$\gdef\bun#1#2{\dfrac{#1}{#2}}$ $\gdef\Bun#1#2{\bun{#1}{#2}}$ $\gdef\punit#1{\ [\mathrm{#1}]\,}$ $\gdef{\d}{\mathop{d}{}}$ $\gdef\dx{dx}$ $\gdef\dy{dy}$ $\gdef\dt{dt}$ $\gdef\dv{dv}$ $\gdef\dr{dr}$ $\gdef\dV{dV}$ $\gdef\dP{dP}$ $\gdef\dT{dT}$ $\gdef\dU{dU}$ $\gdef\dI{dI}$ $\gdef\boldrm#1{\mathrm{#1}}$ $\gdef\rmA{\boldrm{A}}$ $\gdef\rmB{\boldrm{B}}$ $\gdef\rmC{\boldrm{C}}$ $\gdef\rmD{\boldrm{D}}$ $\gdef\rmE{\boldrm{E}}$ $\gdef\rmF{\boldrm{F}}$ $\gdef\rmG{\boldrm{G}}$ $\gdef\rmH{\boldrm{H}}$ $\gdef\rmI{\boldrm{I}}$ $\gdef\rmJ{\boldrm{J}}$ $\gdef\rmK{\boldrm{K}}$ $\gdef\rmL{\boldrm{L}}$ $\gdef\rmM{\boldrm{M}}$ $\gdef\rmN{\boldrm{N}}$ $\gdef\rmO{\boldrm{O}}$ $\gdef\rmP{\boldrm{P}}$ $\gdef\rmQ{\boldrm{Q}}$ $\gdef\rmR{\boldrm{R}}$ $\gdef\rmS{\boldrm{S}}$ $\gdef\rmT{\boldrm{T}}$ $\gdef\rmU{\boldrm{U}}$ $\gdef\rmV{\boldrm{V}}$ $\gdef\rmW{\boldrm{W}}$ $\gdef\rmX{\boldrm{X}}$ $\gdef\rmY{\boldrm{Y}}$ $\gdef\rmZ{\boldrm{Z}}$ $\gdef\Deg{^{\circ}}\!$ $\gdef\DegC{\,{}^{\scriptsize\circ\!}\rmC}$ $\gdef\punitDegC{\punit{{}^{\scriptsize\circ\!}\rmC}}$ $\gdef\neareq{\fallingdotseq}$ $\gdef\mss{\punit{m/s^2\,}}$ $\gdef\ms{\punit{m/s}}$ $\gdef\s{\punit{s}}$ $\gdef\m{\punit{m}}$ $\gdef\mm{\punit{m^2}}$ $\gdef\mmm{\punit{m^3}}$ $\gdef\N{\punit{N}}$ $\gdef\J{\punit{J}}$ $\gdef\cal{\punit{cal}}$ $\gdef\W{\punit{W}}$ $\gdef\g{\punit{g}}$ $\gdef\kg{\punit{kg}}$ $\gdef\K{\punit{K}}$ $\gdef\Hz{\punit{Hz}}$ $\gdef\C{\punit{C}}$ $\gdef\A{\punit{A}}$ $\gdef\V{\punit{V}}$ $\gdef\mol{\punit{mol}}$ $\gdef\NA{N_{\rmA}}$ $\gdef\CV{C_{\rmV}}$ $\gdef\CP{C_{\rmP}}$ $\gdef\Pa{\punit{Pa}}$ $\gdef\SUB#1{_{\mathrm{#1}}}$ $\gdef\vec#1{\overrightarrow{#1}}$ $\gdef\dvec#1{\overrightarrow{#1}}$ $\gdef\stext#1{\text{\small #1}}$ $\gdef\in{^{\,\mathrm{in}}}$ $\gdef\out{^{\,\mathrm{out}}}$ $\gdef\net{^{\,\mathrm{net}}}$ $\gdef\max{_{\mathrm{max}}}$ $\gdef\min{_{\mathrm{min}}}$

熱力学 物理

気体分子運動論

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
数学のトリセツ共著者
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師

微視的な議論

頭の切り替えを!

