目次
尽きない「医学部選び」の悩み

高校3年生の受験生が、志望医学部をなかなか決めきれずに悩むのは、ごく自然なことです。
医学部受験は、大学受験の中でも特に情報量が多く、しかも将来の人生に与える影響が大きい選択です。
そのため、「迷っている」という状態そのものが、決して悪いわけではありません。

むしろ、真剣に考えている証拠だと言えます。
鉄緑会での医学部受験指導
私が指導していた鉄緑会は「東大指導専門塾」というイメージを持たれがちですが、実際には医学部志望の受験生も数多く在籍しています。
私自身、講師として多くの医学部志望者を担当し、国公立・私立を問わず、さまざまな進路相談を受けてきました。
相談内容の多くは、「どの医学部を志望すべきか」「この偏差値帯ならどこが現実的か」といったものでした。受験勉強が佳境に入るにつれて、この悩みはより切実なものになっていきます。
なぜ医学部選びは「偏差値」になりがちなのか
教え子たちを見ていて、志望校決定の基準として最も多かったのは「偏差値」でした。
なんだかんだで「偏差値」で考えてしまう人が多いのは一体…
.png)
羽白が感じていた最大の理由は、「偏差値以外の情報にアクセスするのが極端に難しいから」です。
実際、その医学部を卒業した医師の話を直接聞いたり、複数の医学部の特徴を同じ目線で比較したりする機会は、受験生にとってほとんどありません。学校や塾で得られる情報も、入試方式や合格最低点、偏差値に集中しがちです。

その結果、「偏差値」以外の判断軸を持ちにくくなってしまいます。
医師の視点から医学部選びを考える意味
そこで本記事では、実際に医師として働いている私が、「医師になってから振り返って、医学部選びで何が重要だったのか」を整理してお伝えします。
偏差値を否定したいわけではありません。偏差値“だけ”で考えてしまう前に、もう一段深い視点を持ってほしい、というのがこの記事の目的です。
羽白の体験談

ここからは、私自身の体験談を紹介します。ただし、最初に断っておきますが、これはかなり特殊な例です。すべての受験生に当てはまる話ではありません。
条件が揃いすぎていた東大という選択
東大は偏差値的にも「これ以上,上がない」大学です。それまでの成績から,合格圏に充分到達していましたので,目指さない理由がありませんでした。加えて、自宅から近く、国立で学費も安いという条件も揃っていました。

多くの受験生が悩むポイントが、ほぼすべて解消されていたのが東大だった,ということになります。
そのため、志望校選びで深く悩むことはなく、東大のみを受験するという選択をしました。これは非常に恵まれた環境・状況だったと感じます。
鉄緑会の環境が志望動機に
鉄緑会という環境では、周囲も同じく東大を目指している人が多く、講師にも現役の東大医学部生が数多くいました。受験の体験談や大学生活の話を直接聞けたことは、「自分も東大医学部に行きたい」と思う大きなきっかけになりました。
また、身近に具体的なロールモデルがいたことは、勉強を続けるうえで大きなモチベーションにもなっていました。振り返ってみると、「志望校についての具体的な情報を自然に得られる環境」にいたからこそ、迷いが少なかったのだと思います。
多くの受験生が医学部選びで悩むのは、本人の能力や姿勢の問題ではなく、情報格差の問題だと感じています。
医師になってから「実はあまり関係ない」と思うこと

医師として働き始めてから、「受験生の頃ほど重要ではなかった」と感じる要素がいくつかあります。ここでは、その代表例を挙げます。
「私立」か「国立」か
卒業までにかかる学費は大きく異なり、これは現実的に無視できない問題です。

しかし、医師として働き始めてしまえば、私立か国立かで給料が変わることは基本的にありません!
「医師として働く」という視点に立つと、出身が私立か国立かは、思っている以上に関係ないと感じます。現場では、どこの大学を出たかよりも、どのように患者さんと向き合うか、どの程度努力を続けているかのほうが重視されます。
患者さんの立場としても,「学歴がすごい先生」よりも「真摯に向き合ってくれる先生」に診てほしいですよね。
.png)
医師国家試験の合格率の罠
私立医学部は医師国家試験の合格実績を重視する傾向があり、国家試験対策が手厚いことが多いです。ただし、「合格率」という数字だけを見るのは危険です。合格率を維持するために、留年を積極的に活用しているケースもあり、数字の裏側には見えない事情があります。

