所感
総評:全体的に易化。標準的な問題が増加。
どの分野も,標準的な問題が多く出題されました。「この問題は流石に難しすぎて解けない」という難易度の出題もなく,時間内に高得点を取ることも十分可能な内容です。
一方で,「立式の手順によっては計算量が多くなる問題」「正しく整理できればスムーズに解けるが,そうでないと解くのが難しい問題」が多く出題されたため,差がつきやすい内容であったともいえます。

東大入試としてはちょうどよい難易度に戻った,という印象。
大問によってかけるべき時間が大きく異なるというのも特徴的です。
第1問は「泥臭くても時間をかければ一定の高得点が取れる問題」,第2問は「正しく理解できれば短時間で高得点を取れる問題」,第3問は「標準的な難易度であり,しっかりと実力が反映される問題」という構成です。
全体として見ると「第2問をなるべく短時間で解答仕切り,余った時間を第1問にどれだけ回せるか」という戦いになるように思います。

第2問から解き初めて,25分以上使ってしまう,というのが最悪のパターン。
物理全体で70分程度,可能であれば65分程度で解き終えたいところ。
2025年全体の特徴
- 全体の構成としては標準的。65〜70分で高得点を目指せる。
- 大問によってかけるべき時間が大きく異なる。
- 解く順番の選定が難しい。重たい問題から手を付けてしまった場合の時間の使い方もしっかりとシュミレーションしておくことが重要。
出題量について
答えるものの数は「25個」とかなり少なめ。1問あたりの配点が大きくなるため,部分点がもらえない記号選択問題では差がつきやすいでしょう。
第1問の分量が解き方によって大きく異なるのが特徴です。系全体での立式ができた人にとっては「計算量が少なくて,時間にも余裕があった」と感じられるセットだったはず。
一方で問題文の文章量は多く,素早く状況を整理する力は依然として重要です。
内容について
全体的にオーソドックスな出題でした。

過去問演習をしっかりと行っていれば,解き慣れたようなセットだったのではないでしょうか。
どの大問も前半部分は時間をかけずに解答できる内容であり,いわゆる「東大物理!」という構成に戻った印象です。
第3問は力学と熱力学を融合させた問題となっており,典型的な問題の演習のみではやや対応が難しかったかもしれません。
単元をまたいだ大問の出題は近年多く見られているため,過去問演習でしっかりと慣れておく必要があります。
解く順番
パッと眺めると,第1問が一番取り組みやすそうに見えますが,実際は計算量が多く,最後に回すべき大問でした。
一方,第2問は見慣れない図が多く,分量も多いので最後に回したくなるのですが,結果としては最初に解くべき大問でした。
ということで,正しい順番で解くのが難しいセットだったといえるでしょう。
圧倒的に時間がかかる大問はなかったため,解く順番を間違えたことで大事故に至ることはないでしょう。しかし,第2問を最初にパッと終わらせられていれば心にだいぶゆとりができるのも確か。
第1問から解き始めた人は,立式まで確実に行って20分程度でいったん切り上げ,残りの大問を終わらせてから戻って来る,といった時間の使い方が理想です。

羽白は最初に時間を測って解いたとき,第1問から始めたのでだいぶ時間に追われました。
推奨解答順序
第2問 → 第3問 → 第1問
第1問:摩擦ありの剛体のつり合い,運動
見た目としては割とシンプルな系。解きやすそうな印象を受けるため,最初にこの大問を選んだ人も多いのではないでしょうか?
立てる式は「力のつり合い」「力のモーメントのつり合い」「運動方程式」と,どれもシンプルなものばかり。
立式の方法によっては時間がかかるので,他の大問でどれだけ時間を短縮してこの大問に回せるかが重要。

時間をかければある程度の得点は見込める大問でしょう。
ということで,「いかに時間をかけずに解けるか」という点で差がつくものと思われます。物体ごとに全ての力のつり合いを立てる人と,系全体で考える視点を持ち,全体での立式を行えた人とでは,かかる時間に大きな差が生まれます。
手書き解答で示した解答が最もシンプルな内容かと思いますが,試験場でここまできれいな答案を書き上げられたら完璧。しかし現実的には難しいでしょう。
他の大問との時間の兼ね合いを考えながら,可能な範囲でシンプルな立式を心がけて解き進めることが重要です。
第2問:コイルの内部に生じる磁場と電磁力
一見すると見慣れない図が出てきていたり,グラフがたくさん並んでいたりで大変そう。
しかし解いてみるとなんてことないものばかりです。15分程度で解けるところまで解き切るのが目標。

