向き合い方
奥は深いけど。
物理の問題を解いていると,時折出てくる近似の話。ちゃんと理解しようと思うと奥が深いのですが,入試問題を考えるうえではいくつかの代表例と原則を押さえておけば充分です。

「そういうもんだ」と割り切るのも大切。
いつ考える?
入試問題で近似を用いて考える必要がある場合は,「ただし,$|x|\ll1$ とする。」のような「近似を考えてね!!」という一文があります。これは「$x$ を微小量とみなして,近似をしてね」というメッセージ。

これを見たら近似を考える。逆に,何が微小量か与えられていないのに自分でイチから近似を考えないといけないことは稀。
この一文をみたら,「$x$ が微小量なんだな」ということを強く意識してください。$x\ll L$ のような条件の場合には,$\bun{x}{L}\ll1$ と変形して,$\bun{x}{L}$ を微小量として考えます。
ということで,「何が微小量かを確認する」のが最初の一歩。
近似の方法
どうやって近似するか
使う近似の式は問題文で与えられることが大半です。たとえば,「微小量 $x$ に対して,$\sqrt{1+x}\fallingdotseq1+\bun12x$ が成り立つものとしてよい。」などです。
このような近似式が与えられたら,「$\sqrt{1+x}$ の形を何が何でも作る!!」という目的意識を持って式変形をしていきます。

なんとなく式変形していても解けません。与えられた形を作り出そう,という意識が何より重要。
ということで,「与えられた形を目指して式変形していく」という方針で考えていきます。このとき,最初に確認した「何が微小量か」も忘れずに意識しましょう。
近似の考え方
「何が微小量か」を意識して,「作る式の形を目指して」式変形を進める。

よくある形の近似をみていきましょう。
$(1+x)^n$ の形の近似
使用する式
$|x|\ll1$ のとき,以下の近似が成り立ちます。
よくある近似①
$|x|\ll1$ のとき,
$$(1+x)^n\fallingdotseq 1+nx$$
このとき,$1+x$ という形がありますので,$x$ は次元のない物理量となることに気をつけてください。たとえば $l$ や $d$ が長さを表すとき,$(1+l)^2$ といった形にはなりません。$\left(1+\bun{d}{l}\right)^n$ のような形になります。
最もよくあるのは,$n=\bun12$ の場合です。
$$\sqrt{1+x}\fallingdotseq 1+\bun{x}{2}$$
となるため,見た目は少し異なったように見えます。
例題
ヤングの実験において,複スリットを通ってスクリーン上の位置 $x$ に到達する2つの光の光路差を求めよ。ただし,複スリットのスリット間の距離を $d$,複スリットとスクリーンの距離を $l$ とし,$x,\,d\ll l$ が成り立つものとする。
よくあるヤングの実験の例です。結論は覚えている人も多いでしょう。導出についてしっかりと確認していきます。
まず,スクリーン上に下ろした垂線の足をそれぞれ $\rmH_1$ ,$\rmH_2$ とします。
このとき,$\rmS_2\rmA$ は $\triangle\rmA\rm\rmS_2\rmH_2$ の斜辺になっていますね。図から,$\overline{\rmA\rmH_2}=x+\Bun{d}{2}$ であることがわかるので,三平方の定理から,
$$\overline{\rmS_2\rmA}=\left\{l^2+\left(x+\bun{d}{2}\right)^2\right\}^{\frac12}$$
であることがわかります。
目標の形は $(1+\stext{(微小量)})^n$ の形です。ではたとえば,$\left(x+\bun{d}{2}\right)^2$ の部分について考えてみましょう。この部分を近似が使える形に変形できるでしょうか…?

何が微小量になるかを意識すると…。
今回,$d,\,x\ll l$ という条件ですので,微小量は $\bun{d}{l}$ や $\bun{x}{l}$ です。$\left(x+\bun{d}{2}\right)^2$ の式について,$x$ と $\bun{d}{2}$ の大きさについて明確な大小関係があるわけではないので,$(1+\stext{(微小量)})^n$ の形に変形することはできません。
一方で,$\overline{\rmS_2\rmA}=\left\{l^2+\left(x+\bun{d}{2}\right)^2\right\}^{\frac12}$ の全体をみるとどうでしょうか。$l^2$ に比べて,$\left(x+\bun{d}{2}\right)^2$ は非常に小さい値です。つまり,
$$\left(\stext{(非常に大きな値)}+\stext{(非常に小さな値)}\right)^2$$
という形になっています。このとき, (非常に大きな値)をかっこの外に出すことで,$(1+\stext{(微小量)})^n$ の形を作ることができます。$l^2$ をかっこの外に出すように変形すると,
$$\begin{aligned}\left\{l^2+\left(x+\bun{d}{2}\right)^2\right\}^{\frac12}&=l\left\{1+\left(\bun{x+d/2}{l}\right)^2\right\}^{\frac12}\end{aligned}$$
です。$x+\bun{d}{2}\ll l$ ですので,ちゃんと $(1+\stext{(微小量)})^n$ の形になっていますね。よってこの形に近似式を利用することで,
$$\begin{aligned}l\left\{1+\left(\bun{x+d/2}{l}\right)^2\right\}^{\frac12}&\fallingdotseq l\left\{1+\bun12\left(\bun{x+d/2}{l}\right)^2\right\}\end{aligned}$$
と計算できます。
$\overline{\rmS_1\rmA}$ については,上の式中で $x+\bun{d}{2}\to x-\bun{d}{2}$ と変換するだけですので,
$$\overline{\rmS_1\rmA}\fallingdotseq l\left\{1+\bun12\left(\bun{x-d/2}{l}\right)^2\right\}$$
です。あとは頑張って展開して計算するだけ。
$$\overline{\rmS_2\rmA}-\overline{\rmS_1\rmA}=d\bun{x}{l}$$
という式が導かれます。

ヤングの実験の確認もついでに!
三角関数の近似
使用する式
$|x|\ll1$ のとき,以下の近似が成り立ちます。
よくある近似②
$|x|\ll1$ のとき,
$$\sin x\fallingdotseq \tan x\fallingdotseq x,\ \cos x\fallingdotseq 1$$
$\cos x\fallingdotseq 1$ の式よりも,
$$\sin x\fallingdotseq \tan x\fallingdotseq x$$
のほうが頻出です。

こちらの近似は式変形の方針で詰まることは少ないように思います。
まとめ
知っておくべき式
紹介した2種類の近似は頻出です。どちらもスムーズに式変形できるようにしておきましょう。
よく使う近似
$|x|\ll1$ のとき,
$$(1+x)^n\fallingdotseq 1+nx,\ \sin x\fallingdotseq \tan x\fallingdotseq x,\ \cos x\fallingdotseq 1$$
実戦では,「何が微小量なのか」を意識して,「与えられた近似の形ができるように式変形をする」という目的意識を持つことが何より大事です!