水面波の干渉との違い
スケールの違い

ここからしばらく,光波の干渉について考えていきます。
以前学習した水面波の干渉と考え方は基本的に同じなのですが,光波特有の考え方がありますので順番に具体例を通しながら確認していきます。
まず,水面波との大きな違いはなんといっても「スケール」です!
可視光の波長はおおよそ $400\punit{nm}$ 〜 $800\punit{nm}$ です。$1\punit{nm}=10^{-9}\m$ ですから,水面波とのスケールの違いは明らかですね。
こうした波長の違いから,考える経路差 $\varDelta L$ も非常に小さなものになります。
入試では出題頻度の高いものが決まっていますので,それらを通して光波の干渉の考え方を学習していきましょう!
ヤングの実験
セッティング
単色光を発する光源の横に,単スリット,複スリット,スクリーンを並べて図のようにセットします。
光源を出た単色光は,まずスリット $\rmS_0$ を通過します。
このとき回折が起こるため,光は $\rmS_0$ からスリットの裏に回り込む方向にも広がりを持ちます。その結果,スリット $\rmS_1$,$\rmS_2$ にも光が届きます。
スリット $\rmS_1$,$\rmS_2$ を通過した光は再び回折し,様々な方向に広がっていきます。
スクリーン上のある場所に注目すると,スリット $\rmS_1$ を通ってきた光とスリット $\rmS_2$ を通ってきた光が届くわけですね。
起こっていること
スクリーンの中心を原点とするような $x$ 軸をとり,スクリーン上の $\rmA$ 点(位置 $x$)に届く2通りの光を図示したものが次図です。
2つの波が重なり合わさるので,干渉が起こりますね!
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もともとは1つの光がスリット $\rmS_0$ で2方向に分かれてスリット $\rmS_1$,$\rmS_2$ に届くわけですが,$\overline{\rmS_0\rmS_1}=\overline{\rmS_0\rmS_2}$ ですので $\rmS_1$,$\rmS_2$ において2つの光は位相がそろった状態です。
つまり最初から「$\rmS_1$ と $\rmS_2$ から,同位相の波がスクリーンに向かって送り出されている」と考えてしまってよいわけです!
干渉条件
以上を踏まえて,スクリーン上の $\rmA$ 点における干渉条件を考えてみましょう。
$\rmS_1$,$\rmS_2$ において光の位相がそろっていることから,強め合いの条件は,
$$\left|\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}\right|=m\lambda\stext{\quad……\ ①}$$
ですね。
大小関係
この条件式をさらに整理していくのですが,その際に $\overline{\rmS_1\rmS_2}=d$ の値が非常に小さいということを前提とします。
図ではわかりやすいように大きくかいていますが,実際には $\rmS_1\rmS_2$ 間は非常に狭い間隔だと思ってください!
複スリットとスクリーンの距離を $l$ とした場合,$d\ll l$ が成り立つものとします。また,スクリーンについても $\rmO$ 点の近くで考えるため,$x\ll l$ も成立するものとします。
以上を踏まえて,2通りの方法で $\left|\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}\right|$ の値を計算していきましょう!
(1) 三平方の定理で計算する方法
図形をもとに
スリット $\rmS_1$ ,$\rmS_2$ の位置からスクリーン上に下ろした垂線の足をそれぞれ $\rmH_1$ ,$\rmH_2$ とします。
このとき,$\rmS_2\rmA$ は $\triangle\rmA\rm\rmS_2\rmH_2$ の斜辺になっていますね。図から,$\overline{\rmA\rmH_2}=x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu$ であることがわかるので,三平方の定理から,
$$\overline{\rmS_2\rmA}=\left\{l^2+\left(x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2\right\}^{\frac12}$$
であることがわかります。
近似を用いて
ぱっと見,だいぶ複雑な形になってしまいましたね。
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そこで,$d\ll l$ であることに注目して近似を使っていきます。この際に使う近似が以下なのですが,入試でも頻出なので必ず覚えてください!
