原子物理 物理

静止エネルギー

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師
物理基礎のトリセツ著者
数学のトリセツ共著者

静止エネルギー

信じられない話

まずはじめに,信じられないような発言からはじめましょう。

「質量もエネルギーの一種です!!」

羽白

どうですか…?信じられますか…?

質量がエネルギーになることもあるし,エネルギーが質量になることもある,ということです。にわかには信じがたいかもしれませんが,本当なのです。

相当するエネルギー

では,$m$ の質量がどのくらいのエネルギーに相当するかというと,光速を $c$ として,

$$E=mc^2$$

です。

この式!どこかしらで見たことはあるのではないでしょうか…!

羽白

アインシュタインといえば!物理といえばこの式!というくらい有名な式ですね。

このエネルギーは 静止エネルギー と呼ばれています。

具体的な値

具体的に値を考えてみましょう。

1円玉は1枚が $1\g$ です。この $1\g$ に相当する静止エネルギーは,

$$\begin{aligned}E&=(1.0\times10^{-3}\kg)\times(3.0\times10^{8}\ms)^2\\&=9.0\times10^{13}\J\end{aligned}$$

です。

恐ろしい値が出てきましたね。

生徒

$c$ の値が非常に大きいので,小さな質量であっても非常に大きな静止エネルギーに相当するのです…!

静止エネルギー

質量も位置エネルギーの一形態である。質量 $m$ は,

$$E=mc^2$$

のエネルギーに相当する。

質量欠損

静止エネルギーが関与する現象

これまでに見てきた古典物理学の範囲では,質量がエネルギーに変わったり,逆にエネルギーが質量に変わることはなかったため,静止エネルギーについては考えなくても議論が成立しました。

しかし,原子物理学の世界では質量に相当するエネルギーを考えないと説明がつかない現象があります。実際に見ていきましょう。

原子核のお話

これまでに学習してきた原子核ですが,陽子と中性子から構成されていました。

物理1549

合計の質量が $m$ の陽子と中性子が集まって原子核をつくるとき,原子核の質量 $m_0$ は当然 $m$,のはずなのですが…。

実際には,$m_0<m$ となることが知られています。ばらばらの状態から集まった原子核の状態になると,質量が減ってしまうのです。

この質量の差 $\varDelta m=m-m_0$ を 質量欠損 と呼びます。

結合エネルギー

以上の話から,原子核の状態よりもばらばらの状態のときの方がエネルギーが高く,その差が $\varDelta mc^2$ であることがわかりますね。

これはつまり,「原子核をばらばらにするためには,$\varDelta mc^2$ のエネルギーを加える必要がある」ということです。

このことから,$\varDelta mc^2$ を原子核の 結合エネルギー といいます。

物理1550

例題

質量数が $A$,原子番号が $Z$ である原子核の結合エネルギーを求めよ。ただし,陽子の質量を $m_{\mathrm{p}}$,中性子の質量を $m_{\mathrm{n}}$,原子核の質量を $m_0$ とする。

原子核を構成する陽子は $Z$ 個,中性子は $A-Z$ 個なので,ばらばらな状態における質量は,$Zm_{\mathrm{p}}+(A-Z)m_{\mathrm{n}}$ とかける。よって,

$$\varDelta m=Zm_{\mathrm{p}}+(A-Z)m_{\mathrm{n}}-m_0$$

であるため,求める結合エネルギーは,

$$\varDelta mc^2={Zm_{\mathrm{p}}+(A-Z)m_{\mathrm{n}}-m_0}c^2$$

比結合エネルギー

核子1つあたりで考える

核子1つあたりの結合エネルギーのことを 比結合エネルギー と呼びます。

結合エネルギーが $\varDelta E=\varDelta mc^2$ のとき,質量数を $A$ とすると,$\Bun{\varDelta E}{A}\mskip 5mu$ として比結合エネルギーを求めることができますね。

比結合エネルギーの比較

いろいろな原子核について,比結合エネルギーを計算してグラフにすると,次図のような概形になることが知られています。

物理1551

グラフから,質量数が $60$ 付近の $\ce{Fe}$(鉄)付近で比結合エネルギーが最も高くなることがわかります。

比結合エネルギーが高いということは,ばらばらにするために必要なエネルギーが高いということですので,しっかりと原子核が安定して結合していることになりますね。

反応の方向

また,グラフから,質量数が大きすぎる原子も小さすぎる原子も比結合エネルギーが小さく,不安定であることが読み取れます。

質量数が大きな分子は分裂することで(核分裂),小さな原子は結合することで(核融合),それぞれ安定化をはかります。

原子力発電では,原子番号が大きくて不安定なウランなどを核分裂させている!核融合ではない!と物理基礎で説明しましたが,このことも納得できるのではないでしょうか。

原子の安定性

核子1つあたりの結合エネルギーのことを比結合エネルギーと呼ぶ。その値は質量数が $60$ 程度の原子で最大となる。

質量数が大きな原子は核分裂を起こし,質量数が少ない原子は核融合を起こす。

-原子物理, 物理