様々な状態変化
状態変化における制約
気体を熱したり,外部から仕事を与えたりすると,気体の状態が変化します。
この変化が生じる際,気体に「制約」がかかっていることが大半です。
たとえば「体積が変わらない容器に気体が入っている」という状況では,「気体の体積が変化しない」という制約がありますよね。「断熱容器で囲われた気体」であれば,「外部と熱のやり取りがない」という制約が加わります。
このように,気体の状態変化には様々な種類があるのですが,試験で問われるものは種類が限られています。
それぞれの状態変化の特徴を,熱力学第一法則と結びつけながら確認していきましょう。
定積変化について
概要
名前の通り,「体積が一定」の変化です。壁が動かない容器に封入された気体の状態変化ですね。問題文には「気体は定積変化をする」と直接かかれないことが多いですが,状況を読み取ることですぐに見抜けるはずです。
ここでは,体積 $V_1$,圧力 $P_1$,温度 $T_1$ の気体が,体積 $V_1$ のまま,圧力 $P_2$,温度 $T_2$ へと変化したものとして考えていきます。
熱力学第一法則に登場する「内部エネルギーの変化 $\varDelta U$」「気体がする仕事 $W\out$」「気体に与えられる熱量 $Q\in$」について,それぞれ個別に確認していきましょう。
内部エネルギーの変化 $\varDelta U$
内部エネルギーは温度のみで決まるのでした。特に単原子分子理想気体の場合は,$U=\Bun32nRT$ です。
この $U$ の変化が,内部エネルギーの変化 $\varDelta U$ ですね。
$n$ と $R$ は変化しないことが大半で,$T$ のみが変化します。$\varDelta T=T_2-T_1$ ですので,
$$\varDelta U=\bun32nRT_2-\bun32nRT_1=\bun32nR\varDelta T$$として考えることができます。
この流れからもわかる通り,定積変化であるかどうかは関係ありません!
途中経過は関係なく,最初と最後の温度のみで決まります。しつこいようですが,$\varDelta U$ は温度変化 $\varDelta T$ のみによって決まります。
気体のする仕事 $W\out$
気体の仕事は,$\int_{V_1}^{V_2}P\dV$ で計算することができました。体積変化があってはじめて仕事をすることがわかるため,定積変化の場合は $0$ であることがすぐにわかりますね。
あるいは,$\int_{x_1}^{x_2}PS\dx$ で考えてもokです。
壁に力を加えて,壁を動かした分だけ気体は仕事をすることになります。定積変化では容器の壁が動かないため,気体の仕事は $0$ になります。
$P-V$グラフ
$P-V$ グラフも考えてみましょう。体積が変化しないので,次図の通りです。
$P-V$ グラフが囲む面積が気体のする仕事 $W\out$ でしたね。
$V$ が変化していないため,$P-V$グラフの面積も $0$ であり,このことからも $W\out=0$ であることが確認できます。
気体の吸熱量 $Q\in$
熱力学第一法則から,
$$Q\in=\varDelta U+W\out=\bun32nR\varDelta T$$として計算できます。
物理基礎の復習
「比熱と熱容量」の復習はこちら!
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比熱・熱容量
目次1 比熱2 熱容量3 熱量の保存 比熱 物体の温度と熱量の関係 水 $1\punit{g}$ の温度を $1\K$ だけ上昇させるのに必要な熱量は $1\punit{cal}$ でした。 たとえば ...
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モル比熱
気体における比熱
物理基礎では,物質や物体を温めるときに必要となる温度を,比熱や熱容量を求めて計算しました。
この考え方を気体にも応用できないでしょうか…?
