力学 物理

重心

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師
物理基礎のトリセツ著者
数学のトリセツ共著者

剛体の重心

重心とは

これまでに扱ってきた質点の力の作用図では,重力は「鉛直下向きに mgmg」とすんなりかくことができましたが,剛体の場合はどうでしょうか。

「鉛直下向きに mgmg」であることは確かなのですが,作用点を考えないといけないですね。

この重力の作用点のことを重心と呼びます。

剛体に作用する重力

剛体に作用する重力の作用点は,剛体の重心として考える。

重心を求めるために

剛体の重心を求めるために,質量が mm の剛体を nn 個の小さな部分に分割して考えます(それぞれが質点とみなせるくらい小さく!)。

それぞれの質量を m1,m2,mnm_1,\,m_2,\,\ldots m_n とすると,

m=m1+m2+mnm=m_1+m_2+\cdots m_nが成り立ちます。

この nn 個それぞれの「パーツ」に働く重力の合力が,剛体に働く重力と考えることができるはずです。

そこで,1つ1つの重力を合成していきましょう。いきなり nn 個だと頭がパンクしてしまうので,まずは2つのパーツで考えます。

2物体の重心

重力の作用点を考える

図のように,質量 m1,m2m_1,\,m_2 の物体がそれぞれ xx 軸上の x=x1,x2x=x_1,\,x_2 の位置にあるものとします。

このとき,それぞれの物体に作用する重力の合力は,大きさが (m1+m2)g(m_1+m_2)g であり,2物体間を m2g:m1g=m2:m1m_2g:m_1g=m_2:m_1 に内分する点になります。

この点の座標を xGx\SUB{G} とすると,内分点の公式から,

xG=m1x1+m2x2m1+m2x\SUB{G}=\Bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}であることがわかりますね。

この点が2物体の重心の座標となります。

この,2物体の重心 xGx\SUB{G}(m1+m2)g(m_1+m_2)g の重力が作用している状況は,はじめから xGx\SUB{G} の位置に質量が m1+m2m_1+m_2 の1つの物体が存在していた場合と同じ状況と考えることができます。

なお,実際には3次元空間で考えるため,yy 座標や zz 座標も考えないといけないのですが,同様の式で計算することができます。

2物体の重心

質量がそれぞれ m1,m2m_1,\,m_2 の物体が x=x1,x2x=x_1,\,x_2 の位置に存在するとき,2物体の重心の座標は,xG=m1x1+m2x2m1+m2x\SUB{G}=\Bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2} となる。

剛体の重心の求め方

nn 個への拡張

2物体の重心の求め方がわかりましたので,nn 個の物体の重心を求めるにあたってはこれを繰り返していけばokです。

2物体の重心を考えることで,質量 m1+m2m_1+m_2 の物体が x=m1x1+m2x2m1+m2x=\Bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2} の位置にある状況として考えることができました。

羽白

この物体と,3番目のパーツの重心を考えてみましょう。

3番目のパーツは質量が m3m_3 であり,x=x3x=x_3 の位置にあるものとすれば,その重心の座標は,

xG=(m1+m2)(m1x1+m2x2m1+m2)+m3x3(m1+m2)+m3=m1x1+m2x2+m3x3m1+m2+m3\begin{aligned}x\SUB{G}\prime &=\bun{(m_1+m_2)\left(\bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}\right)+m_3x_3}{(m_1+m_2)+m_3}\\[12pt]&=\bun{m_1x_1+m_2x_2+m_3x_3}{m_1+m_2+m_3}\end{aligned}です。

この x=xGx=x\SUB{G}\prime の位置に,m1+m2+m3m_1+m_2+m_3 の質量の物体があるものと考えることができますね。

4番目以降のパーツも同様にまとめていくことで,nn 個のパーツ全体の重心の位置が,

x=m1x1+m2x2+mnxnm1+m2+mnx=\Bun{m_1x_1+m_2x_2+\cdots m_nx_n}{m_1+m_2+\cdots m_n}であることがわかります。

yy 座標,zz 座標も同様に考えると,まとめて表記することも可能です。

各パーツの位置ベクトルを r1,r2,,rn\vec{r_1},\,\vec{r_2},\,\ldots,\,\vec{r_n} とすると,全体の重心の座標は,

rG=m1r1+m2r2++mnrnm1+m2++mn\vec{r\SUB{G}}=\Bun{m_1\vec{r_1}+m_2\vec{r_2}+\cdots+m_n\vec{r_n}}{m_1+m_2+\cdots+m_n}になります。

重力の合力の大きさは,(m1+m2++mn)g=mg(m_1+m_2+\cdots+m_n)g=mg ですので,この重心に剛体の重力 mgmg がかかると考えてよいことが確認できますね。

具体例の確認

羽白

「こんなメンドウな計算,やってられない!」と思った皆さん,安心してください。

重心は「物体の代表点」であり,直感的にわかることが大半です。たとえば,円盤の重心は円盤の中心になりますし,棒の重心も棒の中心になります。

例題

長さが ll,質量が MM の太さが一様でない棒がある。この棒の右端である A\rmA 点に鉛直上向きの力を加えたところ,大きさが FF になったところで A\rmA 点が地面から離れた。棒の左端から重心までの距離を求めよ。ただし,重力加速度の大きさを gg とする。

太さも素材も一様な棒であれば,重心は棒の中心となります。今回は太さが一様ではない棒で考えているため,重心の位置は棒の中心とは限りません。

棒の左端から重心までの距離を LL とする。

棒の左端まわりの力のモーメントのつり合いより,

Fl=MgLFl=MgLが成り立つ。これを整理して,L=FMglL=\bun{F}{Mg}l

力のつり合いを考えるにあたっては,棒の左端において作用する垂直抗力を考える必要がある。この垂直抗力の,棒の左端まわりの力のモーメントは 00 となるため,解答の力の作用図においては省略した。

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