ポアソンの法則
法則について
さて,準静的変化であるような断熱変化では,以下のポアソンの法則が成立します。
ポイント
準静的な断熱変化において,
$$PV^{\gamma}=\stext{(一定)}$$が成立する。
ただし,$\gamma$ は比熱比 $\Bun{\CP}{\CV}$ を表す。
このポアソンの法則を用いて,断熱変化の $P-V$グラフについて考えてみましょう。
いきなりグラフを考えるのは難しいので,まずは次の例題から。
例題
圧力が $P$,体積が $V$ の理想気体がある。この気体を断熱膨張させ,体積を $2V$ にした。このときの気体の圧力を求めよ。ただし,気体の比熱比を $\gamma$ とする。
ポアソンの法則より,
$$PV^{\gamma}=P'(2V)^{\gamma}$$が成立する。これを整理して,
$$P'=\bun{1}{2^{\gamma}}P$$
断熱変化の $P-V$ グラフ
では,$P-V$ グラフの概形はどのような形になるでしょうか?
ポアソンの法則の式を変形すると,
$$P=\Bun{\stext{(一定値)}}{V^{\gamma}}$$が得られます。
この形,等温変化と似ていることに気付きますか…?
等温変化であれば,$T$ が一定値ですので,状態方程式より
$$PV=nRT=\stext{(一定値)}$$です。変形すると,
$$P=\Bun{\stext{(一定値)}}{V}$$ですね。
$P$ と $V$ は反比例の関係でしたので,グラフは双曲線になるのでした。
ということは,断熱変化の $P-V$グラフも等温変化の双曲線と似た形になることが予想されます。
あとは,等温変化のグラフとの位置関係がわかればokです。
簡単な例
状態 $\rmA$ から気体を等温変化させた場合の $P-V$ グラフがある。同じ状態 $\rmA$ から気体を断熱変化させた場合,$P-V$ グラフの概形は図の ①,② のどちらになるか?(等温変化の $P-V$ グラフよりも上側になるか,下側になるか)
見た瞬間に,「$\gamma>1$ なんだから当然 ②でしょ!」ということが理解できた,数学が得意なあなたはしばらく読み飛ばしてokです!
具体例で考える
さて,ぱっとわからなければ具体的に考えてみましょう。等温変化も断熱変化も$\rmA$点からスタートして,体積が $2$ 倍になるところまで変化させたとします。
等温変化の場合は,$PV=\stext{(一定)}$ ですから,$V$ が $2$ 倍なら $P$ は $\Bun12$ 倍ですね。
断熱変化の場合は,先ほどの例題からもわかる通り,$\Bun{1}{2^{\gamma}}$ 倍です。$\gamma$ は比熱比であり,$\gamma=\Bun{\CP}{\CV}>1$ ですので,$\Bun{1}{2}>\bun{1}{2^{\gamma}}$ であることがわかります。
つまり,断熱変化の終状態の圧力よりも,等温変化の終状態の圧力の方が高いことがわかりますので,このことから ② のグラフが正解であることがわかります。
ポイント
ある状態から気体を膨張させる場合,等温変化と断熱変化で $P-V$グラフを比較する。この際,断熱変化のグラフは,等温変化のグラフの下側に位置する。
ポアソンの法則の導出
微小変化で考える
ここから先の導出過程は難しいので,初学の際は読み飛ばしてokです!