「この子は国家試験に受かりそうにないな」という学生を卒業試験で落として卒業できなくしてしまえば,合格率は当然高くなります。
「合格率が高い大学=優秀」という単純な図式は成り立ちません。たしかに、合格率100%の大学に在籍していれば医師になりやすい面はありますが、その数字がどのように作られているかは大学ごとに異なります。

単なる「合格率」だけでなく「ストレート卒業率」なども併せて見る必要があるわけです。
たとえば東大では、年によって合格率が平均を下回ることがあります。しかしそれは、教育や学生の質が低いからではありません。
医師以外の進路が決まっている学生が形式的に受験するケース(記念受験的な…?医師免許も取れたらラッキー,くらいの気持ちで)や、国家試験勉強を後回しにした結果、個人的な理由で不合格になるケースが多い印象です。
結局のところ、国家試験は大学よりも本人の姿勢に大きく左右されます。
偏差値
取得する医師免許は、どの大学を出ても同じです。医師としての給料も、出身大学の偏差値で直接決まることはありません。
有名な医師に高偏差値大学出身者が多いように見えるのは事実ですが、それは「偏差値が高い大学だから成功した」のではありません。高偏差値大学に合格できるだけの努力や能力を、医師になってからも継続して発揮している結果だと感じます。

一方で,一部の例外もあります。
しかし、東大や慶応など、一部の大学が持つブランド力はやや特殊です。優秀な同級生に囲まれる環境や、大学名そのものがキャリア形成に影響する場面があるのも事実です。
開業した際,「東大医学部卒」などの経歴は,患者数にも多少は影響があったりしますよね。
.png)
偏差値は万能ではありませんが、完全に無意味でもないと思っています。
医師になってからも「しっかり重視すべきだった」と思うこと

一方で、医師になってからも「この点は真剣に考えるべきだった,真剣に考えてよかった」と感じる点もあります。
できるだけ早く医師としてスタートすること
浪人そのものが悪いわけではありません。医学部に合格するために浪人することには、十分な意味があります。ただし、浪人した年数分だけ、医師として働ける期間が短くなるのも事実です。
医師という職業は、学ぶ期間も長く、実際に働ける期間が非常に重要です。そのため、「いつ医師としてスタートできるか」は、想像以上に大きな意味を持ちます。
特に、「第一志望に受からなかったから、第二志望に受かったけれど浪人する」という選択については、特別な事情がなければ一度冷静に考える価値があります。

先程述べた,ネームバリューがどうしても欲しい,といったような場合は「1年遅らせる理由」にもなり得ます。一方で,「第一志望じゃないのが悔しい!」という感情だけが理由の場合などには特にそうですね。
立地
医学部は6年間通う場所であり、卒業後もその土地に縁が続く可能性があります。出身大学の医局に入局する医師も多く、結果としてその地域が生涯の勤務地になることもあります。
「6年間だけ地方で」という考え方も否定はしません。実際に,医学部は地方で,就職は首都圏で,という医師も一定数居ます。しかし,その後も住み続ける可能性が少しでもあることを考えると、自分の生活感覚に合った土地かどうかを想像しておくことは重要です。
大学ごとの強み
将来やりたいことが明確であれば、それを強みとする大学を選ぶのは合理的です。留学制度、研究環境、教育方針など、大学ごとに特色があります。
ただし注意点として、受験から10年近く経つと、大学や医局の雰囲気は大きく変わる可能性があります。そのため、「今の情報」だけに頼りすぎない姿勢も必要です。
その他に医学部選びに影響する要因
受験科目
大学ごとに受験科目は異なりますが、「対策しやすいから」という理由で大学を選ぶのは本末転倒です。
まずは行きたい大学を決め、その大学に合わせた対策を計画的に行う。この順番を意識してほしいです。
歴史や伝統性
医師の世界では、「どこ大学出身か」が思っている以上につきまといます。同じ大学出身という理由で上級医に可愛がってもらえたり、患者さんが医師を選ぶ際に大学名を見ることもあります。
学費や偏差値だけでなく、「将来どう見られる可能性があるか」という視点も、現実的な判断材料の一つです。
迷っている高3受験生へ伝えたいこと
純粋に医師として働くだけなら、出身大学はほとんど関係ありません。一方で、大学名は良くも悪くも一生つきまといます。
だからこそ、「偏差値」だけで短絡的に決めるのではなく、できる限り情報を集め、自分なりに納得できる選択をしてほしいと思います。医学部選びは正解探しではありません。将来の自分が「この選択でよかった」と思える可能性を高めるために行うものです。

迷っている今の自分を否定せず、丁寧に考えて進路を決めてください。