ある物質 $1\punit{g}$ を $1\K$ だけ温めるのに必要な熱量を比熱と定義したのと同じように,「ある気体 $1\mol$ を $1\K$ だけ温度上昇させるのに必要な熱量」をモル比熱と定義してみましょう。
気体の場合には,状態変化の種類によって必要となる熱量が異なるため注意が必要です。
そこで,「定積変化(気体の体積が変わらない)」という条件の下でのモル比熱を定積モル比熱とし,$\CV$ と表すことにします。単位は $\punit{J/(mol\cdot K)}$ です。
ここから先の考え方は,比熱や熱容量のときと同じです。物理基礎で扱った内容を思い出しながら,例題を確認してみましょう。
例題
定積モル比熱が $\CV$ であるような気体 $n\mol$ を,定積条件下で $\varDelta T$ だけ温度上昇させるために必要な熱量を求めよ。
この気体 $1\mol$ を $1\K$ だけ温度上昇させるのに必要な熱量が $\CV$ である。
よって,$n\mol$ の気体を $\varDelta T\K$ だけ温度上昇させるためには,
$$Q=n\CV\varDelta T$$の熱量が必要となる。
定積変化の内部エネルギーの変化について
定積モル比熱について
単原子分子理想気体の定積変化について,熱力学第一法則を利用することで,$Q\in=\Bun32nR\varDelta T$ であることがわかりました。
一方,定積モル比熱を利用すると,$Q\in=n\CV\varDelta T$ と表すことができました。
これらを比較することで,単原子分子理想気体について,$\CV=\bun32R$ であることがわかります。この値は公式として必ず覚えましょう。
単原子分子理想気体の定積モル比熱
単原子分子理想気体において,定積モル比熱$\CV$ は,$\CV=\Bun32R$ で与えられる。
単原子分子以外の場合
では,単原子分子理想気体でない,一般の理想気体の場合にはどうなるでしょうか。
1つ1つ確認してみましょう。
$\varDelta U=\Bun32nR\varDelta T$ の式は単原子分子理想気体に限った話でしたので,成立しなくなります。
では,$Q\in$ と $W\out$ は…?
$Q\in=n\CV\varDelta T$ の式は定積モル比熱の定義から導いたのものであり,単原子分子理想気体でなくとも成立します。
定積変化であれば,$W\out=0$ であることも変わりはないですね。
よって,熱力学第一法則を立式すると,
$$n\CV\varDelta T=\varDelta U+0$$となります。この式から,$\varDelta U=n\CV\varDelta T$ であることがわかりますね。
まとめて整理
少し話がややこしくなってきましたので,いったんこれまでの話をまとめます。
温度 $T_1$ から温度 $T_2$ へと変化する定積変化について考えることで,内部エネルギーの変化が $\varDelta U=n\CV\varDelta T$ と表せることがわかりました。これは単原子分子理想気体でなくとも成立します。
ここで,「内部エネルギーは気体の温度のみで決まる」ことを思い出してください(これまでに何度も強調してきましたね!)。
内部エネルギーは温度のみの関数で表せるということですので,状態変化前後の内部エネルギーはそれぞれ $U(T_1),\,U(T_2)$ と表せます。内部エネルギーの変化は,
$$\varDelta U=U(T_2)-U(T_1)$$ですね。
この値は,状態変化の途中経過によりません。つまり,「最初と最後の温度が同じなら,途中経過によらず内部エネルギーの変化$\varDelta U$ は等しくなる」のです。
そして今回!定積変化に注目することでその値が $\varDelta U=n\CV\varDelta T$ であることがわかりました。
この値は他の状態変化にも適応することができますので,「温度が $T_1$ から $T_2$ へと変化する状態変化において,内部エネルギーの変化は必ず $\varDelta U=n\CV\varDelta T$ でかける」ことがわかるのです!
「!」マークを多用していることからも伝わると思いますが,この内容を理解しておくことはとってもとっても重要です!
「どのような状態変化でも必ず $\varDelta U=n\CV\varDelta T$」と丸暗記している人が多いのですが,「なぜそうなのか?」を必ず自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。
内部エネルギーの変化 $\varDelta U$
理想気体のあらゆる状態変化における気体の内部エネルギーの変化 $\varDelta U$ は,定積モル比熱 $\CV$ を用いて,
$$\varDelta U=n\CV\varDelta T$$と表せる。
定積変化以外の様々な状態変化についても確認していきますが,内部エネルギーの変化といわれたら必ず $\varDelta U=n\CV\varDelta T$ です!
特に,単原子分子理想気体であれば $\CV=\Bun32R$ ですので,$\varDelta U=\Bun32nR\varDelta T$ になります。
迷わずパッとかけるようにしておきましょう。