この大問をいかに短時間で,いかに高得点を取れるかが全体の鍵になります。
前半は,コイルが半分になった場合の磁場について。十分に長いコイルの内部に生じる磁場は公式として知っているはずですが,半分の場合については公式がありません。
誘導が丁寧なので,状況を把握して解答することはもちろん可能なのですが,コイルの内部の磁場を求める方法(積分を使う内容)を知っているとだいぶ気が楽になります。「コイルが半分になれば積分区間が半分になるから磁場の強さも当然半分ですわ」と思えた人は素晴らしい。
公式の導出は高校範囲を超えるものもあるため必ずしも全てを知っている必要はないのですが,こうした問題が出たときに余裕が生まれることは確かです。さっとでよいので,一度目にしておくことをおすすめします。
後半は回路と絡めた内容の問題。誘導が丁寧なので,しっかり読みながら考えていけば難しくはないでしょう。

全体的に割と見掛け倒し…!
第3問:力学と熱力学の視点から考えるエネルギー
力学と熱力学を程よい感じに融合させた問題です。
図もそこまで複雑ではなく,状況も理解しやすいため,この大問から解き始めた人も多いのではないでしょうか?
時間は20分程度かけて,解ける問題を確実に取ることが目標となるでしょう。
前半はシンプルな内容。Ⅰ(3)まではノンストップでスラスラと答えを出したいですね。

このあたりの大問で間違えてしまうと大きな失点になるので致命傷。
(4)は少々難しいですが,グラフの傾きに注目することができれば速やかに答えを出せます。
Ⅱは状況の整理が求められる内容。焦らずに図を用いたりしながらしっかりと「変化」を整理していくことが重要です。
(1)については多少時間がかかっても答えられるはず。(2)以降は少々難しくなるので時間との相談です…!
目標点
科類 | 第1問 | 第2問 | 第3問 | 計 |
---|---|---|---|---|
理Ⅰ・Ⅱ | 13点 | 14点 | 13点 | 40点 |
理Ⅲ | 16点 | 18点 | 15点 | 49点 |
参考資料
解答の作成方法など,東大物理の対策総論については以下のページもご参考に。

難易度・配点
第1問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | A | 3点 |
(2) | B | 3点 | |
Ⅱ | (1) | A | 3点 |
(2) | B | 2点 | |
(3) | B | 2点 | |
Ⅲ | (1) | B | 3点 |
(2) | B | 2点 | |
(3) | C | 2点 |
第2問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | A | 3点 |
(2) | A | 3点 | |
Ⅱ | (1) | A | 4点 |
(2) | C | 2点 | |
(3) | B | 4点 | |
(4) | B | 2点 | |
Ⅲ | C | 2点 |
第3問
設問 | 難易度(A〜D) | 配点 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | A | 4点 |
(2) | A | 3点 | |
(3) | B | 3点 | |
(4) | B | 2点 | |
Ⅱ | (1) | B | 3点 |
(2) | C | 2点 | |
(3) | C | 3点 |
採点基準
第1問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 力のモーメントのつり合いを立てて | 2点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 仕事を求める立式をして | 2点 | |
正答を得て | 1点 | ||
Ⅱ | (1) | 立式を正しく行って | 2点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 立式を正しく行って | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
(3) | 立式を正しく行って | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
Ⅲ | (1) | 力がつり合うことを述べて | 1点 |
立式を正しく行って | 1点 | ||
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 立式を正しく行って | 1点 | |
正答を得て | 1点 | ||
(3) | 立式を正しく行って | 1点 | |
正答を得て | 1点 |
第2問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 正答を得て | 3点 |
(2) | 正答を得て | 3点 | |
Ⅱ | (1) | 誘導起電力の大きさを求めて | 2点 |
正答を得て | 2点 | ||
(2) | 正しい選択肢を選んで | 2点 | |
(3) | 誘導起電力が不変であると述べて | 1点 | |
電流の大きさが半分になると述べて | 1点 | ||
正答を得て | 2点 | ||
(4) | 正答を得て | 2点 | |
Ⅲ | 正しくグラフをかいて | 2点 |
第3問
設問 | 基準 | 点数 | |
---|---|---|---|
Ⅰ | (1) | 運動エネルギーを求めて | 2点 |
気体の内部エネルギーを求めて | 2点 | ||
(2) | エネルギー保存則を立式して | 2点 | |
正答を得て | 1点 | ||
(3) | ポアソンの法則を立式して | 2点 | |
正答を得て | 1点 | ||
(4) | 正しいグラフを選んで | 1点 | |
理由を正しく説明して | 1点 | ||
Ⅱ | (1) | エネルギー保存則を立式して | 2点 |
正答を得て | 1点 | ||
(2) | 正答を得て | 2点 | |
(3) | エネルギー保存則を立式して | 1点 | |
ポアソンの法則を立式して | 1点 | ||
正答を得て | 1点 |
第1問
手書き解答
東大2025_1Ⅱ
どの物体(もしくは系全体)に注目して解くかによって量が大きく変わります。
(1)で立てられる式を全て立ててかいてしまって,(2)は「(1)より」のように簡潔に済ませるのでよいでしょう。
Ⅲ
(1)は「Ⅱ(3)を利用して」という文言で短文に仕上げるのがポイント。
(2)と(3)はⅡと同様,(2)の部分で立てられる式を全てかいてしまって,(3)は「(2)より」で済ませましょう。
Ⅰ(1)
この段階で「どの式を立てたら最も楽に解けるか」を考えたかどうかでこの大問の運命が決まるでしょう。
「力のつり合い」「力のモーメントのつり合い」の中から,求めたいものを最もシンプルに計算できる式を立てられていればok。