ここまでは,気体全体をマクロ(巨視的な)な視点で考えました。本セクションではまず,気体分子の運動についてミクロ(微視的な)視点で議論をしてみましょう。

羽白

分子と壁の衝突,運動量変化と力積の関係などが登場します。頭を力学モードに切り替えて読み進めてください!

気体分子運動論の前提

前提

1辺の長さが $L$ の立方体の箱を用意し,その内部に $n$ モルの理想気体を封入します。

ここから先は,気体分子1つに注目して議論を行いますが,その際に以下の事柄を前提とします。

気体分子運動論の前提

  • 気体分子同士の衝突は考えない。
  • 気体分子の運動はランダムである。
  • 気体分子に作用する重力は無視でき,壁に衝突するまでは等速直線運動を行う。
  • 壁に対する衝突は完全弾性衝突である。

無次元量で考えるので,物質量も $n$ であるが,場合によっては表現がわかりづらくなるため,便宜的に「モル」を付して「$n$ モル」と表すこととする。

気体分子と壁の衝突

衝突における運動量変化

まず,$x$ 軸,$y$ 軸,$z$ 軸を図の通りに設定します。容器の内部の気体1分子に注目し,その気体分子の速度を $\vec{v}=(v_x,\,v_y,\,v_z)$ としましょう。

この気体分子が,$x=L$ の位置にある壁(図のグレーの壁)に衝突したとしましょう。この衝突によって気体分子は力積を受けますが,その方向は壁に垂直な方向,すなわち $x$ 方向です。

衝突は完全弾性衝突ですので,$x$ 方向について「壁に近づく速さ」と「壁から遠ざかる速さ」が等しくなるため,衝突後の気体分子の速度の $x$ 成分は $-v_x$ ですね。

一方,$y$ 方向,$z$ 方向には力積を受けませんので,速度は変わらず $v_y,\,v_z$ のままです。よって,衝突後の気体分子の速度は,$\vec{v'}=(-v_x,\,v_y,\,v_z)$ とかくことができます。

$x$ 軸方向に注目すると,気体分子の運動量の変化は,

$$-mv_x-mv_x=-2mv_x$$として求められますね。

この運動量変化は,気体分子が壁から受けた力積に等しいはずですので,衝突で気体分子が受ける力積が $-2mv_x$ であることがわかります。

では逆に,壁が気体分子から受ける力積は…?

生徒

これは作用・反作用の法則を考えればokですね。等大逆向きですので,$2mv_x$ です。

衝突の頻度

羽白

続いて,この衝突の頻度について考えましょう。

$x$ 軸方向の運動のみに注目すると,気体分子は $x=0$ の位置の壁と,$x=L$ の位置の壁の間を往復運動していると考えられます。

衝突は全て完全弾性衝突ですので,速度の向きは変わるものの,速さはずっと $v_x$ のままですね。

ということは,気体分子が $x=L$ の壁に衝突してから,再び戻ってきて $x=L$ の壁に衝突するまでにかかる時間は,「$2L$ の距離を速さ$v_x$ で進むのにかかる時間」と考えられるため,$\Bun{2L}{v_x}$ であることがわかります。

これより,$t$ 秒間の衝突回数は,

$$\Bun{t}{\bun{2L}{v_x}}=\bun{v_x}{2L}t$$として計算できます。

力積の計算

1回の衝突によって壁が受ける力積が $2mv_x$,$t$ 秒間での衝突回数が $\bun{v_x}{2L}t$ ですので,$t$ 秒間に壁が受ける合計の力積は,

$$I=2mv_x\cdot\Bun{v_x}{2L}t=\bun{mv_x\!^2}{L}t$$であることがわかります。

力の計算

壁が気体1分子から受ける力

$t$ 秒間に壁が受ける力積が $I=\Bun{mv_x\!^2}{L}t$ であることがわかりました。

気体分子が衝突を繰り返すことでこの力積が生じているわけですが,衝突の時間間隔は非常に短いです。

よって,壁は「ドンッ!ドンッ!」というように衝撃を受けるわけではなく,小刻みにほぼずっと一定の力で押されるような形で力積を受けます。この力を平均して $\overline{F}$ としましょう。

