力学の目標
力学の位置づけ
物理の中で最も重要な単元です。
他の単元でも力学の知識が必要になることが多々ありますので,なんとしてでも得意にしておきたい単元ですね。
「力学を制する者が物理を制する」のは間違いないでしょう。
目標
力学の単元では,力を加えることによって物体がどのように運動するのかを考えていきます。
物体に加わる力を元に,物体の運動の様子を表現したり,予測したりすることが目標になるわけですね。
そのために,運動方程式やエネルギー保存則など,様々な法則を学習していきます。
どうやって運動を表現する?
100メートル走る人を例に
さて,「物体の運動の様子を表現する」といいましたが,運動の様子を表現するのってなかなか難しくないですか?
たとえば,$100$ メートル走を走る人の運動を表現してみましょう。
ある人は「$100$ メートルの距離を加速しながら走った!」と表現するかもしれません。でもこれでは,まっすぐ走ったのか,カーブを走ったのかわかりません。
「$100$ メートルの直線を加速しながら走った!ゴールしたときの速さは秒速 $8$ メートルだった!」という表現はどうでしょう。ある程度具体的になってきましたが,$50$ メートルを通過したときの速さはわかりません。
座標軸を設定する!
そこで,運動を客観的に正確に表現するために,座標軸を設定して正負の向き付きで運動を議論します。
運動が直線上であれば $x$ 軸を使うことになりますが,平面上での運動の場合は $y$ 軸も必要になりますし,3次元空間での運動であれば $z$ 軸も使用します。
速度
そもそも「速さ」って…?
小学校で,すでに「速さ」について学習しました。時速 $100\punit{km}$(以後,$100\punit{km/h}$ と表す)というのは「 $1$ 時間あたりに $100\punit{km}$ 」進む「速さ」という意味でしたね。
しかし,日常の生活において,常に等速で移動しているものは多くありません。$100\punit{km/h}$ で走っている車も,停車しているときは $0\punit{km/h}$ ですし,それが $10\punit{km/h} ,\ 20\punit{km/h} ,\ 30\punit{km/h} ,\ \ldots$ と加速していき,$100\punit{km/h}$ になるわけです。
この項目では,そんな「速さ」に関してより詳細な解き方を導入していきましょう。
平均の速度
ここから先は上に述べたように,座標を用いて物体の運動を考えていきます。まずはわかりやすくするため,一直線上($x$ 軸上)を運動する物体で考えます。
数直線上を運動する物体 $\rmP$ の時刻 $t$ における座標を $x$ とします。$x$ は $t$ の関数ですから,$x(t)$ と表すことができます。
時刻 $t$ から $t+\varDelta t$ までの時間 $\varDelta t$ の間,物体 $\rmP$ が運動したとします。このとき,物体の位置は $x(t)$ から $x(t+\varDelta t)$ まで変化したとしましょう。
この $t$ の増分 $\varDelta t$ に対する $x(t)$ の平均変化率は,
$$\Bun{\varDelta x}{\varDelta t}=\bun{x(t+\varDelta t)-x(t)}{\varDelta t}$$と表すことができます。
この値は,「時間 $\varDelta t$ の間に,平均して単位時間($1$ 秒間)あたり $x$ がどのくらい変化したか」を表しています。
これを平均の速度といいます。平たくいえば,「運動全体で平均すると,$1$ 秒間にどのくらい進んでいたか」ということです。
平均の速度
時間 $\varDelta t$ の間に $\varDelta x$ だけ物体が進んだときの平均の速度 $\overline{v}$ は,
$$\overline{v}=\Bun{\varDelta x}{\varDelta t}$$
例題
東京から大阪までの直線距離を $500$ キロメートルとする。$10$ 時間かけて東京から大阪へ移動した場合の平均の速度を求めよ。
東京から大阪までの $500\punit{km}(=\varDelta x)$ の移動に $10\punit{h}(=\varDelta t)$ かかっているので,平均の速度は,
$$\bun{\varDelta x}{\varDelta t}=\bun{500}{10}=50\punit{km/h}$$
変化量について
$\varDelta$(デルタ)という文字が出てきましたので,これについても説明しておきます。
