熱機関と $P-V$ グラフ
熱機関における内部エネルギー変化
物理基礎で学習した熱機関について改めて確認しておきましょう。
熱機関は何度も同じサイクルを繰り返して仕事をするため,1サイクルを終えると必ず元の状態に戻るのでした。
もちろん温度も元通りになりますので,1サイクルにおける内部エネルギーの変化は必ず $0$ になります。
熱機関における仕事
では,熱サイクルの $P-V$ グラフについて考えてみましょう。最初と最後の位置は同じですので,1サイクルで $P-V$グラフも元の点に戻ります。
よってたとえば次図のように,ぐるっと1周する $P-V$ グラフになるわけですね。
続いて,$P-V$ グラフとサイクル1周において気体がする正味の仕事(気体がした仕事 $-$ 気体がされた仕事)$W\net$ の関係について考えてみましょう。
気体が膨張するとき(体積が大きくなるとき)には外部に仕事をし,圧縮されるとき(体積が小さくなるとき)には外部から仕事をされるため,膨張過程と圧縮過程に分けて考えます。
まず,膨張過程は上図の通りです。この過程における $P-V$グラフの符号付き面積は正の値で,「気体が外部にした仕事」を表しています。
続いて,圧縮過程です。この過程における $P-V$ グラフの符号付き面積は負の値で,「気体が外部からされた仕事」を表しています。
これらの合計が,1サイクルにおける気体の正味の仕事 $W\net$ です。
圧縮過程の面積は「負の面積」ですので,① の領域から ② の領域を引いた部分の面積を考えればokですね。
つまり,サイクルの $P-V$グラフが囲む部分の面積が $W\net$ になるのです。
正味の仕事 $W\net$
熱サイクルにおいて,気体がする正味の仕事 $W\net$ は,サイクルの $P-V$ グラフが囲む領域の面積に等しい。
熱効率
具体的な計算
これまでに学習した内容を踏まえて,実際の熱サイクルにおける熱効率を計算してみましょう。
熱効率を考える際には,熱量の正負が非常に重要になります。その過程が吸熱過程なのか,放熱過程なのかがわかりやすくなるように,表を用いて状況を整理しながら解き進めます。
例題
$1\mol$ の単原子分子理想気体を,なめらかに動くピストンを持つシリンダーに封入し,図の $P-V$ グラフの変化を1サイクルとする熱機関を作った。気体定数を $R$ とし,以下の問いに答えよ。
$\rmA\to\rmB$,$\rmB\to\rmC$ の過程における吸熱量をそれぞれ求めよ。
この熱機関の熱効率$e$ を求めよ。
各過程の整理
設問ごとに解いてもよいのですが,表にまとめて整理してしまうという方法も有効です。まずは各過程における変化をそれぞれ確認しましょう。
A→B:定積変化
定積変化ですので,$W\out=0$ です。
体積が一定ですので,$\varDelta P\cdot V=nR\varDelta T$ が成り立ちます。$\varDelta P=2P_0$ ですので,$\varDelta T=\Bun{2P_0V_0}{R}$ ですね。
よって,
$$Q\in=\varDelta U=\CV\varDelta T=\bun32R\cdot\bun{2P_0V_0}{R}=3P_0V_0$$であることがわかります。
B→C:定圧変化
$P-V$ グラフの面積から,$W\out=3P_0\cdot3V_0=9P_0V_0$ であることがわかります。
定圧変化の性質を用いると,
$$Q\in=\bun52W\out=\bun{45}{2}P_0V_0,\ \varDelta U=\bun32W\out=\bun{27}{2}P_0V_0$$が直ちに得られます。
ここで「定圧変化の性質」を使って比でぱっと計算するのが大事!
C→D:定積変化
① と同様に考えます。$\varDelta P=-2P_0$ ですので,
$$\varDelta T=-\bun{-2P_0\cdot4V_0}{R}=-\bun{8P_0V_0}{R}$$が得られます。よって,
$$Q\in=\varDelta U=\CV\varDelta T=\bun32R\cdot\left(-\bun{8P_0V_0}{R}\right)=-12P_0V_0$$です。
D→A:定圧変化
$P-V$ グラフの面積から,$W\out=-P_0\cdot3V_0=-3P_0V_0$ です。
定圧変化の性質から,
$$Q\in=\bun52W\out=-\bun{15}{2}P_0V_0,\ \varDelta U=\bun32W\out=-\bun{9}{2}P_0V_0$$が得られます。
表での整理
以上をまとめると,次の表が完成します。
サイクル1周で,$\varDelta U$ の和が $0$ になっていることが確認できますね。なお,$\rmA\to\rmB$ の過程の吸熱量は $3P_0V_0$,$\rmB\to\rmC$ の過程の吸熱量は $\Bun{45}{2}P_0V_0$ であり,これが (1) の答えです。
熱効率の計算
続いて,熱効率を求めましょう。
吸熱過程は ①,② ですので,サイクルにおける合計吸熱量 $Q_1$ は,
$$Q_1=3P_0V_0+\bun{45}{2}P_0V_0=\bun{51}{2}P_0V_0$$です。
一方,③,④ の過程は放熱過程(熱が無駄になってしまう過程!)であり,合計放熱量 $Q_2$ は,
$$Q_2=12P_0V_0+\bun{15}{2}P_0V_0=\bun{39}{2}P_0V_0$$です。
以上から,熱効率は,
$$e=\bun{Q_1-Q_2}{Q_1}=\bun{12}{51}$$として求まります。
$W\net$ を利用した計算
あるいは,気体の正味の仕事 $W\net$ を用いて計算してもよいでしょう。
$W\net$ は $W\out$ の合計ですので,表から $9P_0V_0-3P_0V_0=6P_0V_0$ として得られます。よって,
$$e=\bun{W\net}{Q_1}=\bun{12}{51}$$として先ほどと同じ値が得られますね。
表をかかずに問題を解くのであれば,① と ② の過程から $Q_1$ のみを求め,$P-V$ グラフの囲む面積から $W\net=2P_0\cdot3V_0=6P_0V_0$ と計算し,$e=\Bun{W\net}{Q_1}$ を利用して答えを求めるのがベストな方法といえるでしょう。
熱力学第二法則
熱力学第二法則の表現
物理基礎でも学習したとおり,$e=1$ となるような熱機関は存在しません。必ず $e<1$ となります。これを熱力学第二法則と呼びます。
他にも,「熱が自然に低温の物質から高温の物質に移動することはない。」「ある熱源から熱を取り込み、他に変化を残すことなくその熱をすべて仕事に変換するサイクルは存在しない。」といった表現がされますが,意味しているものは同じです。
この熱力学第二法則によって,熱現象の方向性が決定されます。
たとえば,「熱いお湯の熱が大気中に放出され,お湯が冷める」という現象は不可逆変化(逆をたどれない変化)ですよね。「お湯が自然に冷めることはあっても,お湯が大気中の熱を吸収して勝手に沸騰することはないですよ!」というのを決定づけているのが熱力学第二法則なのです。