一方で,何も考えずに「思いついた式」から順番に立て始めてしまったなら大反省。
Ⅱ以降も同様に「なんの式を立てるか」で計算量が大きく変わります。普段から「いかにシンプルに答えを出すか」を考えた立式を行っておくことは非常に重要です。
具体的な考え方としては,「未知数をなるべく含まない式を立てる」方針になります。今回であれば「$F$ は含むけれど,それ以外の未知数は極力含まないように」と考えていきます。
さてまずは力のつり合いとして考える場合を順番に見ていきましょう。おもりA,Bに床から作用する垂直抗力の大きさをそれぞれ $N_{\mathrm{A}0},\ N_{\mathrm{B}0}$,おもりA,B間の棒,おもりA,C間の棒,おもりB,C間の棒による垂直抗力の大きさをそれぞれ $R_1,\ R_2,\ R_3$ とします。
この力の作用図を見ただけでため息が出るのが正常な反応でしょう。それぞれの物体について力のつり合いを考えてみます。
おもりA
床からの固定によって作用している左向きの力(摩擦力)の大きさを $R$ としています。水平方向,鉛直方向の力のつり合いは,
$$R=R_1,\ N_{\mathrm{A}0}=mg+R_2$$
おもりB
水平方向,鉛直方向の力のつり合いは,
$$R_1=R_3\cos45\Deg,\ R_3\sin45\Deg+N_{\mathrm{B}0}+mg$$
おもりC
水平方向,鉛直方向の力のつり合いは,
$$R_3\cos45\Deg=F,\ R_2=R_3\sin45\Deg+mg$$
加えて,おもりAまわりの力のモーメントのつり合いとして,
$$F\cdot d+N_{\mathrm{B}0}\sin45\Deg\cdot d=mg\cdot d$$
が成り立ちます。
立てた式は7つ,未知数は $F,\ R,\ R_1,\ R_2,\ R_3,\ N_{\mathrm{A}0},\ N_{\mathrm{B}0}$ の7つですので,頑張れば解けるわけです。が,解きたくないですよね…。
今回の設問では,おもりBが床から離れる瞬間の話をしているので,$N_{\mathrm{B}0}=0$ として考えることになります。このことを踏まえて,$F$ を最も楽に求める方法を考えると,力のモーメントのつり合いである
$$F\cdot d+N_{\mathrm{B}0}\cdot d=mg\cdot d$$
に行き着くでしょう。$N_{\mathrm{B}0}=0$ のとき,
$$F\cdot d=mg\cdot d$$
ですので,暗算で $F$ が求まります。
というように,力の作用図を実際にかいてみて,式を立ててみて,未知数と式の本数が一緒であることを確認し,全ての式を眺めながら「$F$ を最も楽に求めるには…」と考えれば答えは出ます。

が,実際の試験場ではそこまでやっている時間はありません。
頭の中で「$N_{\mathrm{B}0}=0$ のときの $F$ を求めるだけなら力のモーメントのつり合いで十分だ」と判断して,1本だけ式を立てられる力が重要になるわけです。
普段から「求めたいものは何か,他の未知数が式中に入らないようにするためにはどう立式したらよいか」を考える習慣をつけておくことが重要。
Ⅰ(2)
まず「おもりBがおもりCと同じ高さになるまで引き上げれば,それ以降は自然と回転しておもりCが床に到達する」ことはパッとわかるでしょう。
続いて,そこまでの仕事をどう計算していくかです。方法としては「直接計算する(公式を使う,積分する,など)」「エネルギー収支から考える」ですが,今回は前者は困難。

