倒れる・倒れないについて
条件の考え方
大きさのある剛体の静止条件を考える際には,剛体が回転する(倒れる)条件を考える必要があります。
「滑る・滑らないを考える問題」と同様に,まずは「倒れないと仮定する」ことが重要になります。例題を通して,解き方を確認していきましょう。
例題
横幅が $b$,高さが $a$ の直方体の形をした質量 $M$ の物体が粗い床の上に置かれている。この物体の右端の$\rmA$点に大きさが $F$ の力を加えたが,剛体は静止したままだった。$F$ が満たすべき条件を求めよ。ただし,床と物体の間に滑りは生じないものとする。
「倒れていない状況」を考えていますので,剛体は静止しています。
ということで,力のつり合いと力のモーメントのつり合いを立式していきます。
力の作用図に力をかき込んでいくのですが,ここで困ったことが起こります。
垂直抗力と摩擦力の作用点がわかりませんよね。
そこで,垂直抗力と摩擦力の作用点を文字で置くことがポイントになります。
垂直抗力と摩擦力は本来は「抗力」という1つの力ですので,作用点が共通していることに注意してください。
たとえば,図のように作用点を設定してみます。垂直抗力と静止摩擦力は大きさがわかりませんので,ひとまず大きさを文字で設定するという点はこれまでと同じです。
重力の作用点は重心になりますね。
力のつり合いから,
$$Mg=N,\ f=F$$が成り立つことはすぐにわかりますね。
力のモーメントのつり合いは$\rmB$点まわりで考えるとよいでしょう。
$$bF+Nx=\bun{a}{2}\cdot Mg$$として立式できます。
これらの式を $x$ について整理することで,
$$x=\bun{a}{2}-b\cdot\bun{F}{Mg}$$が得られます。
この $x$ は,垂直抗力と静止摩擦力の作用点を表していましたが,剛体と床の接触面に存在していないと困りますよね。
つまり,$0\leqq x\leqq a$ でないといけません。この条件式に,先ほど求めた $x$ を代入すると,
$$0\leqq\bun{a}{2}-b\cdot\bun{F}{Mg}\leqq a$$
が得られますが,$F>0$ なので,$\bun{a}{2}-b\cdot\bun{F}{Mg}\leqq a$ は必ず成立します。
よって,$0\leqq\bun{a}{2}-b\cdot\bun{F}{Mg}$ を整理して得られる,
$$\Bun{a}{2b}\cdot Mg\geqq F$$が,今回の状況を成立させるための条件になるわけです。
$\Bun{a}{2b}\cdot Mg<F$ となってしまうと,$x<0$ となるため,作用点が剛体の外に飛び出してしまい,おかしなことになってしまいます。
こんな状況はありえないので,「剛体が倒れないという仮定が間違っていた」と考える必要があります。
つまり,剛体は実際には倒れていた,と結論づけることができます。
別の方法
ちなみに,作用点の設定は他の方法でも可能です。たとえば,図のように力の作用点を設定したとしましょう。
この場合,重心まわりの力のモーメントのつり合いの式は,
$$\bun{b}{2}\cdot F+\bun{b}{2}\cdot f=Nx$$となります。$N=Mg$,$f=F$ を代入して整理すると,
$$x=b\cdot\bun{F}{Mg}$$が得られます。
作用点はやはり剛体と床の接触面に存在していないといけないので,$-\Bun{a}{2}\leqq x\leqq\bun{a}{2}$ である必要がありますね。
$F>0$ より,$x>0$ であることは確認できるので,$x\leqq\bun{a}{2}$ を $F$ について整理します。すると,
$$\Bun{a}{2b}\cdot Mg\geqq F$$が得られますが,これは先ほど求めた答えと同じになっていますね。
まとめ
問題を解く際には,力のモーメントが計算しやすくなるように工夫して作用点の位置を文字で置くようにしましょう!
倒れる・倒れないの考え方
- まず,倒れないと仮定し,垂直抗力や静止摩擦力の作用点を文字で置く。
- 力のつり合いの式と力のモーメントのつり合いの式を連立して,自分で設定した文字の値を求める。
- 自分が設定した作用点が,剛体と床の接触面に存在する条件を考えて設問に答える。