平均の力を用いると,力積は $I=\overline{F}t$ とかくことができました。

よって,$I=\Bun{mv_x\!^2}{L}t$ と比較することで,

$$\overline{F}=\Bun{mv_x\!^2}{L}$$であることがわかります。

壁はずっとこの $\overline{F}$ の大きさの力で押されているものと考えてokです。

壁が気体全体から受ける力の計算

ここまでは1つの分子について考えてきましたが,ここからは気体全体で考えます。

羽白

少しややこしくなってきますので,頭を切り替えましょう!

気体分子ごとに $v_x$ の値は異なるため,$\overline{F}$ の値も気体分子によって異なりますよね。

それだと計算しづらいので,$v_x\!^2$ の平均を $\overline{v_x\!^2}$ と表すことにします。

すると,どの分子についても壁に及ぼす平均の力 $\overline{F}$ を,

$$\overline{F}=\Bun{m\overline{v_x\!^2}}{L}$$として同じ形で考えることができます。

気体分子の総数を $m$ とし,各気体分子における $v_x\!^2$ の値を $v_{x1}\!^2,\,v_{x2}\!^2,\,\ldots,\,v_{xm}\!^2$ と表すことにすれば,

$$\overline{v_x\!^2}=\bun{v_{x1}\!^2+v_{x2}\!^2+\cdots+v_{xm}\!^2}{m}=\bun{1}{m}\sum_{k=1}^{m}v_{xk}\!^2$$である。

羽白

では,気体分子全体の個数はいくつになるでしょうか。

気体全体の物質量は $n$ ですので,アボガドロ定数 $\NA$ を用いると,$n\NA$ とかくことができますね。

以上から,気体全体が壁に及ぼす力の大きさは,

$$F=\Bun{m\overline{v_x\!^2}}{L}\times n\NA$$として計算できます。

気体分子運動の等方向性

前提を再び

気体分子運動の前提条件として,「気体分子運動の運動はランダムである」ものとしました。

ランダムということは,「$x$ 軸方向も $y$ 軸方向も $z$ 軸方向も,どの方向が特別ということはなく,運動に偏りがない」ということです。

よって,

$$\overline{v_x\!^2}=\overline{v_y\!^2}=\overline{v_z\!^2}$$が成立します。

また,気体分子の速さについて,$v^2=v_x\!^2+v_y\!^2+v_z\!^2$ が成立するのと同様に,

$$\overline{v^2}=\overline{v_x\!^2}+\overline{v_y\!^2}+\overline{v_z\!^2}$$が成立します。

正確には以下の通りに考える。各粒子について,$v^2=v_x\!^2+v_y\!^2+v_z\!^2$ が成立することから,

$$\begin{aligned}\overline{v^2}=\bun{1}{m}\sum_{k=1}^mv_m\!^2&=\bun{1}{m}\sum_{k=1}^m(v_{xk}\!^2+v_{yk}\!^2+v_{zk}\!^2)\\&=\bun{1}{m}\sum_{k=1}^mv_{xk}\!^2+\bun{1}{m}\sum_{k=1}^mv_{yk}\!^2+\bun{1}{m}\sum_{k=1}^mv_{zk}\!^2\\&=\overline{v_x\!^2}+\overline{v_y\!^2}+\overline{v_z\!^2}\end{aligned}$$

以上から,$\overline{v_x\!^2}=\bun13\overline{v^2}$ であることがわかります。

気体の圧力

圧力の導出

$\overline{v_x\!^2}=\bun13\overline{v^2}$ の関係式を用いると,気体が壁に及ぼす力 $F$ は,

$$F=\Bun{m\overline{v_x\!^2}}{L}\times n\NA=\Bun{m\overline{v^2}}{3L}\times n\NA$$と書き換えることができます。

壁の面積は $S=L^2$ ですので,気体の圧力は,

$$P=\bun{F}{S}=\Bun{m\overline{v\!^2}}{3L^3}\times n\NA$$であることがわかります。

気体分子1つの話から始まって,気体全体の圧力まで計算することができました!