準性的な断熱変化における微小変化を考えます。温度が $\dT$ だけ変化した際に,気体の体積は $\dV$ だけ変化したとします。
この変化は微小変化なので圧力は変化しないものと考えると,気体のする仕事は,
$$W\out=P\dV$$とかけますね。よって,熱力学第一法則から,
$$0=n\CV\dT+P\dV \qquad\therefore \quad n\CV\dT=-P\dV$$が成立することがわかります。
この式を状態方程式 $PV=nRT\ (nRT=PV)$ で辺々割ると,
$$\bun{\CV}{R}\bun{\dT}{T}=-\bun{\dV}{V}\qquad\therefore \quad \bun{\dT}{T}=-\bun{R}{\CV}\bun{\dV}{V}$$が得られます。
足し合わせ(積分)
得られた式の両辺を積分する(微小変化を足し合わせる)と,
$$\int\bun{1}{t}\dT=-\bun{R}{\CV}\int\bun{1}{V}\dV\qquad\therefore \quad \log T=-\bun{R}{\CV}\log V+C$$が得られます($C$ は積分定数)。この式をさらに変形すると,
$$\begin{aligned} \log T+\Bun{R}{\CV}\log V=C&\Leftrightarrow \log TV^{\frac{R}{\CV}}=C\\&\Leftrightarrow TV^{\frac{R}{\CV}}=\stext{(一定)}\stext{\quad……\ ①} \end{aligned}$$であることがわかります。
状態方程式を用いた整理
状態方程式から,$T=\bun{PV}{nR}$ であることがわかりますので,これを ① 式に代入して整理すると,
$$PV^{1+\frac{R}{\CV}}=nR\times\stext{(一定値)}\stext{\quad……\ ②}$$が得られます。
$V$ の指数について,マイヤーの関係式を利用することで,
$$1+\bun{R}{\CV}=\bun{\CV+R}{\CV}=\bun{\CP}{\CV}=\gamma$$と整理できます。
また,$n$ も $R$ も変化しないので,②式の右辺を改めて
$$nR\times\stext{(一定値)=\stext{(一定)}}$$とすれば,
$$PV^{\gamma}=\stext{(一定)}$$
としてポアソンの法則が得られます。
成立条件
式変形に状態方程式を利用しましたね!
つまり,状態変化の途中で常に状態方程式が成立している必要があります。
状態方程式が成立するためには,気体にムラが生じては困りますから,準静的変化である必要があるわけですね。
ポアソンの法則の表現方法
式変形
$PV^{\gamma}=\stext{(一定)}$ として表されたポアソンの法則を変形してみましょう。
P を消去する
状態方程式から,$P=\Bun{nRT}{V}$ が成りたつので,
$$\begin{aligned} \bun{nRT}{V}\cdot V^{\gamma}=\stext{(一定)}&\Leftrightarrow T\cdot V^{\gamma-1}=\bun{1}{nR}\times\stext{(一定)} \end{aligned}$$
ここで,右辺の $\Bun{1}{nR}$ は一定値ですので,改めて右辺全体を一定とかき直すと,
$$TV^{\gamma-1}=\stext{(一定)}$$が得られます。
圧力 $P$ はわからないけど,体積 $V$ と温度 $T$ はわかっている,というときに便利な形です。
Vを消去する
状態方程式から,$V=\Bun{nRT}{P}$ が成りたつので,
$$\begin{aligned} P\cdot\left(\bun{nRT}{P}\right)^{\gamma}=\stext{(一定)}&\Leftrightarrow P^{1-\gamma}\cdot T^{\gamma}=\left(\bun{1}{nR}\right)^{\gamma}\times\stext{(一定)} \end{aligned}$$
右辺の $\left(\Bun{1}{nR}\right)^{\gamma}$ は一定値ですので,改めて右辺全体を一定とすれば,
$$P^{1-\gamma}T^{\gamma}=\stext{(一定)}$$が得られます。
圧力 $P$ と温度 $T$ はわかっている,というときに便利な形です。
表記のまとめ
このように,ポアソンの法則は状態方程式を用いて変形することで,3通りの表現が得られます。
$PV^{\gamma}=\stext{(一定)}$ を覚えておき,他の形が使いやすい場合にはその場で導いて利用するのがよいでしょう。
ポアソンの法則の表記
状態方程式を用いて変形すると,ポアソンの法則は,
$$\begin{aligned}PV^{\gamma}&=\stext{(一定)}\\TV^{\gamma-1}&=\stext{(一定)}\\P^{1-\gamma}T^{\gamma}&=\stext{(一定)}\end{aligned}$$の3通りの表現ができる。