回路のエネルギー収支関係
エネルギー保存則の成り立ち
電磁誘導の問題へのアプローチとして,回路のエネルギー保存則を考えました。
このエネルギー保存則では,「運動エネルギー」といった力学的なエネルギーや「ジュール熱」といった回路から生じるエネルギーを同時に考えます。

このエネルギー保存則の成り立ちについて考えてみましょう。
設定
図のように,抵抗値が $R$ の電気抵抗 $\rmR$ を用いた回路に抵抗値が無視できる導体棒を乗せます。
導体棒には右向きに $f$ の外力を加えて運動させ,その速度を右向きに $v$ としましょう。
回路には紙面手前向きで磁束密度が $B$ の磁場がかけられており,時計回りに流れる電流の大きさを $I$ とします。
誘導起電力
まずは導体棒に生じる誘導起電力を考えましょう。
棒の速度と磁束密度が直交しているので,大きさは $V=lvB$ でokですね。
向きは導体棒上の正の電荷が受けるローレンツ力の向きから考えます。導体棒の下側が高電位となる向きであることがわかりますね。
2つの視点から
回路の問題として解くにあたっては,「運動方程式」という力学的な視点と「キルヒホッフの第二法則」という回路の視点の双方を考えるのが定石でした。

エネルギーについて考える際にも,この2つの視点から考えていきます。
回路の視点から考えた議論
回路図は次の通りに整理できます。
キルヒホッフの第二法則として,
$$lvB=RI$$
と立式できます。これを元に回路のエネルギー保存則を考えると,
$$Q=W_{\stext{誘}} \quad ……\ ①$$
という式になります。
$Q$ は抵抗において生じるジュール熱,$W_{\stext{誘}}$ は誘導起電力の仕事です。
「誘導起電力が仕事をした分,抵抗からジュール熱が発生する」というエネルギー保存則を表しています。
力学的な視点から考えた議論
導体棒に作用する力は,外力 $f$ と電磁力 $lIB$ の2つです。
よって運動方程式は,
$$m\mskip 6mu\bun{\dv}{\dt}\mskip 5mu=f-lIB$$
と立式できます。
この運動方程式を元にエネルギー保存則を考えると,
$$\varDelta K=W_{\stext{外}}+W_{\stext{電}} \quad ……\ ②$$
という式になります。
$\varDelta K$ は導体棒の運動エネルギーの変化量,$W_{\stext{外}}$ は外力の仕事,$W_{\stext{電}}$ は電磁力の仕事をそれぞれ表しています。
全体の視点で
続いて,これらの各視点の議論から得られた2式を足し合わせます。
①式と②式を辺々足すことで,
$$Q+\varDelta K=W_{\scriptsize\stext{誘}}+W_{\stext{外}}+W_{\stext{電}} \quad ……\ ③$$
という式が得られます。
式中の $W_{\stext{誘}}+W_{\stext{電}}$ について,具体的に計算を進めます。
計算
まず,先ほど立式したキルヒホッフの第二法則から,$I=\mskip 4mu\bun{lvB}{R}\mskip 5mu$ であることがわかります。
単位時間の間に誘導起電力の部分を通過する電気量は下向きに $I$ ですので,誘導起電力の仕事率は,
$$P_{\stext{誘}}=lvB\cdot I=\mskip 4mu\bun{l^2v^2B^2}{R}\mskip 5mu$$
として得られます。
また,導体棒の速度が右向きに $v$ であるのに対し,電磁力は左向きに $lIB$ として作用しています。これより,電磁力の仕事率は,
$$P_{\stext{電}}=-lIB\cdot v=\mskip 4mu\bun{l^2v^2B^2}{R}\mskip 5mu$$
ですね。
これより,仕事率について $P_{\stext{誘}}+P_{\stext{電}}=0$ が常に成立することがわかりますので,仕事についても $W_{\stext{誘}}+W_{\stext{電}}=0$ となることがいえます。
これを③式に代入することで,
$$Q+\varDelta K=W_{\stext{外}}$$
という関係式が得られます。
誘導起電力と電磁力の仕事の和
一般性
具体的な回路を利用して,具体的に計算をすることで,$W_{\stext{誘}}+W_{\stext{電}}=0$ が成立することがわかりました。
他の回路においても,一般にこの関係式は成立することが知られています。

その理由について考えてみましょう。
導体棒上の電荷の動き
磁場中を右向きに動く導体棒上の正の電荷について考えます。
電流が下向きに流れているものとすれば,正の電荷も電流として導体棒上を下向きに移動するはずです。
しかし,導体棒自体が右向きに移動しているため,実際には図のように斜め右下に向かって移動していることになります。
この電荷の移動方向と,磁束密度に直交する向きにローレンツ力は作用することに注意しましょう。
フレミングの左手の法則を用いると,図の向きとして求めることができます。
ローレンツ力の分解
このローレンツ力を「導体棒に平行な方向」と「導体棒に垂直な方向」に分解しましょう。
前者は「導体棒に沿って電荷を持ち上げる役割」をしているため,誘導起電力として解釈することができます。
後者は「導体棒を引っ張る役割」をしているため,こちらは電磁力として作用しているものと解釈できますね。
このように,電磁力と誘導起電力は導体棒上の電流が受けるローレンツ力の分力と考えることができるのです。
ローレンツ力は仕事をしない!
これより,電磁力の仕事と誘導起電力の仕事の和は,ローレンツ力の仕事であることがわかります。

ではローレンツ力の仕事は…?
「ローレンツ力は仕事をしない!」のでしたね。つまり,$0$ です!
よって,
$$W_{\stext{誘}}+W_{\stext{電}}=0$$
が成り立つ理由が確認できます。
ローレンツ力はいかなる場合でも仕事をしないのに対し,電磁力は仕事をし得るのもこのことを考えれば納得できるはずです。
結論
考えない仕事
ということで,回路のエネルギー保存則を考える際には,誘導起電力の仕事と電磁力の仕事は和が $0$ になるため,考えなくてよいことがわかります。
誘導起電力と電磁力以外の仕事とエネルギーを考慮してエネルギー保存則を立式するようにしましょう!
回路のエネルギー保存則
一般に,$W_{\stext{誘}}+W_{\stext{電}}=0$ が成立する。
回路全体でのエネルギー保存則を考える際には,誘導起電力と電磁力の仕事を含めずに立式する。