理想気体と実在気体
理想気体
現実世界の気体分子は,様々な力を受けて運動しています。重力はもちろんのこと,気体分子同士の相互作用も分子の運動に影響します。
さらにはそれに対応する位置エネルギーも考えた議論をする必要があり,分子の大きさも考慮しなけばいけません。
考えることが多すぎてあまりにも厄介…。
このような気体は実在気体と呼ばれますが,上に述べたように扱いが非常に厄介です。
そこで物理学では,「分子間の相互作用」と「分子の大きさ」を無視した気体を考えることが大半です。このような気体を理想気体と呼びます。
理想気体
分子間の相互作用と,分子の大きさを無視した気体を理想気体と呼ぶ。
理想気体の状態方程式
状態方程式
理想気体の体積を $V$,圧力を $P$,物質量を $n$,温度を $T$ とすると,
$$PV=nRT$$の関係式が成立することが知られています。この関係式を理想気体の状態方程式(あるいは単に状態方程式)と呼びます。
式中の $R$ は気体定数と呼ばれる定数です。体積の単位が $\mmm$,圧力の単位が $\Pa$,物質量の単位が $\mol$,温度の単位が $\K$ のとき,気体定数は,
$$R\fallingdotseq 8.31\punit{(Pa\cdot m^3)/(mol\cdot K)}=8.31\punit{J/(mol\cdot K)}$$という値になります。
この状態方程式は,気体の種類によらず成立します。後に扱う状態変化でも頻出の式ですので,「$PV=nRT$」の形をしっかりと覚えましょう。
理想気体の状態方程式
理想気体の体積を $V$,圧力を $P$,物質量を $n$,温度を $T$ とすると,
$$PV=nRT$$が成立する。
ボイルの法則など
特殊な場合
状態方程式を少し整理してみましょう。
容器内の気体が外部に流出したり,逆に容器外から気体が流入することがなければ,$n$ は変化しません。また,$R$ も定数ですので,
$$\bun{PV}{T}=nR$$の形に変形すると,右辺は定数になります。
つまり,「$\Bun{PV}{T}$ が一定値をとる」ということがわかります。この法則をボイル・シャルルの法則と呼びます。
さらに,特定の状況下で成り立つ法則について確認していきましょう。
温度が一定
気体の温度 $T$ が一定であれば,$PV=nRT$ の右辺が一定値になります。
このとき,「$PV$ が一定値をとる」ということがわかりますね。この法則をボイルの法則と呼びます。
圧力が一定
気体の圧力 $P$ が一定のとき,$\Bun{V}{T}=\bun{nR}{P}$ の形に変形することで,「$\bun{V}{T}$ が一定値をとる」ということがわかります。
この法則をシャルルの法則と呼びます。
このように,様々な法則があるのですが,状態方程式が立式できれば困ることはありません。
共通テストなどで法則名を聞かれる可能性はありますが,あえて区別して理解する必要はないですし,記述が必要な際にも「状態方程式より〜」とかいてしまえばokです。
具体的な立式
状態方程式の使い方について,例題で確認しましょう。こちらの例題も,ボイルの法則などを考えてもよいのですが,特に意識せずに状態方程式のみで解くことができます。
例題
体積が $V$,温度が $T$,物質量が $n$ の理想気体について,以下の設問に答えよ。ただし,気体定数を $R$ とする。
気体の圧力$P$ を求めよ。
気体の体積を一定に保ったまま熱すると,温度が $T'$ になった。このとき,気体の体積 $P'$ を求めよ。
さらに,気体の温度を $T'$ に保ったまま,圧力を $P$ へ変化させた。このとき,気体の体積 $V'$ を求めよ。
理想気体の状態方程式より,
$$PV=nRT\qquad\therefore \quad P=\bun{nRT}{V}$$
変化後の理想気体の状態方程式より,$P'V=nRT'$ が成立する。これに,$V=\Bun{nRT}{P}$ を代入して,$P'=\Bun{nRT'}{V}$
変化後の理想気体の状態方程式より,$PV''=nRT'$ が成立する。これを整理して,$V'=\Bun{T'}{T}V$