気柱振動とは
気柱振動について
筒状の容器内部の空気分子を振動させることで,音を出すことができます。
このように,気柱内の空気を振動させることで音を出しているのが管楽器ですね。
リコーダーやフルートなど,馴染みの多い楽器も多いのではないでしょうか。
こうした気柱の振動を考える際も,弦振動と考え方が非常に似ています。
気柱内部の空気分子が振動することで音が出るのですが,気柱の両端においても空気分子の振動の波が反射することが知られています。
弦振動のように目に見える振動ではないので非常にイメージが湧きづらいのが難しいところですね。
気柱の手前から入射した音波が気柱の奥の端で反射されて手前に戻り,また手前の端で反射されて奥の端に向かって進んでいき…。
というように,反射が繰り返されることで気柱内には左右にそれぞれ進む進行波が生成されます。
この波が重なり合って定在波ができると大きな音が鳴る,という仕組みです。
反射について
では,反射の様子はどうでしょうか。
弦振動の場合は両端が固定されていたため,固定端反射として考えることができました。気柱振動の場合は,「開口端なら自由端反射,閉口端なら固定端反射」というルールがあります。
開口端というのは閉じられていない端で,閉口端というのは蓋で閉じられている端です。
両方とも開口端になっている気柱(開管)はラップの芯が想像しやすいかと思います。
片方が開口端,片方が閉口端になっている気柱(閉管)は,試験管やペットボトルですね。
気柱振動における反射
開口端では自由端反射,閉口端では固定端反射が起こる。
気柱振動における波の速さ,振動数
基本は弦振動と同じ
弦振動と同じく,気柱振動においても $v=f\lambda$ の式に注目して議論を行っていきます。
気柱振動における波の速さ $v$ は音波そのものですから,問題文で与えられていることが多いです。
振動数は,気柱に送り込んでいる音波の振動数と等しくなりますので,使用している音叉の振動数で考えることが多いです。
問題になるのはやはり波長です。弦振動のときと同じように,定在波の図をかいて考えます。
開管と閉管で図が異なりますので,それぞれの場合について見ていきましょう。
開管における気柱振動
まずは開管における気柱振動を考えてみましょう。
開管はいずれの端も開口端ですので,自由端反射となります。
壁による波の反射の際にも学習しましたが,自由端反射が起こる場所では入射波と反射波の変位が常に等しくなるので,必ず定在波の腹が生じます。
このことを利用して,$n$ 倍振動における波長 $\lambda_n$ を求めてみましょう。
最も簡単なのは気柱の真ん中に節が1つだけ発生するような状況ですね。
このときの波長 $\lambda_1$ を求めてみます。
気柱の端から端までの長さを $L$ とすると,これが腹-腹間隔である $\Bun{\lambda_1}{2}$ と等しくなっていることがわかります。
したがって,
$$L=\Bun{\lambda_1}{2}\qquad\therefore \quad \lambda_1=2L$$として波長が計算できます。
このように,気柱に節が1つだけ含まれる振動を,弦振動の場合と同様に基本振動と呼びます。
もうすでにお気付きかもしれませんが,弦振動と全く同じ式が出てきていますね。
弦振動と開管の気柱振動は,腹と節の位置が入れ替わっているだけなので,立式する式も全く同じになるのです。
$2$ 倍振動,$3$ 倍振動についても確認してみましょう。
気柱に節が2つ,3つ含まれる状況はそれぞれ図の通りです。
$2$ 倍振動は,気柱の長さ $L$ が腹-腹間隔 $\Bun{\lambda}{2}$ の $2$ 倍に等しいので,
$$L=\Bun{\lambda_2}{2}\cdot2\qquad\therefore \quad \lambda_2=L$$と計算できます。
$3$ 倍振動も同様に考えると,
$$L=\Bun{\lambda_3}{2}\cdot3\qquad\therefore \quad \lambda_3=\bun23L$$として波長を求めることができます。
$n$倍振動についても同様に考えられますね。
気柱の長さ$L$ が,腹-腹間隔 $\Bun{\lambda_n}{2}$ の $n$ 倍になるので,
$$L=\Bun{\lambda_n}{2}\cdot n\qquad\therefore \quad \lambda_n=\bun{2L}{n}=\bun{\lambda_1}{n}$$となります。
$v=f\lambda$ の式で振動数も確認してみましょう。
音速 $v$ は変わりませんので,波長 $\lambda_n$ が基本振動の波長 $\lambda_1$ の $\Bun{1}{n}$ 倍になったことで,振動数は確かに $n$ 倍になっていますね。
開管における気柱振動
波長は図をかいて考える。$n$ 倍振動においては,$\bun{\lambda_n}{2}$ の $n$ 倍が気柱の長さ $L$ に相当するので,
$$L=\Bun{\lambda_n}{2}\cdot n\qquad\therefore \quad \lambda_n=\bun{2L}{n}=\bun{\lambda_1}{n}$$と計算できる。
閉管における気柱振動
それでは閉管の場合はどうでしょうか。
開口端は自由端反射ですので定在波の腹,閉口端は固定端反射ですので定在波の節になります。
この点に注意して,$n$ 倍振動の波長 $\lambda_n$ を求めてみましょう。
まず,最も簡単な状況は上図の通りです。気柱の内部には腹も節も含まれていません。
節と腹の間隔 $\Bun{\lambda_1}{4}$ が,気柱の長さ $L$ そのものになっていますので,
$$L=\Bun{\lambda_1}{4}\qquad\therefore \quad \lambda_1=4L$$であることがわかります。
この振動が,閉管における気柱振動の基本振動になります。
では,次に簡単な状況を考えてみましょう。図は上の通りです。
気柱の中に,腹-節間隔が3つ含まれていますよね。2つではないので注意して下さい。
腹-節間隔は $\bun{\lambda}{4}$ ですから,
$$L=\Bun{\lambda}{4}\cdot3\qquad\therefore \quad \lambda=\bun43L=\bun{\lambda_1}{3}$$という計算になります。
この波長は基本振動の $\Bun13$ 倍ですね。
ということは,$v=f\lambda$ の式から考えると振動数は $3$ 倍になっているはずです。
そう,これ実は $3$ 倍振動なのです。閉管の気柱振動には $2$ 倍振動が存在しません。
その次はどうでしょうか。図は上の通りです。
気柱の中には,腹-節間隔が5つ含まれていますので,
$$L=\Bun{\lambda}{4}\cdot5\qquad\therefore \quad \lambda=\bun45L=\bun{\lambda_1}{5}$$となります。
波長が基本振動の $\Bun15$ 倍ですから,振動数は $5$ 倍のはずで,これは $5$ 倍振動ということになります。
このように,閉管における気柱振動には奇数倍振動しか存在しません。
$n$ 倍振動($n$ は奇数)については,気柱の長さ $L$ が,腹-節間隔 $\Bun{\lambda_n}{4}$ の $n$ 倍になるので,
$$L=\Bun{\lambda_n}{4}\cdot n\qquad\therefore \quad \lambda_n=\bun{4L}{n}=\bun{\lambda_1}{n}$$となります。
丸暗記せずに,その都度図をかいて計算するようにしましょう。
閉管における気柱振動
波長は図をかいて考える。奇数倍振動しか存在しない。$n$ 倍振動においては,$\bun{\lambda_n}{4}$ の $n$ 倍が気柱の長さ $L$ に相当するので,
$$L=\Bun{\lambda_n}{4}\cdot n\qquad\therefore \quad \lambda_n=\bun{4L}{n}=\bun{\lambda_1}{n}$$と計算できる。(暗記せずにその都度図をかいて求める!)
例題
長さが $l$ の開管がある。空気中でこの開管に音波を送る実験を考える。音源の振動数を,$0$ から次第に上げていくと,$f_0$ のところではじめて共鳴が生じた。
続いて,ヘリウムガスを満たした空間で同様の実験を行った。このとき,はじめて共鳴が生じる音の振動数 $f$ を求めよ。ただし,ヘリウムガス中の音速は,空気中の音速の $3$ 倍であるものとする。
まずは空気中での気柱振動を考えましょう。
はじめて生じた共鳴を考えているので,基本振動を考えればよいですね。定在波の様子は次図の通りです。
このときの音波の波長を $\lambda$ とすると,腹-腹間隔が $\Bun{\lambda}{2}$ であることから,
$$l=\Bun{\lambda}{2}\qquad\therefore \quad \lambda=2l$$と計算できます。
空気中での音速を $v$ とすれば,波動の基本公式から,$v=f_0\lambda=2f_0l$ が得られます。
では,ヘリウムガスを用いた場合はどうでしょうか?
同じように実験を行っているので,考えるべきは基本振動です。
開管の長さは $l$ のままですから,図も全く一緒になります。ということは,基本振動における音波の波長も変わりません。
そこで,$v=f\lambda$ の両辺の変化に注目します。
左辺の $v$ が $3$ 倍になることが問題文で与えられています。右辺も $3$ 倍にならないといけませんが,上の議論から $\lambda$ は変化しないことがわかっています。
となると,$f$ が $3$ 倍になるほかありません。これより,$f=3f_0$ として答えが得られます。
問題に対するアプローチ
$v=f\lambda$ の両辺の変化に注目する方法に慣れてくるとこの手の問題は暗算で答えが出せるようになります。
最初は1つ1つの立式を丁寧に行って答えを求めるのも大事ですが,慣れてきたら楽に答えを出せるように,「$v=f\lambda$ の両辺の変化に注目する」方法を練習していきましょう。
弦・気柱振動の問題の解き方
$v=f\lambda$ の式を元に考える。式の両辺が何倍に変化しているかに注目することで,求める値が何倍になっているかを求める。
気柱の疎密
突然ですが,以下の問いを考えてみて下さい。
密度が最も高いのは?
閉管における $3$ 倍振動を考える。定在波が図の状態のとき,空気の密度が最も高い場所はどこか。
まずは音波の確認ですが,横波ではなく縦波です。
定在波はあたかも横波のように表現されていますが,空気分子の振動は音波の進行方向と同じ向き,つまり開管に平行な方向になります。
「密な場所がわかればよいだけなら,ミとソをかき込む方法が使える!」ということで,カタカナの「ミ」と傾きが同じ場所を探してみます。
すぐに次図の場所が見つかりますね。ということは次図に示す点が最も密な場所でしょうか…?
残念ながらそうではないのです。
わざわざこんな問いを考えているくらいですからね。そう単純ではありません。
図を見て考えると,あたかも気柱の真ん中に空気分子(媒質)が一直線上に並んでいて,その空気分子が気柱に平行に振動しているかのように思えてしまいますが,実際はそうではありません。
気柱の内部は全て気体で満たされており,その位置によって「面」で振動します。
一直線上の「点」ではないのです。下側の図のように,定在波の腹となる場所の面では気体分子が面全体で大きく振動していて,節の場所の面では気体分子が常に静止しています。
以上の話からわかる通り,先ほどの問いの答えは「ミ」の場所の「面」ということになります。次図に示す面です。
気柱振動では気体分子が面になって振動している,という意識をしっかりと持つようにしましょう。
開口端補正
これまで,開口端ではちょうど気柱の端に定在波の腹が位置しているものとして考えていました。
しかし実際には,端より少し外側に出ていることが知られています。
このズレの距離を開口端補正と呼びます。
この開口端補正を考えるのか,それとも無視するのかは問題によって異なるので,問題文から読み取りましょう。
現実世界でも「腹」は出てほしくないですけどね!出てしまうものなんです…!
共鳴
ワイングラスを指で弾くと,「カリン!」というよい音がしますよね。何度弾いても同じ高さの音が出ます。
このように,物体を自由に振動させた際に生じる波動の振動数は決まっており,固有振動数と呼ばれています。
逆にその物体に,固有振動数と等しい振動数の振動を外から加えると,わずかな力で大きな振動を発生させられることが知られています。
この現象を共鳴と呼びます。ワイングラスを弾いたときに出る音と同じ高さの声でワイングラスに向かって叫ぶと,強い振動が発生します。
この現象を利用すると,手で触れることなく声でワイングラスを割ることができるのです。
「ワイングラス 声 割る」などで検索すると,いろいろな動画が見つかると思います。