垂直抗力は仕事をする?
なぜかよくある勘違い
「垂直抗力は仕事をしない」と聞いたことがありますが…?
そんなことはありません。垂直抗力は仕事をします。
名前に「垂直」と入っているから勘違いが起こるのだと思いますが,これは「抗力の内,接触面に垂直な方向成分」というのを意味しているのであって,決して「進行方向に垂直」なのではありません。
具体的な仕事の例
おもりを持ち上げる
以下のような状況を考えてみて下さい。
簡単な例
質量が $m$ の小球を板の上に乗せ,板を $h$ だけ鉛直上向きにゆっくりと動かす。
垂直抗力が小球にする仕事
小球に作用する垂直抗力は以下の通りです。
垂直抗力 $N$ の向きと,小球の移動方向が一致しているので,垂直抗力の仕事 $W$ は,
$$W=N\cdot h$$と計算できます。
こんなに簡単な例でも垂直抗力が仕事をしていることが確認できるんですね…。
垂直抗力が板にする仕事
板に作用する垂直抗力は以下の通りです。
作用反作用の法則を踏まえると,垂直抗力は鉛直下向きであることがわかりますね。
板の移動方向と垂直抗力の向きは $180\Deg$ 反対向きとなっていますので,垂直抗力の仕事 $W'$ は,
$$W'=-N\cdot h\ (<0)$$であることがわかります。
垂直抗力は正の仕事も負の仕事もする
上の例からわかるように,垂直抗力は正の仕事も負の仕事もします。
「垂直抗力は仕事をしない」というのが嘘であることが簡単な例から速やかに確認できました。
「垂直抗力は仕事をしない」なんて初歩的な嘘です。騙されていた,という人は,高い壺とか買わされたりしないように気をつけてくださいね…。
疑問に思ったら
自分で検証する力
今回の例のように,「あれ,これって正しいのかな…?」と思ったときには必ず自分で検証しましょう。
検証の方法
- 具体例を考える。
- 根拠を探る。
今回は具体例を考えることで「垂直抗力が仕事をする」ということが確認できました。
考えやすい状況で具体的に考えるようにします!
しかし,具体例を考えても結論が出ないこともあります。
たとえば,「ローレンツ力は仕事をしない」というのはいかがでしょうか?
具体例を考えると,仕事をしていない状況ばかりが出てきます。
根拠を探る
そこで「そもそもなんでローレンツ力は仕事をしないんだ…?」と,その定義に立ち返って考えてみましょう。
(少しむずかしい話になりますが)ローレンツ力は外積を使って定義されているのでした。
$$\dvec{f}=q\dvec{v}\times\dvec{B}$$です。
よって,ローレンツ力は必ず $\vec{v}$ (速度)にも $\vec{B}$ (磁束密度)にも直交することがわかります。
常に $\vec{f}\perp\vec{v}$ ですから,仕事は必ず $0$ ということが確認できますね。
試験場でも同様に
試験の最中にも,たとえば「この状況って,エネルギー保存則立ててよいのかな…?」のように悩むことは多々あるでしょう。
そんなときには「根拠を探る」が非常に有効です。
エネルギー保存則はそもそも運動方程式から導出されるわけですから,その問題の状況で成り立つ運動方程式を確認し,それをもとに「エネルギー保存則を立ててよいか」を考えていくのです。
まとめ
「垂直抗力は仕事をしない」といっている人から高い壺を売られそうになっても買ってはいけません。