原子物理の世界
目に見えない世界
いよいよ最後の章,原子物理です。

原子物理の世界について,まずは簡単に紹介をしておきます。
これまでの単元では,「目に見える物理現象」を扱ってきました。運動する物体の解析方法だったり,実際に電子機器に応用されている回路の仕組みだったり…。
しかし,原子物理で扱う内容は「目に見えない物理現象」です。
たとえば,原子物理で学習する「原子核」は決して目に見えない小さなものですよね。
歴史

歴史的な話もしておきましょう。
これまでにみなさんが学習してきた力学や電磁気学などの学問(古典物理学)よりも,原子物理学は歴史が浅いです。
17世紀に活躍したニュートンは,木から落ちるりんごをみて万有引力の着想を得たわけですが,そのりんごを見て「このりんごは小さな原子核や電子からできているな。そしてその原子核は陽子と中性子によってできていて…」なんてことは考えられませんでした。
目に見えないのだから当たり前です。原子物理のような「目に見えない世界」の学問が発展するのには,それなりの実験技術が必要になるのです。
扱う現象
そんな原子物理学で扱う小さな小さな世界では,みなさんがこれまでに学習してきた古典物理学では説明しきれない現象が出てきます。
みなさんも一度は名前を聞いたことがあるであろうアインシュタインといった人物が活躍し,こうした現象の解明を進めてきました。
「そんな考え方をするの!?」というような,一見すると突飛な話も出てきますが,それが原子物理の面白い点でもあると思います。

これまで学習してきた単元とはちょっと毛色の異なる原子物理。最後までぜひ楽しんでください。
学習を進めるにあたって
深入りしすぎない!
上に述べたように,原子物理は19世紀以降に発達した比較的歴史の浅い学問分野で,現代物理学の入り口ともなるような内容を扱います。

深く学べば興味深いこともたくさんあるのですが,入試においては深入りしすぎないことも重要だと思っています。
これまでに学習してきた単元については「どうしてそれが成りたつのか」を理解すること,導出できるようにすることはとってもとっても重要ですが,(受験勉強として)原子物理を学ぶにあたっては「そういうもの!」として受け入れる心も大事になってきます。
まずは本書のイントロの流れに沿って学習を進め,受験に必要な内容を効率よく吸収してください。
ミリカンの実験
昔は大変だった
今となっては電子がもつ電気量(電気素量)が $e\fallingdotseq 1.6\times10^{-19}\C$ であることは既知の事実ですが,このことを調べるにも昔は一苦労でした。
もともと,J.J.トムソンの実験によって,電子の比電荷(電気量 $e$ と質量 $m$ の比)の値が明らかになっていました。
$\Bun{e}{m}\mskip 5mu$ の値がわかっているので,$m$ もしくは $e$ のどちらかがわかれば自動的にもう片方の値も決まります。
こうした背景の下で,電気量 $e$ そのものを直接求めることに成功したのがミリカンの実験です。
どのようなものであったか,一部簡易化しながらみていきましょう。
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実験原理
油滴の落下
まず,霧吹きを用いて小さな油滴を作ります。この油滴を極板の小さな穴から落下させていきます。
油滴は質量が $m$ であるものとし,この油滴は空気抵抗を受けるので,やがて一定速度となって落下していきますね。
油滴の速度
この油滴の速度を測定することで,電気素量を測定する方法を考えます。
油滴に作用する空気抵抗の大きさは,定数 $k$ と油滴の速さ $v$ を用いて,$kv$ とかけるものとして考えていきましょう。
まず,油滴がそのまま落下する状況についてです。終端速度を $v_1$ とすると,油滴の力の作用図は次の通りです。
力のつり合いより,
$$mg=kv_1$$
が成立しますね。
帯電した油滴
続いて,落下する油滴に $\rmX$ 線を照射すると,油滴は帯電します。
その状態で極板間に電圧をかけて上向きの電場を生成すると,油滴は上向きの静電気力を受けます。
油滴の持つ電気量を $-q$,電場の強さを $E$ とすると,静電気力の大きさは $qE$ ですね。
この静電気力によって油滴は上向きに運動するようになります。そして最終的に,力がつり合って等速度運動を行います。
このときの力の作用図が次図の通りです。
力のつり合いより,
$$qE=mg+kv_2$$
が成立しますね。
以上の2つの力のつり合いの式から,測定が困難な $m$ を消去すると,
$$q=\mskip 4mu\bun{k(v_1+v_2)}{E}\mskip 5mu$$
が得られます。$v_1,\,v_2$ を測定することで,$q$ が求まります!
結果の解釈
計算方法
実際に実験を行って $q\C$ を求めると,おおよそ $1.6\times10^{-19}\C$ の倍数となることがわかります。

このことから,電気量の最小単位,すなわち電気素量が求まるわけです!
計算方法についても確認しておきましょう。実験を行った,以下のような結果が得られたとします。
1回目と3回目の実験で得られた値から,おおよそ電気素量が $e=1.6\times10^{-19}\C$ であることの予想がつきます。
そこで,各実験で得られた電気量が $e$ いくつ分かを考えると,次の表の通りになります。
このことを踏まえると,
$$e=\mskip 4mu\bun{1.63+4.93+1.58+6.51+7.91}{1+3+1+4+5}\mskip 5mu\fallingdotseq 1.61\ (\times10^{-19}\C)$$として電気素量を求めることができます。

値は暗記する必要はありませんが,この計算方法については理解しておきましょう!