はじめに
あれ,キルヒホッフの法則って,物理基礎じゃなくて物理の範囲では…?
そうなんです。しかし,いずれ物理を学習する皆さんは物理基礎を学習する段階から知っておいたほうがよいでしょうし,物理基礎のみ学習する皆さんも知っているとときやすい問題が増えるのです。
内容としても難しいものではないので,学習のトリセツでは物理基礎の範囲で扱ってしまいます!
回路の問題
キルヒホッフの第一法則
複雑な回路の問題になると,回路内で導線同士が接続されることがあります。
たとえば上図のような回路の場合,$\rmA$ 点と $\rmB$ 点において導線が接続されています。このうち,$\rmA$ 点について考えてみましょう。
電池を出て $\rmA$ 点に流れ込んでくる電流が $I_1$,$\rmA$ 点で2方向に分岐してそれぞれの抵抗に流れていく電流が $I_2,\,I_3$ です。
このとき,言うまでもないですが,
$$I_1=I_2+I_3$$が成立します。
そもそも電流とは,「$1$秒間に導線のある地点を通過する電気量」でしたよね。
ということは,$\rmA$ 点には $1$ 秒の間に $I_1$ の電気量が流れ込み,$I_2+I_3$ の電気量が流れ出ていっているわけです。
仮に $I_1>I_2+I_3$ であれば,$\rmA$ 点にどんどん電荷が溜まってしまいますし,逆に $I_2+I_3>I_1$ であれば $\rmA$ 点から電荷が湧き出ているという不思議な状況になってしまいます。
流れてきた分だけ出ていく,という当たり前のことをいっているのです。
このように「回路のある1点に流れ込む電流の和と,流れ出ていく電流の和は等しくなる」という法則が成立します。
これをキルヒホッフの第一法則と呼んでいます。
キルヒホッフの第一法則
回路のある1点に流れ込む電流の和と,流れ出ていく電流の和は等しくなる。
例題
回路の一部を示した次図において,各抵抗に $I_1,\,I_2,\,I_3,\,I_4$ の電流が流れている。これらの電流の間に成り立つ式を求めよ。
問題の回路は次図の回路に書き換えることができる。
図の $\rmA$ 点について考える。
この点には,$I_2+I_4$ の電流が流込し,$I_1+I_3$ の電流が流出している。
よって,キルヒホッフの第一法則より,
$$I_1+I_3=I_2+I_4$$
抵抗と電圧降下
電圧による「高低差」
電池について扱った際に,「電池は正の電荷を持ち上げる役割をしており,その高さに相当する値が電圧」という内容を学習しました。
高い位置で電池の正極を出発した電流ですが,回路を1周すると再び電池の負極に戻ってきます。
電池の負極は正極よりも低い位置にあるわけですから,回路を1周するうちにどこかで高さが低くなっていますよね。
この高低差を作っている場所が抵抗です。導線では高さは変わりません。
つまり,電池のポンプによって高い場所に持ち上げられた電荷(電流)は,抵抗を通過するときに落下して高さが低くなるのです。
文章で読むとイメージが湧きにくいと思いますが,ジェットコースターと同じように考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
ジェットコースターはまず高い場所までガラガラと持ち上げられますが,この役割をしているのが電池の起電力です。
1周する間にジェットコースターは勢いよく坂を下りますが,この坂の役割をしているのが抵抗,ということです。1周すると当然,元の高さに戻ってきます。
具体的に上図のような回路を考えてみましょう。回路には時計回りの電流が流れています。まず,① の電池の部分で,起電力 $V$ の分だけ正の電荷(電流)が持ち上げられて高い位置になります。
② の導線部分はそのままの高さで移動し,③ の抵抗の部分で $RI$ だけ坂を下ります。④ は導線なので高さは変わらず,再び電池の位置に戻ります。
回路図での抵抗の扱い
このように,抵抗の部分でも高低差が生じているわけですが,これも電池と同じく「抵抗の電圧」と考えることができます。
「電流が落下する」というニュアンスがあるので特に,「電圧降下」と呼んでいます。
この抵抗の電圧降下は,抵抗を流れる電流 $I$ と,抵抗値 $R$ を用いて,$V=RI$ と表せるのでした(オームの法則)。
そして,この高低差に相当するものを回路図でもわかりやすくするためにかき込むのが電圧を表す三角形でした。
抵抗については電流が流れる向きに高さが低くなりますので,上図のような三角形をかけばokです。
電流の向きと電圧の向きが確実に対応するように,向きには注意して下さい。
キルヒホッフの第二法則
キルヒホッフの第二法則
これまでに説明した通り,電圧によって回路に高低差が生じていると考えることができました。
そして当然ですが,回路を1周すると元の高さに戻ります。
言っていることは当たり前なのですが要するに,「1周する間に上った高さと下った高さは同じだよね」ということに過ぎません。
回路の言葉で表現すると,「閉じた回路1周において,起電力による電圧(電池が電荷を持ち上げる高さ)の和と,抵抗における電圧降下(電荷が下る坂の高さ)の和は等しくなる」ということです。
この法則をキルