剛体の重心
重心とは
これまでに扱ってきた質点の力の作用図では,重力は「鉛直下向きに $mg$」とすんなりかくことができましたが,剛体の場合はどうでしょうか。
「鉛直下向きに $mg$」であることは確かなのですが,作用点を考えないといけないですね。
この重力の作用点のことを重心と呼びます。
剛体に作用する重力
剛体に作用する重力の作用点は,剛体の重心として考える。
重心を求めるために
剛体の重心を求めるために,質量が $m$ の剛体を $n$ 個の小さな部分に分割して考えます(それぞれが質点とみなせるくらい小さく!)。
それぞれの質量を $m_1,\,m_2,\,\ldots m_n$ とすると,
$$m=m_1+m_2+\cdots m_n$$が成り立ちます。
この $n$ 個それぞれの「パーツ」に働く重力の合力が,剛体に働く重力と考えることができるはずです。
そこで,1つ1つの重力を合成していきましょう。いきなり $n$ 個だと頭がパンクしてしまうので,まずは2つのパーツで考えます。
2物体の重心
重力の作用点を考える
図のように,質量 $m_1,\,m_2$ の物体がそれぞれ $x$ 軸上の $x=x_1,\,x_2$ の位置にあるものとします。
このとき,それぞれの物体に作用する重力の合力は,大きさが $(m_1+m_2)g$ であり,2物体間を $m_2g:m_1g=m_2:m_1$ に内分する点になります。
この点の座標を $x\SUB{G}$ とすると,内分点の公式から,
$$x\SUB{G}=\Bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}$$であることがわかりますね。
この点が2物体の重心の座標となります。
この,2物体の重心 $x\SUB{G}$ に $(m_1+m_2)g$ の重力が作用している状況は,はじめから $x\SUB{G}$ の位置に質量が $m_1+m_2$ の1つの物体が存在していた場合と同じ状況と考えることができます。
なお,実際には3次元空間で考えるため,$y$ 座標や $z$ 座標も考えないといけないのですが,同様の式で計算することができます。
2物体の重心
質量がそれぞれ $m_1,\,m_2$ の物体が $x=x_1,\,x_2$ の位置に存在するとき,2物体の重心の座標は,$x\SUB{G}=\Bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}$ となる。
剛体の重心の求め方
$n$ 個への拡張
2物体の重心の求め方がわかりましたので,$n$ 個の物体の重心を求めるにあたってはこれを繰り返していけばokです。
2物体の重心を考えることで,質量 $m_1+m_2$ の物体が $x=\Bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}$ の位置にある状況として考えることができました。
この物体と,3番目のパーツの重心を考えてみましょう。
3番目のパーツは質量が $m_3$ であり,$x=x_3$ の位置にあるものとすれば,その重心の座標は,
$$\begin{aligned}x\SUB{G}'&=\bun{(m_1+m_2)\left(\bun{m_1x_1+m_2x_2}{m_1+m_2}\right)+m_3x_3}{(m_1+m_2)+m_3}\\[12pt]&=\bun{m_1x_1+m_2x_2+m_3x_3}{m_1+m_2+m_3}\end{aligned}$$です。
この $x=x\SUB{G}'$ の位置に,$m_1+m_2+m_3$ の質量の物体があるものと考えることができますね。
4番目以降のパーツも同様にまとめていくことで,$n$ 個のパーツ全体の重心の位置が,
$$x=\Bun{m_1x_1+m_2x_2+\cdots m_nx_n}{m_1+m_2+\cdots m_n}$$であることがわかります。
$y$ 座標,$z$ 座標も同様に考えると,まとめて表記することも可能です。
各パーツの位置ベクトルを $\vec{r_1},\,\vec{r_2},\,\ldots,\,\vec{r_n}$ とすると,全体の重心の座標は,
$$\vec{r\SUB{G}}=\Bun{m_1\vec{r_1}+m_2\vec{r_2}+\cdots+m_n\vec{r_n}}{m_1+m_2+\cdots+m_n}$$になります。
重力の合力の大きさは,$(m_1+m_2+\cdots+m_n)g=mg$ ですので,この重心に剛体の重力 $mg$ がかかると考えてよいことが確認できますね。
具体例の確認
「こんなメンドウな計算,やってられない!」と思った皆さん,安心してください。
重心は「物体の代表点」であり,直感的にわかることが大半です。たとえば,円盤の重心は円盤の中心になりますし,棒の重心も棒の中心になります。
例題
長さが $l$,質量が $M$ の太さが一様でない棒がある。この棒の右端である $\rmA$ 点に鉛直上向きの力を加えたところ,大きさが $F$ になったところで $\rmA$ 点が地面から離れた。棒の左端から重心までの距離を求めよ。ただし,重力加速度の大きさを $g$ とする。
太さも素材も一様な棒であれば,重心は棒の中心となります。今回は太さが一様ではない棒で考えているため,重心の位置は棒の中心とは限りません。
棒の左端から重心までの距離を $L$ とする。
棒の左端まわりの力のモーメントのつり合いより,
$$Fl=MgL$$が成り立つ。これを整理して,$L=\bun{F}{Mg}l$