熱力学

気体の状態方程式

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師
物理基礎のトリセツ著者
数学のトリセツ共著者

理想気体と実在気体

理想気体

現実世界の気体分子は,様々な力を受けて運動しています。重力はもちろんのこと,気体分子同士の相互作用も分子の運動に影響します。

さらにはそれに対応する位置エネルギーも考えた議論をする必要があり,分子の大きさも考慮しなけばいけません。

羽白

考えることが多すぎてあまりにも厄介…。

このような気体は実在気体と呼ばれますが,上に述べたように扱いが非常に厄介です。

そこで物理学では,「分子間の相互作用」と「分子の大きさ」を無視した気体を考えることが大半です。このような気体を理想気体と呼びます。

理想気体

分子間の相互作用と,分子の大きさを無視した気体を理想気体と呼ぶ。

ただし,気体分子同士の衝突は無視できない。

実在気体であっても,常温,常圧付近であれば理想気体と同様に扱うことができる。

理想気体の状態方程式

状態方程式

理想気体の体積を $V$,圧力を $P$,物質量を $n$,温度を $T$ とすると,

$$PV=nRT$$の関係式が成立することが知られています。この関係式を理想気体の状態方程式(あるいは単に状態方程式)と呼びます。

式中の $R$ は気体定数と呼ばれる定数です。体積の単位が $\mmm$,圧力の単位が $\Pa$,物質量の単位が $\mol$,温度の単位が $\K$ のとき,気体定数は,

$$R\fallingdotseq 8.31\punit{(Pa\cdot m^3)/(mol\cdot K)}=8.31\punit{J/(mol\cdot K)}$$という値になります。

この状態方程式は,気体の種類によらず成立します。後に扱う状態変化でも頻出の式ですので,「$PV=nRT$」の形をしっかりと覚えましょう。

理想気体の状態方程式

理想気体の体積を $V$,圧力を $P$,物質量を $n$,温度を $T$ とすると,

$$PV=nRT$$が成立する。

ボイルの法則など

特殊な場合

羽白

状態方程式を少し整理してみましょう。

容器内の気体が外部に流出したり,逆に容器外から気体が流入することがなければ,$n$ は変化しません。また,$R$ も定数ですので,

$$\bun{PV}{T}\mskip 5mu=nR$$の形に変形すると,右辺は定数になります。

つまり,「$\Bun{PV}{T}\mskip 5mu$ が一定値をとる」ということがわかります。この法則をボイル・シャルルの法則と呼びます。

羽白

さらに,特定の状況下で成り立つ法則について確認していきましょう。

温度が一定

気体の温度 $T$ が一定であれば,$PV=nRT$ の右辺が一定値になります。

このとき,「$PV$ が一定値をとる」ということがわかりますね。この法則をボイルの法則と呼びます。

圧力が一定

気体の圧力 $P$ が一定のとき,$\Bun{V}{T}\mskip 5mu=\mskip 4mu\bun{nR}{P}\mskip 5mu$ の形に変形することで,「$\bun{V}{T}\mskip 5mu$ が一定値をとる」ということがわかります。

この法則をシャルルの法則と呼びます。

このように,様々な法則があるのですが,状態方程式が立式できれば困ることはありません。

共通テストなどで法則名を聞かれる可能性はありますが,あえて区別して理解する必要はないですし,記述が必要な際にも「状態方程式より〜」とかいてしまえばokです。

具体的な立式

状態方程式の使い方について,例題で確認しましょう。こちらの例題も,ボイルの法則などを考えてもよいのですが,特に意識せずに状態方程式のみで解くことができます。

例題

体積が $V$,温度が $T$,物質量が $n$ の理想気体について,以下の設問に答えよ。ただし,気体定数を $R$ とする。

気体の圧力$P$ を求めよ。

気体の体積を一定に保ったまま熱すると,温度が $T\prime $ になった。このとき,気体の体積 $P\prime $ を求めよ。

さらに,気体の温度を $T\prime $ に保ったまま,圧力を $P$ へ変化させた。このとき,気体の体積 $V\prime $ を求めよ。

理想気体の状態方程式より,

$$PV=nRT\qquad\therefore \quad P=\mskip 4mu\bun{nRT}{V}\mskip 5mu$$

変化後の理想気体の状態方程式より,$P\prime V=nRT\prime $ が成立する。これに,$V=\mskip 4mu\bun{nRT}{P}\mskip 5mu$ を代入して,$P\prime =\mskip 4mu\bun{nRT\prime }{V}\mskip 5mu$

変化後の理想気体の状態方程式より,$PV\prime \prime =nRT\prime $ が成立する。これを整理して,$V\prime =\mskip 4mu\bun{T\prime }{T}\mskip 5muV$

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