エネルギー収支を考えよう,という方針にいかに素早くたどり着けるかが大事。
この状態に至るまでに力 $F$ がした仕事は,系全体の力学的エネルギーの増加量に等しくなります。ゆっくり動かしているので,運動エネルギーはどのおもりも $0$ のままであることを踏まえると,力学的エネルギーの増加量は,
$$\begin{aligned}&\stext{おもりA:}0\\&\stext{おもりB:}mg\cdot\bun{1}{\sqrt{2}}d\\[9pt]&\stext{おもりC:}mg\cdot\left(\bun{1}{\sqrt{2}}d-d\right)\end{aligned}$$
としてそれぞれ計算できます。よって,エネルギー終始関係より,
$$W_0=mg\cdot\bun{1}{\sqrt{2}}d+mg\cdot\left(\bun{1}{\sqrt{2}}d-d\right)$$です。

ここまでは解けないといけない問題。いかに素早く解くかで差をつけましょう。
Ⅱ(1)
必要な文字を設定して力の作用図をかいていきます。棒については先ほどⅠで設定した文字に「$\prime$」を付けて,垂直抗力は「$0$」を取って「$N_{\rmA},\ N_{\rmB}$」と表すことにしましょう。
力の作用図はまた全部かいてもよいのですが,大変なので必要な部分だけで考えます。

Ⅰで頑張ってかいた人は,逆にここである程度楽ができたはず…?
今回求めるものは $N_{\mathrm{B}0}$,式に含む文字は $F$ ですので,「Ⅰ(1)の $N_{\mathrm{B}0}\neq 0$ の場合だ!」といことがわかれば,力のモーメントのつり合いで十分であることに気づけるでしょう。
$$F\cdot d+N_{\mathrm{B}0}\cdot d=mg\cdot d$$
において,$N_{\mathrm{B}0}\to N_{\mathrm{B}}$ とすればokです。
$N_{\mathrm{B}}\to 0$ としたとき,Ⅰ(1) と結果が同じになることの確認を忘れずに!
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Ⅱ(2)
求めるのは $N_{\rmA}$ です。

ということで,おもりAについての力のつり合いを考えたくなるところですが…。
式を立てるのが大変なことはすでにⅠで確認済み。そこで,3つのおもりを1つの系とみなした場合の力のつり合いを考えていくわけです。
このときに立式される式は,それぞれのおもりの力のつり合いを足し合わせたものであり,内力が打ち消し合ってなくなったものとなっていることもしっかりと認識しておくことが重要。
おもりAに床から作用する静止摩擦力を右向きに $f$ とします。
だいぶスッキリした力の作用図ですね!
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水平方向,鉛直方向の力のつり合いとしてそれぞれ,
$$f=F,\ N_{\rmA}+N_{\rmB}=3mg$$
と立式できますね。あとはⅡ(1)の結果を代入して整理すればok。
Ⅱ(3)
ここまでの立式がしっかりできていればなんてことないでしょう。「おもりBが床に接したまま物体が右に動き始めた」とあります。
これはつまり,おもりAと床の間に滑りが生じたということですので,$f=\mu N_{\rmA}$ が成り立ちます。
ということで,これまでの結果を代入して計算すればok。

余裕を持てる人はここから先が重要。
さて,問題文にあった「$\mu<\bun13$」という条件,気になりません…?羽白は気になって眠れません。
今回Ⅱ(3)では,「おもりBが床から離れる前に,物体全体が右向きに滑り始める」という状況になりました。$\mu$ が大きすぎると,物体が滑りにくくなってしまうので,このような状況にはなりえません。つまり,ある程度 $\mu$ が小さい必要があるのです。
ということは,「$\mu<\bun13$」という条件が「おもりBが床から離れる前に,物体全体が右向きに滑り始める」という現象が起こるために必要なのではないかと考えられるわけです。

そうとわかれば,検算に使わない手はないでしょう!
まず,おもりBが床から離れないための条件は,$N_{\rmB}>0$ とかけますので,これを整理することで,
$$mg>F$$
として得られます。
一方,物体が滑るための条件はⅡ(3)より $f>\mu N_{\rmA}$ を整理して,
$$F>\bun{2\mu}{1-\mu}mg$$
として得られます。
ということで,これらの条件を満たす $F$ が存在するための条件は,
$$mg>\bun{2\mu}{1-\mu}mg$$
です。これを整理すると確かに $\mu<\bun13$ が得られます。

