熱力学

等温変化

羽白 いむ

東京大学医学部医学科卒 現役医師
東大指導専門塾鉄緑会 物理・数学科元講師
物理基礎のトリセツ著者
数学のトリセツ共著者

等温変化について

概説

こちらも名前の通り,「温度が一定」の状態変化です。

気体と外部の熱のやり取りが自由にできるようになっており,気体の温度が常に外界の温度と等しくなるような状況で実現します。

温度 $T_1$,体積 $V_1$,圧力 $P_1$ から,体積 $V_2$,圧力 $P_2$ へと変化するような等温変化について,熱力学第一法則をもとに考えていきましょう。

熱力学第一法則

内部エネルギーの変化 $\varDelta U$

温度が変化しないので,$\varDelta T=0$ ですね。よって,$\varDelta U=0$ であることが瞬時にわかります。

$P-V$ グラフ

$W\out$ について考える前に,$P-V$ グラフをみておきましょう。

状態変化の過程で温度が常に一定なので,状態方程式 $PV=nRT$ の右辺が変化しません。つまり,$PV=\stext{\hspace{-.5em}(一定)}$ が常に成立することになります。

さて,この状況において,$P-V$グラフがどのような形になるかわかりますか…?

羽白

「わからん!」という皆さん,これだったらいかがでしょう…?

問い

「$xy=\stext{\hspace{-.5em}(一定)}$」を表すグラフの概形を $x-y$ 平面に図示せよ。

数学の問題として考えるとわかりやすいですね。

生徒

「$xy=\stext{\hspace{-.5em}(一定)}$」は,反比例を表していますので,グラフの概形は双曲線です。

$P-V$ グラフでも同様に考えればokですので,次図のようなグラフが完成します。

ということで,斜線部の部分の面積が $W\out$ になるのですが,図形的に面積を求めるのは困難そうです…。

気体のする仕事 $W\out$

$P-V$ グラフの面積から図形的に考えることができないので,頑張って計算するしかありません。

状態方程式を整理すると,$P=\mskip 4mu\bun{nRT}{V}\mskip 5mu$ となりますので,これを $W\out=\displaystyle\int_{V_1}^{V_2}P\dV$ の式に代入して計算していきます。

$T=T_1$ で一定であることに注意すると,

$$\begin{aligned} W\out&=\int_{V_1}^{V_2}P\dV\\&=\int_{V_1}^{V_2}\mskip 6mu\bun{nRT_1}{V}\mskip 5mu\dV\\&=nRT_1\int_{V_1}^{V_2}\mskip 6mu\bun{1}{V}\mskip 5mu\dV\\&=nRT_1\Bigl[\log|V|\Bigr]_{V_1}^{V_2}\\&=nRT_1\log\mskip 6mu\bun{V_2}{V_1}\mskip 5mu \end{aligned}$$として計算できます。

これはもう頑張って計算するほかありません!

生徒

入試では,$\displaystyle\int\mskip 6mu\bun{nRT}{V}\mskip 5mu\dV=nRT\log|V|+C$ などの式が誘導として与えられることが多い。

計算の流れを知っているとスムーズなので,すらすらと計算できるように,計算の過程を覚えておくとよい。

気体の吸熱量 $Q\in$

熱力学第一法則から,

$$Q\in=\varDelta U+W\out=nRT_1\log\mskip 6mu\bun{V_2}{V_1}\mskip 5mu$$であることがわかります。

$\varDelta U$ ですので,「気体に与えた熱は全て外部にする仕事として利用される」わけですね。

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