。
立てられる式は「状態方程式」と「エネルギー保存則」くらいしかないですし,解答に使える文字を確認したところで「エネルギー保存則だ!」とわかるでしょう。
定圧であれば,仕事は $p_1\varDelta V_1$ と計算できるのですが,今回は圧力が変化しています。
体積変化 $\varDelta V_1$ が微小であるため,「結局仕事は $p_1\varDelta V_1$ だ」とすぐわかるに越したことはないのですが,わからなくても「微小量の積は無視」に注目しましょう。
状態変化中の気体 $\mathrm{X}$ の圧力 $p$ は,
$$p_1<p<p_1+\varDelta p_1$$
を満たすので,気体がなされる仕事 $W=\int_0^{\varDelta V_1}pdV$ について,
$$p_1\varDelta V_1<W=\int_0^{\varDelta V_1}pdV<(p_1+\varDelta p_1)\varDelta V_1$$
が成立します。
微小量の2乗を無視すると,$(p_1+\varDelta p_1)\varDelta V_1=p_1\varDelta V_1$ となるため,$W=p_1\varDelta V_1$ であることが確認できますね。
あとはエネルギー保存則を立式すればokです。
Ⅱ(2)
立てられる式は状態方程式くらいですので,各気体についての状態方程式を変形していけば答えは出るのですが,気体の微小変化において,
$$\bun{\varDelta p}{p}+\bun{\varDelta V}{V}=\bun{\varDelta T}{T}$$
が成り立つことを知っているとスムーズです。
この式,知っていると役立つ場面が多いため,ぜひ覚えておきましょう。
微小変化で成り立つ式
微小変化において,$\bun{\varDelta p}{p}+\bun{\varDelta V}{V}=\bun{\varDelta T}{T}$ が成立する。
Ⅲ(1)
定圧変化であることがわかればあとは状態方程式で一瞬。
おもりやピストンが絡むときには定圧変化となることが多い,ということは知っておきましょう。
定圧変化
「ピストン」や「おもり」が出てきたら,定圧変化を疑う。
定圧変化であることに気づけないと,泥沼になる問題は多いので,必ず意識できるようにしておきましょう。
Ⅲ(2)
エネルギー保存則を使う内容です。
この際,「気体 $\mathrm{X}$ が定圧変化している」ことを使わない手はないでしょう。
定圧変化
定圧変化では,
$$Q^{in}:\varDelta U:W^{out}=C_p:C_v:R$$
が成立する。
特に,単原子分子理想気体のときは,
$$Q^{in}:\varDelta U:W^{out}=5:3:2$$
となります。
これ,本当に大事。何が何でも使えるようにマスターしておくべきです。
今回,気体 $\rmX$ が外部になす仕事は,$p_1V_1$ と計算できるため,
$$\varDelta U=\bun32p_1V_1$$
として瞬時に $\varDelta U$ が求まります。
気体 $\rmY$ は最終的に気体 $\rmX$ と温度が同じであり,物質量も等しいので,$\varDelta U$ も共通です。
以上を合わせると,
$$p_1V_1+\bun32p_1V_1+\bun32p_1V_1=\left(1+\bun32+\bun32\right)p_1V_1$$
が求める吸熱量であることがわかります。
説明するとやや長くなりますが,立式できるようになれば本当に一瞬で解ける問題が増えます。