構造が見えていれば30秒でできる検算。これで答えに自信を持てるのはあまりにも大きいです。
Ⅲ(1)
等速度運動ですので,力はつり合うはずです。おもりA,Bに作用する垂直抗力の大きさをそれぞれ $N_{\rmA}\prime ,\ N_{\rmB}\prime $ として力の作用図をかいてみると次の通り。
ほとんど変わってないですね。ということで,わざわざかかなくても頭のなかで「Ⅱ(3)の静止摩擦力が動摩擦力に変わっただけ」ということに気付けることが重要。$f=\mu\to \mu\prime N_{\rmA}\prime $ とすればおしまい。
これって結局 $\mu\to \mu\prime $ と同じことですので,Ⅱ(3)の答えで $\mu\to \mu\prime $ とすれば秒殺できる問題なのです。

こういう「わかっている人はすぐに確実な答えが出せる」という問題はとっても差がつきやすい。
Ⅲ(2)
これまでの流れから考えても,系全体での運動方程式(もしくは力のつり合い)でokでしょう。

どちらを選ぶかがとっても重要。
おもりBの垂直抗力を求めるわけですから,Ⅱ(1)と似た方向性になるはずです。
ということは,力のモーメントのつり合いを立てたいですね!
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そうなんです。おもりAを軸にして力のモーメントのつり合いを考えると,$N_{\rmA}\prime $ や $\mu\prime N_{\rmA}\prime $ を含まない形で立式できるので,未知数 $N_{\rmA}\prime $ が圧倒的に計算しやすいのです。
ということで,今回は「力のモーメントのつり合いを立てたいから」という理由で,物体とともに加速する視点で考えるのが正解です。
力のモーメントのつり合いの式は,
$$N_{\rmB}\prime \cdot d+ma\cdot d=mg\cdot d$$
です。
Ⅲ(3)
運動方程式から考えてもよいのですが,(2)において物体とともに加速する視点での力の作用図をかいているはずですので,それを利用してしまえばok。
速やかに
$$N_{\rmA}\prime +N_{\rmB}\prime =3mg,\ \mu\prime N_{\rmA}\prime =3ma$$
と立式できますね。
動摩擦係数については,$\mu\prime <\bun13$ という条件が課されていますが,これは $\mu\prime <\mu$ なので当然のことです…!
第2問
手書き解答
東大2025_2Ⅰ
公式を使うだけ,部分点をもらいようがないところなので,簡潔な解答で。
Ⅱ(1)
全体的に自信がない,これより先の設問が難しくて答えられない,という場合は丁寧に記述しておくべきでしょう。
Ⅱ(2)(4)
記号選択問題は部分点をもらいようがないので答えのみでok。
Ⅲ
グラフ描画も部分点がのぞめないので,答えのみでok。
Ⅰ(1)
公式そのままんま。3秒で答えをかけないといけない問題。
Ⅰ(2)
公式などはありません。もともと (1) で答えた磁束密度は,今回考えているソレノイドと,取り除いた左側のソレノイドとによるものです。
ということは,半分を取り除いたらその場の磁束密度も半分,ということはわかりやすいですね…!

まぁよくわかってなくても「半分以外考えられんでしょ」と思って $\bun12B_0$ とかけば当たるわけです。むしろ外すほうが難しい。
Ⅱ(1)
こちらも答えをかくだけ。$\Delta t$ と $\Delta\varPhi$ が与えられていますが,符号はわかりません。円形コイルに生じる誘導起電力の「大きさ」は,
$$V=\left|\bun{\Delta\varPhi}{\Delta t}\right|$$
であることに気をつけましょう。
Ⅱ(2)
ここからが差のつく問題です。
まず,ソレノイドの磁場の公式について確認です。Ⅰ(1)で求めることができる「ソレノイド内部の磁束密度」の式は,ソレノイドが十分長い場合で,内部の磁束密度が均一になっていることが前提です。
短すぎるソレノイドや,ソレノイドの端周辺では本来は使えません。
今回はその「端付近」の話をしているので,公式をそのまま使うこともできなければ,内部の磁束密度も一様ではないのです。
上のような図を見てもらうとわかると思いますが,ソレノイドの内部に入れば入るほど磁束密度が大きくなっていることがわかるかと思います。
十分内部に入ると一定になるわけです。というわけで,円形コイル内部の磁束(図の左向きを正)とコイルの位置の関係を「大まかに」グラフにすると次の通りです。
今回は等速度運動を考えるので,物体の位置と時刻は比例関係にあります。
ということで,上のグラフの傾きの大きさが円形コイルに生じる誘導起電力の大きさに比例します。$-x_0$ で徐々に大きくなり,$x_0$ 付近で $0$ に近づいていくことがわかりますね。