よく使う近似 ①
$|x|\ll1$ のとき,以下の近似が成立する。
$$ (1+x)^{\alpha}\fallingdotseq 1+\alpha x $$
ポイントはとにかく,$\left(1+\stext{\hspace{-.5em}(微小量)}\right)^{\alpha}$ の形を作ることです!
なんとなく式変形していてもこの形はできませんので,「かっこの中に $1+\stext{\hspace{-.5em}(微小量)}$ の形を作る!」という目的意識を持って式変形することが重要です。
今回は,$\overline{\rmS_2\rmA}$ の式にこの近似が使えないかを考えてみましょう。
まず,先ほどのままでは $\left(1+\stext{\hspace{-.5em}(微小量)}\right)^{\alpha}$ の形になっていませんので,この形を目指して式変形していきます。
近似が使える形へ
$x,\,d\ll l$ ですので,これを変形すると $\bun{x}{l}\mskip 5mu,\,\Bun{d}{l}\mskip 5mu\ll1$ であることがわかりますね。

$\Bun{x}{l}\mskip 5mu=0.000001$ のようなイメージです。
これより,$\Bun{x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu}{l}\ll 1$ であることもわかります。
2乗すればさらに小さい値になりますので,$1\ll\biggl(\Bun{x+d/2}{l}\mskip 5mu\biggr)^2$ ですね!これより,$1+\biggl(\Bun{x+d/2}{l}\mskip 5mu\biggr)^2$ が $1+\stext{\hspace{-.5em}(微小量)}$ の形になっていることがわかります!
この形にするためには,$\overline{\rmS_2\rmA}$ の式中の中括弧の中から $l^2$ をくくりだせばよいので,
$$\begin{aligned}\overline{\rmS_2\rmA}&=\left\{l^2+\left(x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2\right\}^{\frac12}\\&=l\left\{1+\left(\Bun{x+d/2}{l}\mskip 5mu\right)^2\right\}^{\frac12}\end{aligned}$$
と変形すれば OK です。
近似!
少しややこしいですが,「$(1+x)^{\alpha}\fallingdotseq 1+\alpha x$」の式の $x$ に対応するのが $\left(\Bun{x+d/2}{l}\mskip 5mu\right)^2$,$\alpha$ に対応するのが $\Bun12$ です。近似式を用いると,
$$\begin{aligned}\overline{\rmS_2\rmA}&\fallingdotseq l\left\{1+\mskip 4mu\bun12\left(\Bun{x+d/2}{l}\mskip 5mu\right)^2\right\}\\&=l+\mskip 4mu\bun{1}{2l}\mskip 5mu\left(x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2\end{aligned}$$
が得られます。だいぶスッキリした形になりましたね!
$\overline{\rmS_1\rmA}$ についても同様に計算すればよいのですが,結果をうまく使って楽をしましょう!
今度は $\triangle\rmA\rmS_1\rmH_1$ に注目することになりますが,$\overline{\rmA\rmH_1}=x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu$ だったところを $\overline{\rmA\rmH_2}=x-\mskip 6mu\bun{d}{2}\mskip 5mu$ へと変えれば他は同様の式で計算することができます。
$\bun{d}{2}\mskip 5mu$ の符号を「$+$」から「$-$」に変化させることで,
$$\overline{\rmS_1\rmA}\fallingdotseq l+\mskip 4mu\bun{1}{2l}\mskip 5mu\left(x-\mskip 6mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2$$
が直ちに得られます。
結論!
