質点と剛体
剛体と質点
まずはじめに,そこそこ衝撃的な事実をお伝えします。
これまで様々な物体の運動を扱ってきましたが,どれも物体の大きさは「ないもの」として考えていました。
「大きさがない」って変な話ですよね。でも,いわれてみればそうじゃないですか…?
あたかも大きさがあるかのように図はかいてありましたが,物体の大きさについては一度も言及されていませんでした。
大きさのない物体(質点)として運動を考えていたのです。
しかし実際の世の中に「質量はあるけど大きさは無視できる」という,質点のような物体は存在しませんよね。
そこで,物体の大きさを考えた議論について考えてみましょう。
しかし,物体の変形まで考え始めるとこれまた議論が大変になってしまうので,「大きさは考えるけれども変形はしない」という物体(剛体)を考えます。
剛体の運動
剛体特有の運動
剛体の運動を考えるにあたっては,これまでに質点で考えてきたのと同じような剛体全体の運動(剛体全体で見ると等加速度運動,円運動,など)に加え,剛体自体の回転運動についても考える必要があります。
2種類の運動に分けて考えるということです。それぞれ整理していきましょう。
並進運動:全体の平行移動
剛体全体の平行移動のことを並進運動と呼びます。
剛体が並進運動を行わない条件は,これまで質点で考えてきた場合と同様,力のつり合いが成立することです。
回転運動:ある点まわりの回転
名前の通り,回転運動です。「ある点」は状況に応じて自分で決めます。高校物理では回転しない状況のみを考えていきます。
力のモーメント
回転の能率
剛体の回転を考える際に,作用している力がどれだけ剛体を回転させようとしているかを考える必要があります。
この「剛体を回転させる能率」のことを,力のモーメントと呼びます。
たとえば,図のような棒があったとしましょう。左端の点$\rmA$は固定されており,$\rmA$点まわりに棒は自由に回転できるようになっているとします。
右端の点$\rmB$に大きさが $F$ の力 $\vec{F}$ を加えて棒を$\rmA$点まわりに回転させるとき,力の加え方によってどのように回転の能率は変わるでしょうか。
以下の2つの場合を比較してみましょう。
真横に引っ張る場合
力が加わっている$\rmB$点は,作用点と呼ばれます。
回転軸となる$\rmA$点と,力の作用点である$\rmB$点を結ぶ直線と平行に力を加えた場合,物体はただただ引っ張られるだけで,$\rmA$点まわりに回転はしないですよね。よって,回転の能率である力のモーメントも $0$ であると考えられます。
直線ABに垂直に引っ張る場合
直線$\rmA\rmB$に対して,垂直な方向に $\vec{F}$ が加わっている状況だとどうでしょうか。
この場合は棒が$\rmA$点まわりに反時計回りに回転しそうですね。回転の能率である力のモーメントも大きいものと考えられます。
力のモーメント
以上の具体例から,直線$\rmA\rmB$に対する力の向きが重要であることがわかりますね。
直線$\rmA\rmB$に垂直な方向に力が作用するとき,力のモーメントが大きくなります。
また,軸から離れた点に力を加えればより回転の能率も上がることが知られており(てこの原理),力のモーメントは以下の通りに決定されます。
力のモーメント
$\rmB$点に作用するの力$F$ の,$\rmA$点まわりの反時計回りの力のモーメントは,
$$M=Fl\sin\theta$$
$Fl\sin\theta$ は,$l\cdot F\sin\theta$ と考えることができます。
$F\sin\theta$ は,$F$ の線分$\rmA\rmB$に垂直な方向成分を表しているため,$l$ が大きければ大きいほど,力が線分$\rmA\rmB$に垂直な方向にかかればかかるほど,力のモーメントが大きくなることが確認できますね。
その場で線分$\rmA\rmB$に垂直な力の成分を取り出し,線分$\rmA\rmB$の長さとの積をとることで力のモーメントが得られるわけです。
はじめから線分$\rmA\rmB$と力 $\vec{F}$ が直交している場合($\theta=90\Deg$ のとき)には,$M=Fl$ として力のモーメントが計算できます。日本語で表現すると,
$$\stext{(回転軸と力の作用点の距離)}\times\stext{(力の大きさ)}$$です。
力のモーメントの向き
回転の向きは反時計回りを正の向きとして考えます。
反時計回りに回転させる向きの力のモーメントは正の値として,時計回りに回転させる向きの力のモーメントは負の値になるので注意しましょう。
また,力のモーメントの単位は $\punit{N\cdot m}$ です。