どこかで急に符号が変わったり,$0$ になったりすることはない,ということがわかれば十分です。
さて,ここまでわかればあとは力の向きです。
電磁誘導の原則は「変化を嫌う」でしたね!
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円形コイルは $+x$ の方向に動いていますので,この変化を妨げる向き,すなわち $-x$ の方向に力は作用するはずです。
以上から,正解のグラフが (く)であるとわかりますね。
Ⅱ(3)
円形コイルが受ける力の最大値の話です。

前の設問が解けなくても解ける問題。何なら適当に当てずっぽうでかいても答えだけは当たる問題。解けない問題があってもそれ以降の問題を見ることは大事!
抵抗値以外の条件は変わりませんので,コイルに生じる誘導起電力の大きさも同じ。
→ 抵抗値が $2$ 倍になるので,円形コイルに流れる電流の大きさは $\bun12$ 倍。
→ $F$ の大きさは円形コイルに流れる電流の大きさに比例するので,$\bun12$ 倍。
と順を追って考えていけばok。
Ⅱ(4)
$x$ と $F$ の関係が全く同じになるということは,円形コイルに流れる電流の時間変化が全く同じになる,と考えられます。
このことを踏まえて,素子1から考えていきましょう。
まず,ソレノイドに流れる電流の向きが逆となっているので,磁場は図の右向きに生じています。ということは,ソレノイドに近づくにつれて円形コイルの右向き磁束が大きくなっていきますので,コイル内部に左向きの磁場を作り出す働きかけが生じます。
これは円形コイルに接続した素子1に「端子 $\rmX$」から「端子 $\rmY$」に向かって(つまり問題文の図の上向きに)電流が流れる状況です。
この電流の向きはⅡ(2)と逆向きですが,円形コイルの位置にソレノイドが作る磁場も向きが逆になっているので,結局 $F$ は変わりません。

ということは,素子1は正解。他の素子が素子1と同じふるまいをするか,という視点で考えていきます。
素子2と3について
コンデンサーの影響がないわけがありません。よって不正解。
素子4と5について
電流は「端子 $\rmX$」から「端子 $\rmY$」の向きですので,素子4では電流が流れず,素子5ではⅡ(2)と全く同じになります(順方向ではダイオードは導線と一緒!)。よって素子5は正解。
素子6と7について
素子6はコンデンサー側にも電流が流れてしまうので不正解。素子7はダイオードによってコンデンサー側に流れ込む電流がなくなるので正解。
素子8と9について
素子8は素子3と全く同じことになるので不正解。素子9は抵抗に電流が流れず,コンデンサー単体と同じになるので不正解。
ということで,考える内容の方向性がわかっていれば選択肢の吟味はそこまで難しくありません…!
Ⅲ
コイルCの周囲にできる磁場を頭の中で考えながら解き進めます。
$-x$ の方向からコイルを近づけていくと,コイル内部の磁束は徐々に大きくなります。そしてコイルCの位置(原点)で最大となり,そこからは徐々に減少していきます。
円形コイルBの位置と,円形コイルB内の磁束(図の右向きを正)の「ざっくりとした」関係は次図の通りです。
Ⅱ(2)のときと同様に,グラフの傾きを元に電磁力の大きさを考えましょう。傾きは「ほぼ $0$ →増加→減少→$0$→増加→減少→ほぼ $0$」と変化します。
これをグラフにしたいので,あとは力の向きです。
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やはり電磁誘導の原則は「変化を嫌う」ですので,$+x$ の方向に円形コイルを動かしている以上,円形コイルが受ける電磁力は $-x$ の向きです。ということで,力の大きさの考察とあわせると答えのグラフが完成します。

自分が答えたグラフに 1ミリでも $F>0$ となる場所があった人は要反省。
第3問
手書き解答
東大2025_3Ⅰ(1)〜(3)について
前半部分なので配点も大きいと思われますが,間違えようのない部分は答えのみでokでしょう。
(3)のポアソンの法則くらいは記述しておくとよいかもしれません。
Ⅰ(4)について
記号選択,理由説明です。記号が間違っていても,理由説明で部分点がもらえる可能性があるので,自信がなければより記述を心がけましょう。
Ⅱ(2)について
自信があれば答えのみでok。自信がなければわかっている部分までをしっかりと記述しておくべきです。
Ⅰ(1)
「ポアソンの法則が与えられている」「単原子分子理想気体」などの重要なポイントを拾いながら丁寧に問題文を読んでいきましょう。
問われているものは公式を使うだけ。

