熱力学

熱力学第一法則

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師
物理基礎のトリセツ著者
数学のトリセツ共著者

物理基礎の復習

「内部エネルギー」の復習はこちら!

仕事と熱

目次1 仕事と熱の関係2 内部エネルギー3 熱力学第一法則4 熱機関 仕事と熱の関係 まずはじめに,仕事と熱の関係を確認します。 力学で運動エネルギーを扱った際に,$\varDelta K=W$ とい ...

続きを見る

内部エネルギーについて

気体分子運動論を踏まえて

物理基礎で気体の内部エネルギーについて学びましたが,気体分子運動論を学習したことで具体的に値を求めることができるようになりました。

羽白

気体分子運動論の話を踏まえて,計算してみましょう。

理想気体について考えているので,分子間の相互作用における位置エネルギーは考える必要がありません。

ということで,内部エネルギーを求めるにあたっては気体分子の運動エネルギーの合計を考えればokです。気体分子の平均運動エネルギーが,$\bun12m\overline{v^2}=\mskip 4mu\bun32kT$ でしたが,これは気体分子1つあたりの運動エネルギーです。

$n$ モルの気体中には $n\NA$ 個の気体分子が含まれていますので,合計の運動エネルギーは,

$$\bun12m\overline{v^2}\cdot n\NA=\mskip 4mu\bun32kT\cdot n\NA=\mskip 4mu\bun32nRT$$と計算できます。

単原子分子であれば,分子の回転運動や振動のエネルギーを考える必要がないため,この値が気体の内部エネルギーそのものになります。

単原子分子理想気体の内部エネルギー

単原子分子理想気体の内部エネルギーは,

$$U=\mskip 4mu\bun32nRT$$で与えられる。

これより,気体の内部エネルギーは温度 $T$ のみで決まることがわかります。

これは非常に重要な性質ですので,しっかりと確認しておきましょう。

生徒

気体の仕事

具体的な計算

気体の体積が変化すると,気体は外部に仕事をすることになります。この際の仕事を具体的に計算してみましょう。

図のような容器に入っている気体の変化を考えます。容器の右側には断面積 $S$ のピストンが取り付けられており,ピストンの移動方向に $x$ 軸を取って考えます。

気体がピストンを押す力は $f=PS$ とかくことができるため,その仕事は,

$$W=\int_{x_1}^{x_2}f\dx=\int_{x_1}^{x_2}PS\dx$$と表せます。

積分を用いて表記したが,力が一定(つまり気体の圧力が一定)の場合には,

$$W=f\times\stext{\hspace{-.5em}(ピストンの移動距離)}$$として仕事を計算してよい。

ここで,ピストンの変位 $\dx$ と,気体の体積変化 $\dV$ の間には,$\dV=S\dx$ の関係が成り立ちます。

これを利用して仕事の式を変形するのですが(置換積分),その際に積分区間も対応する体積に変えなければいけない点に注意してください。

ピストンの位置が $x_1,\,x_2$ のときの気体の体積をそれぞれ $V_1,\,V_2$ とすると,

$$W=\int_{x_1}^{x_2}PS\dx=\int_{V_1}^{V_2}P\dV$$が得られます。

つまり,「気体の圧力 $P$ を,気体の体積 $V$ で積分したものが,気体が外部にする仕事になる」ということです。

さて,積分が出てきたのでグラフとも対応させておきましょう。

普段数学で考えている $y-x$ グラフの面積は,$y$ を $x$ で積分することで求めることができました。ということは,$P$ を $V$ で積分した値は,縦軸に $P$,横軸に $V$ を取ったグラフの面積に対応するはずですね。

このようなグラフを$P-V$ グラフと呼びます。この $P-V$グラフは気体の状態変化を整理する際にも非常に有用です。

圧縮過程の場合

ここまでは気体の膨張(体積が増加する。$V_1>V_2$)を考えましたが,圧縮(体積が減少する。$V_1<V_2$)ときの仕事は負の値になります。

この際には,$P-V$ グラフの面積を負の値として考える必要がある点に注意しましょう。

気体が外部にする仕事

気体の圧力を $P$,体積を $V$ としたとき,気体が外部にする仕事は,

$$W=\int_{V_1}^{V_2}P\dV$$で表される。これは $P-V$ グラフの符号付き面積に等しい。

実際には

実際に仕事を計算する際に,積分計算をしなければいけないことはほとんどありません。

まずは「気体が外部にする仕事は $P-V$ グラフの符号付き面積に等しい」ということをしっかりと理解して使いこなせるようになってください!

仕事を求めるにあたり,気体の状態変化が準静的変化であることが前提となる。

「準静的変化」とは,「ゆっくりとした変化で,気体内部にムラが生じないような変化」であるものとする。気体がピストンを動かす際も,ピストンに作用する力はつり合っているものと考えることができ,内部にムラが生じないため状態方程式も常に成立する。

物理基礎の復習

「熱力学第一法則」の復習はこちら!

仕事と熱

目次1 仕事と熱の関係2 内部エネルギー3 熱力学第一法則4 熱機関 仕事と熱の関係 まずはじめに,仕事と熱の関係を確認します。 力学で運動エネルギーを扱った際に,$\varDelta K=W$ とい ...

続きを見る

熱力学第一法則を改めて

物理基礎で学習したように,

$$Q\in=\varDelta U+W\out$$ という関係式が熱力学第一法則です。

本セクションで学習した内容から,$\varDelta U$ と $W\out$ が計算できますので,熱力学第一法則を利用することで $Q\in$ についても具体的に求めることができますね。

羽白

ここから先のセクションでは,熱力学第一法則を使いながら様々な状態変化について確認していきましょう。

-熱力学