この $\varDelta $(デルタ)は,物理量の「変化量」を表す際に用いられます。
「変化量」は「どれだけ増えたか」を表す量であり,$$\stext{(変化量)}=\stext{(後の値)}-\stext{(前の値)}$$として計算できます。
たとえば,「 $30\punit{km/h}$ の速度が $70\punit{km/h}$ になった!」という場合の速度の変化量は,$$\varDelta v=70-30=40\punit{km/h}$$ と計算されるわけです。
同様に,位置の変化量は $\varDelta x$ と表記されますが,特にこれは変位と呼ばれています。「$\stext{(変位)}=\stext{(後の位置)}-\stext{(前の位置)}$」で計算できます。
変化量
「どれだけ増えたか」を表す量であり,$\varDelta$ を用いて表す。$$\stext{(変化量)}=\stext{(後の値)}-\stext{(前の値)}$$で計算する。特に,位置の変化量を「変位」と呼ぶ。
(瞬間の)速度
では,東京と大阪を $20$ 時間かけて往復した場合はどうなるでしょうか。
スタート地点は東京,ゴール地点も東京ということになります。原点からスタートして原点に戻ってくる,というイメージです。
この場合,合計の移動距離は結局 $0\punit{km}$ ということになってしまうので,平均の速度も $0\punit{km/h}$ です。
このように,$\varDelta t$ を大きく取りすぎてしまうと平均の速度を考えるメリットが小さくなってしまいます。1日かけて東京と大阪を往復したのに,平均の速度が $0\ms$ となるのはちょっと違和感がありますよね。
こうした問題が起こらないように,$\varDelta t$ を小さくして考えます。
$\varDelta t$ を十分小さく取って,移動中の各瞬間についての $x$ の変化率について考えてみましょう。この際に得られる値,
$$v(t)=\lim\limits_{\varDelta t\to0}\bun{\varDelta x}{\varDelta t}=\Bun{\dx}{\dt}$$を瞬間の速度と呼びます。
つまり,瞬間の速度とは「位置 $x$ の微分」なのです。大切なのでもう一度言います。位置 $x$ を微分したものが瞬間の速度です。
教科書などではこの微分を使った定義を避けています。が,微分を使わずに表現しようとした結果,余計ややこしくなっているのです。
瞬間の速度は,「そのまま $1$ 秒間進み続けた場合に進むはずの距離」を表しています。このように $\varDelta t$ を十分小さく取ることで,運動中の各瞬間の速度を正確に表現できるわけです。
数学や物理で単に「速度」といった場合には,平均の速度ではなく瞬間の速度を意味しています。
速度の定義
物体の速度 $v$ は,物体の位置 $x$ の変化率(その瞬間にどれくらい移動するか)を表す。すなわち,物体の速度 $v$ は,物体の位置 $x$ を時間 $t$ で微分することで求められる。
$$v=\bun{\dx}{\dt}$$
速度の正負と速さ
速度を考えるときは向きも含めて
物体の位置を表す際に $x$ 軸を導入して座標上で考えました。$x$ 軸の正の向きが物体の位置の正の向きになります。
物体の速度 $v$ も正の向きを考える必要がありますが,こちらも $x$ 軸と同じ向きが正の向きになります。
自分で速度を設定する際には,正の向きも一緒に決めなければいけません。このとき,$x$ 軸の正の向きと逆向きに速度の正の向きを設定してしまうとわけがわからなくなってしまいます。
$x$ 軸の正の向き(位置の正の向き)と速度の正の向きは必ず同じ向きに設定して下さい。
これはもうルールだと思って慣れてしまいましょう。
例題
$x$ 軸上において,$x=5\m$ の位置から $x=1\m$ の位置へと物体が $2\s$ かけて等速度で移動した場合,物体の速度を求めよ。
物体が $2\s$ の間に $\varDelta x=1-5=-4\m$ だけ移動しているので,求める速度は,$$v=\bun{-4}{2}=-2\ms$$
上の例題では,$x$ は減少するので速度 $v$ は負の値となりました。このように速度 $v$ は正の値も負の値も取ることができます。
速さ
速度と似た言葉に 速さ というものがありますが,これは速度の絶対値 $|v|$ を意味しています。絶対値ですので,速さが負の値となることはありません。
速さ
速度の絶対値 $|v|$ を物体の速さと呼ぶ。速さは必ず $0$ 以上の値となる。