猿でも解ける,猿問題。
Ⅰ(2)
必要なのは,$T_1$ と $T_2$ を結びつける関係式です。真っ先にエネルギー保存則として,
$$K_0+U_0=\bun32RT_1$$
は立式できてほしいところ。この式の中で答えに使えない文字は $R$ のみですので,(1)で立式した
$$U_0=\bun32RT_0$$
を用いて消去すればok。
Ⅰ(3)
(2)で温度の比を求めていて,今回は体積の比を問われているので,ポアソンの法則を使うことは難しくないでしょう。
ただし,与えられている $pV^{\frac53}=\stext{一定}$ の形に対して,使用したいのは「温度と体積の関係」です。よって,使いやすい形に書き換える必要があります。

その場でのスムーズな変換がとっても重要。暗記しておく必要はありません。
状態方程式を変形すると,$p=\bun{nRT}{V}$ です。これをポアソンの公式に代入すると,
$$nR\cdot TV^{\frac{2}{3}}=\stext{一定}$$
となります。$nR$ も一定値ですので,右辺に含めると,$TV^{\frac{2}{3}}$ の形が導かれます。
あとは使うだけ!
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(2)の結果をうまく使いながら式変形していけばokです。

ここまでの設問は手が止まったら負け。スラスラ解けないのは明らかな練習不足です。
Ⅰ(4)
2つのポイントに注目して答えのグラフを絞り込みましょう。
$t>t_2$ において,気体は完全に元通り。ということは,気体の内部エネルギーも元通りですので,台車が最終的に持つ運動エネルギーは最初と同じです。
つまり,$v=-v_0$ ということがかります。この時点で①,②,③の3択になります。
気体は断熱変化をするわけですから,圧縮されればされるほど圧力が大きくなり,台車を左向きに押す力の大きさも大きくなります。
これはつまり,ピストンが右に動けば動くほど,台車の加速度の絶対値が大きくなることを意味します。加速度は負の値であること,この加速度がグラフの傾きに等しくなることを踏まえると,③のグラフを正解として選べるはずです。

$t=t_1$ のところでグラフの傾きの大きさが最も大きくなっていますね。
答えを求めるにはこの2つの要素が必要です。片方がわからなくても,片方が記述できていれば部分点はもらえるかも。丁寧に記述しておきましょう。
Ⅱ(1)
エネルギー保存則,という方針は立てやすいと思います。問題は「どの状態とどの状態の間でエネルギー保存則を立てるか」です。
答えに使える文字は「$R,\ T_3,\ T_4,\ K_4$」です。そもそも $T_0$ や $T_1$ が使えないので,$t=t_1$ 以前は難しいでしょう。
一方,$K_4$ が使えることから,$t=t_4$ におけるエネルギーは表現できそうです。この $t=t_4$ とエネルギーを比較しやすいのは $t=t_3$ ですね。この2つの時刻に関するエネルギー保存則を立てていきます。

最大のポイントは…
気体の内部エネルギーは温度のみで決まる ことです。このことに注意しながら整理します。
$t_3<t<t_4$ の間,右側の領域の気体は温度が変わりませんので,左側の気体と台車だけを考えれば十分です。
$$\bun32RT_3=\bun32RT_4+K_4$$
とスムーズに立式できればok。
Ⅱ(2)
わかる部分から比較していきます。
$T_0$ と $T_1$
$t_0<t<t_1$ まで断熱圧縮されているので温度は上がっているはず。よって,$T_0<T_1$ です。
$T_3$ について
$t_1<t<t_3$ について考えます。左側の気体から右側の気体に熱量が移動しています。よって,左側の気体は温度が下がり,右側の気体は温度が上がります。
最終的にどちらの気体も $T_3$ の温度になっていることから,$T_1>T_3,\ T_3>T_0$ であることがわかるので,まとめると
$$T_0<T_3<T_1$$
となります。
$T_4$ の大小関係