羽白

ここからさらに式変形を進めていきます。

気体分子の平均運動エネルギー

エネルギーの考察

羽白

ところで,今考えている気体の体積っていくつでしょうか…?

1辺の長さが $L$ の立方体の容器に入っているので,$V=L^3$ ですよね。この $L^3$ という値,実は先ほど求めた $P$ の式の右辺に登場しています。

よってこれを $V$ で置き換えて変形すると,

$$PV=\bun13m\overline{v^2}\times n\NA$$が得られます。

「$PV=$」という形になりましたので,状態方程式を思い出しましょう。理想気体の状態方程式は,$PV=nRT$ でした。これを踏まえて式変形すると,

$$\Bun12m\overline{v^2}=\bun32\cdot\bun{R}{\NA}\cdot T$$という関係式が導かれます。

式中の $\Bun{R}{\NA}$ についてですが,分子の $R$ は気体定数,分母の $\NA$ はアボガドロ定数であり,いずれも定数です。

よって,$\Bun{R}{\NA}$ も定数であり,ボルツマン定数と呼ばれています。これを $k$ と表記すると,

$$\Bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$$が得られます。

左辺の $\Bun12m\overline{v^2}$ は「気体1分子あたりの平均運動エネルギー」を表しています。

右辺は $\stext{(定数)}\times T$ の形ですので,気体分子の運動エネルギー(つまり熱運動の激しさ!)が温度によって決まっていることがわかりますね。

物理基礎で「物質の温度は,物質を構成する原子,分子の熱運動の激しさを表している」と学習しましたが,このことを数式で確認することができました!

この関係式は必ず暗記しておきましょう。

生徒

気体分子の平均運動エネルギー

気体分子1つの平均運動エネルギーは,

$$\bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$$であり,温度のみの関数である。

二乗平均速度

二重平均速度の導出

$\overline{v^2}$ の平方根,すなわち $\sqrt{\overline{v^2}}$ は,二乗平均速度と呼ばれています。

ボルツマン定数を元に戻して式変形すると,

$$\sqrt{\overline{v^2}}=\sqrt{\bun{3R}{m\NA}T}$$であることがわかります。

式中の $m\NA$ について考えてみましょう。$m$ は気体分子1つの質量でした。$\NA$ はボルツマン定数,すなわち気体 $1$ モルの気体分子の個数ですので,$m\NA$ は気体 $1$ モルあたりの質量を表します。

この「単位物質量($1$ モル)あたりの質量」のことをモル質量と呼び,$M$ で表すことにすれば,

$$\sqrt{\overline{v^2}}=\sqrt{\bun{3RT}{M}}$$が得られます。

$\overline{v}$ とは異なる値ですが,気体分子の速さの目安となる値です。

羽白

この式は暗記しなくてokです!

ただし,$\bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$ から速やかに導けるようにしておきましょう。

これで一通りの式変形は終了です!

イチからスタートして,$\Bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$ まで必ずスラスラと自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。

気体分子運動論のモデル

結論は同じ!

今回は立方体の容器を用いて $\Bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$ の関係式を導きました。

入試では,球体や円柱など,立方体以外の容器を用いたモデルが出題されることがありますが,結論は同じです!

気体を入れる箱の形によって運動エネルギーが変わるなんてことがあるはずがない!どんなモデルで考えても,必ず結論は $\Bun12m\overline{v^2}=\bun32kT$ です。

それゆえ,最初の設問から考えて途中でわからなくなったら,結論から逆算して問題を解く,という方法を知っておきましょう。

ときに非常に有用です(そんな手を使わなくても全ての問題を解けるようになるのが目標ではありますが)。

-熱力学, 物理