ベクトルの内積
定義
平面上に3点 $\rmO$,$\rmA$,$\rmB$ があり,$\angle \rmA\rmO\rmB=\theta$,$\vec{a}=\vec{\rmO\rmA}$,$\vec{b}=\vec{\rmO\rmB}$ とします。$\triangle\rmO\rmA\rmB$ について,余弦定理より,
$$\begin{aligned}\left|\vec{\rmA\rmB}\right|^2=\left|\vec{a}\right|^2+\left|\vec{b}\right|^2-2\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta\stext{\quad…\ ①}\end{aligned}$$が成り立ちます。
この式から,$\theta$ の値によって $\left|\vec{\rmA\rmB}\right|$ の大きさは変化することがわかりますので,$\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta$ という値は何かしらの意味がありそうですね。
この,$\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta$ を $\vec{a}$ と $\vec{b}$ の内積といい,$\vec{a}\cdot\vec{b}$ で表します。
ベクトルの内積①
$\vec{0}$ でない2つのベクトル $\vec{a}$,$\vec{b}$ のなす角を $\theta\ (0\Deg\leqq\theta\leqq180\Deg)$ とするとき,$\vec{a}$,$\vec{b}$ の内積$\vec{a}\cdot\vec{b}$ を,
$$\vec{a}\cdot\vec{b}=\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta$$と定義する。
内積と成分
内積の計算
座標平面上に原点 $\rmO$,$\rmA(x_1,\,y_1)$,$\rmB(x_2,\,y_2)$ と座標を設定してみましょう。
$\angle \rmA\rmO\rmB=\theta$,$\vec{a}=\vec{\rmO\rmA}$,$\vec{b}=\vec{\rmO\rmB}$ とすると,
$$\begin{aligned} &\left|\vec{\rmA\rmB}\right|^2=(x_2-x_1)^2+(y_2-y_1)^2\\ &\left|\vec{\rmO\rmA}\right|^2=\left|\vec{a}\right|^2=x_1^2+y_1^2\\&\left|\vec{\rmO\rmB}\right|^2=\left|\vec{b}\right|^2=x_2^2+y_2^2 \end{aligned}$$がそれぞれ成り立ちます。
この結果を利用して余弦定理を整理していきましょう!
$\triangle\rmO\rmA\rmB$ について,余弦定理より,
$$\left|\vec{\rmA\rmB}\right|^2=\left|\vec{a}\right|^2+\left|\vec{b}\right|^2-2\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta$$が成り立つので,これに先ほどの3つの式の結果を代入して整理すると,
$$\begin{aligned}&(x_2-x_1)^2+(y_2-y_1)^2=x_1^2+y_1^2+x_2^2+y_2^2-2\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta\\&\therefore\quad\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta=x_1x_2+y_1y_2 \end{aligned}$$が得られます。
式の左辺は,$\vec{a}\cdot\vec{b}$ ですから,次のことが成り立ちます。
ベクトルの内積②
$\vec{0}$ でない2つのベクトル $\vec{a}=(x_1,\,y_1)$,$\vec{b}=(x_2,\,y_2)$ の内積は,
$$\vec{a}\cdot\vec{b}=\mat{x_1}{y_1}\cdot\mat{x_2}{y_2}=x_1x_2+y_1y_2$$
注意点
内積 $\vec{a}\cdot\vec{b}$ は,「$\cdot$」という記号を使っているのでかけ算のように思われがちですが,これはかけ算ではありません。
「$\cdot$」という記号が「ベクトルの内積」という演算を表しています。また,内積の演算結果はベクトルではなくスカラーになっていることもポイントです。2つのベクトルから生まれる新しい値(スカラー)だと考えてください。
ここの部分,とっても大事!
注意点ですが,$\vec{a}\cdot\vec{b}$ の「$\cdot$」記号を省略してはいけません。
また,$\vec{a}\times\vec{b}$ は内積ではなく「外積」という別の演算になりますので,$\vec{a}\cdot\vec{b}$ を $\vec{a}\times\vec{b}$ のようにかくことはできません。
角度の計算
ベクトルのなす角を内積で表すこともできます。$\vec{a}\cdot\vec{b}=\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|\cos\theta$ より,次の式が成り立ちます。
ベクトルのなす角と内積
$\vec{0}$ でない2つのベクトル $\vec{a}$,$\vec{b}$ のなす角 $\theta$ について,以下が成立する。
$$\cos\theta=\bun{\vec{a}\cdot\vec{b}}{\left|\vec{a}\right|\left|\vec{b}\right|}$$
内積の性質
さまざまな性質
座標平面での定義から,内積は以下の性質をもつことがわかります。
内積の性質 その1
以下の関係式が成立する。
$$\begin{aligned}&\stext{①}\ \vec{a}\cdot\vec{b}=\vec{b}\cdot\vec{a}\\&\stext{②}\ \left(\vec{a}+\vec{b}\right)\cdot\vec{c}=\vec{a}\cdot\vec{c}+\vec{b}\cdot\vec{c}\\&\stext{③}\ \left(k\vec{a}\right)\cdot\vec{b}=k\vec{a}\cdot\vec{b}\quad \stext{(ただし $k$ は定数)}\\&\stext{④}\ \vec{a}\cdot\vec{a}=\left|\vec{a}\right|^2\end{aligned}$$
①〜③については,内積を表す記号である「$\cdot$」は省略できないものの,文字式のかけ算と同じようなイメージですね。
④の $\vec{a}\cdot\vec{a}$ は,なす角が $0\Deg$, なので,
$$\vec{a}\cdot\vec{a}=\left|\vec{a}\right|\left|\vec{a}\right|\cos0\Deg=\left|\vec{a}\right|^2$$となります。
また,この性質 ④より,次の式が成り立ちます。
内積の性質 その2
以下の式が成立する。
$$\left|\vec{a}\pm\vec{b}\right|^2=\left|\vec{a}\right|^2\pm2\vec{a}\cdot\vec{b}+\left|\vec{b}\right|^2\quad\stext{(複号同順)}$$
証明も確認しておきましょう。
以下,複号同順とする。
$$\begin{aligned} \left|\vec{a}\pm\vec{b}\right|^2&=(\vec{a}\pm\vec{b})\cdot(\vec{a}\pm\vec{b})\\ &=\vec{a}\cdot\vec{a}\pm\vec{a}\cdot\vec{b}\pm\vec{b}\cdot\vec{a}+\vec{b}\cdot\vec{b}\\ &=\left|\vec{a}\right|^2\pm2\vec{a}\cdot\vec{b}+\left|\vec{b}\right|^2 \end{aligned}$$