ここを考えるのが少々難しい。少し考えて方針が立たなければ,これまでの内容を簡潔に記述して撤退するのもありでしょう。
気体の体積が $V_1<V<V_0$ の間で変化していることに注目して,「ポアソンの法則を立てて比を取ることで,$V_0$ と $V_1$ を消去できないか」と考えて,
$$T_0V_0^{\frac{2}{3}}=T_1V_1^{\frac{2}{3}},\ T_3V_1^{\frac{2}{3}}=T_4V_0^{\frac{2}{3}}$$
と立式し,辺々割ることで
$$T_4=\bun{T_3}{T_1}T_0<T_0$$
と整理するのが一つの方法です。
あるいは,「断熱変化における温度変化,温度比較を考えたいので,$P-V$ グラフをかく」という手もよいでしょう。
まず,「等温変化のグラフが $PV=\stext{一定}$ の双曲線になること」「$T_0<T_3<T_1$ の大小関係が成立していること」を踏まえて,左側の領域の期待に関する $t=t_3$ までの状態変化を $P-V$ グラフに表すと,次図の通りになります。
温度が高い等温曲線のほうが上に位置することに注意してください。

さて,$t>t_3$ における変化のグラフはどのように続くでしょうか…?
$t_3<t<t_4$ において,気体は断熱膨張します。この断熱変化を表すグラフは,$t_0<t<t_1$ の断熱変化のグラフと交わることはありません。よってグラフの概形は次の通りです。
このことから,最終的な状態における温度 $T_4$ が,$T_0$ より小さくなることがわかります。

ということで,「断熱変化や等温変化の温度の比較には $P-V$ グラフを使うと便利,という指針を知っておきましょう。
Ⅱ(3)
少々込み入った問題です。目標は「$\left|\bun{v_4}{v_0}\right|$ を $K_0,\ U_0$ のみで表す」ことです。$v_4$ に関する情報が必須となりますので,$t=t_3$ と $t=t_4$ を比較するエネルギー保存則を立式するのは必然です。
$t=t_3,\ t_4$ における左の領域の内部エネルギーをそれぞれ $U_3,\ U_4$ とすると,
$$U_3=K_4+U_4$$
が成立することがわかります。
$U_3$ も $U_4$ も使えない文字なので…。
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それぞれの内部エネルギーについて考えていきましょう。
$U_3$ について
$U_3$ は 温度が $T_3$ の気体の内部エネルギーです。

よって注目したいのは $t=t_3$ です。
問題文の図の $t=t_3$ の図を見てください。左右どちらの気体も温度は $T_3$ です。
内部エネルギーは温度で決まるので,体積は異なりますがどちらも内部エネルギーは $U_3$ であることにも気をつけましょう。
これらの気体の内部エネルギーを考えるには,$t=t_3$ までのエネルギーの流れを考えるとわかりやすいです。
もともとどちらの気体も内部エネルギーは $U_0$。左側の気体に $K_0$ のエネルギーが与えられ,その半分が熱エネルギーとして右側の気体に移動。最終的にどちらの気体も内部エネルギーは $U_3$。という流れ。
このことから,
$$U_0+\bun{K_0}{2}=U_3,\ U_0+K_0=U_1$$
が成り立つことがわかります。
$U_4$ について
(2)の時点で,
$$T_4=\bun{T_3}{T_1}T_0$$
を得ていればあと一歩。これをエネルギーの関係式に書き換えたいわけですが,内部エネルギーと温度は比例関係にあるので,
$$U_4=\bun{U_3}{U_1}U_0$$
の成立もパッと確認できるのです。

ここはなんとかパッとわかってほしい所!
この部分の式変形からも,気体の内部エネルギーが温度に比例しているという事実がいかに重要かわかりますね。
あとは式変形です。
$$U_3=K_4+U_4$$
について,$U_3,\ U_4$ を変形していくと,
$$\begin{aligned}&U_0+\bun{K_0}{2}=K_4+\bun{U_3}{U_1}U_0\\[9pt]\Leftrightarrow\quad&U_0+\bun{K_0}{2}=K_4+\bun{U_0+\bun{K_0}{2}}{U_0+K_0}\end{aligned}$$
が得られます。
求めたいのは $\left|\bun{v_4}{v_0}\right|$ ですので,$\bun{K_4}{K_0}$ の形に整理して,$\bun12$ 乗すればよいですね。
$$\bun{K_4}{K_0}=\bun{2U_0+K_0}{2(K_0+U_0)}$$
から,
$$e=\sqrt{\bun{2U_0+K_0}{2(K_0+U_0)}}$$
が答えとして得られます。

難しいのは確かですが,突飛な発想は不要です。どの式も,ちゃんと目的を持って立てられるものばかり。