以上を元にすると,
$$\begin{aligned} \left|\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}\right|&=\left|\left\{l+\mskip 4mu\bun{1}{2l}\mskip 5mu\left(x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2\right\}-\left\{l+\mskip 4mu\bun{1}{2l}\mskip 5mu\left(x-\mskip 6mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2\right\}\right|\\&=\mskip 4mu\bun{1}{2l}\mskip 5mu\left\{\left(x+\mskip 4mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2-\left(x-\mskip 6mu\bun{d}{2}\mskip 5mu\right)^2\right\}\\&=\mskip 4mu\bun{1}{2l}\mskip 5mu\cdot2xd\\[9pt]&=d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu \end{aligned}$$
と整理できます。
(2) 複スリット付近の様子に注目する方法
準備
スリット $\rmS_1\rmS_2$ の中点 $\rmP$ と,点 $\rmA$ を直線で結び,$\angle \rmA\rmP\rmO=\theta$ とします。
図はわかりやすいようにスリット $\rmS_1\rmS_2$ 間の距離 $d$ を大きくかいていますが,実際には $d\ll l$ であることを再度確認してください。
スリット付近を拡大
続いて,スリット $\rmS_1$ ,$\rmS_2$ 付近を拡大した図を考えます。
実際には $\rmS_1\rmA\nparallel\rmP\rmA$ ,$\rmS_2\rmA\nparallel\rmP\rmA$ ですが,$d\ll l$ であるため,スリット付近を拡大した図においては $\rmS_1\rmA\parallel\rmP\rmA$ ,$\rmS_2\rmA\parallel\rmP\rmA$ として考えることができます。
スリット $\rmS_1$ から $\rmS_1\rmA$ に下ろした垂線の足を $\rmH$ としたとき,$\rmS_1\rmA$ と $\rmH\rmA$ は平行であり,はるか遠くにあるスクリーン上の $\rmA$ 点で交わるため,その長さは等しいと考えてokです。
これより近似的に,
$$\left|\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}\right|\fallingdotseq \overline{\rmS_2\rmH}$$
と考えてよいことがわかります。$\overline{\rmS_1\rmS_2}=d$ ですので,図の $\triangle\rmS_1\rmS_2\rmH$ に注目することで,
$$\overline{\rmS_2\rmH}=\overline{\rmS_1\rmS_2}\sin\theta=d\sin\theta$$
が得られます。
さらなる変形

これだけでも十分きれいな形ですが,もう少し整理しましょう!
最初の図で,$\triangle\rmA\rmP\rmO$ に注目すると,$\tan\theta=\mskip 4mu\bun{x}{l}\mskip 5mu$ であることがわかりますね。
$x\ll l$ より,$\theta$ が微小角であることがいえるので,ここでも近似を使うことができます。
よく使う近似 ②
微小角 $\theta$ について,以下の近似が成立する。
$$\theta\fallingdotseq \sin\theta\fallingdotseq\tan\theta$$
こちらの近似式も非常に利用頻度が高いものですので,必要に応じて使えるように覚えておきましょう!
$\sin\theta\fallingdotseq\tan\theta$ であることを利用すると,
$$\left|\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}\right|\fallingdotseq\overline{\rmS_2\rmH}\fallingdotseq d\tan\theta=d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu$$
が得られます。
干渉条件
まとめ
以上,2通りの方法いずれでも
$$\left|\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}\right|=d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu$$という結論が得られました!
① 式から,$\rmA$ 点における強め合いの条件は,
$$d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu=m\lambda$$
であることがわかりますね。
こちら,② の方法で考えれば比較的短時間で導けますが,利用頻度が高いので覚えてしまうのがよいでしょう!
ヤングの実験における干渉条件
ヤングの実験における,スクリーン上の位置 $x$ に届く2つの光の経路差は $\varDelta L=d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu$ である。よって,干渉条件は以下の通り。
強め合いの条件: $d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu=m\lambda$
弱め合いの条件: $d\mskip 6mu\bun{x}{l}\mskip 5mu=\left(m+\mskip 4mu\bun12\right)\lambda$

計算過程は複雑でしたが,$\varDelta L=m\lambda$ を考えるという方法は以前と全く一緒ですね!
このように,光波の干渉では「$\varDelta L$ を求める過程」が難しくなることが多いので,典型例については何度も手を動かして確認しましょう!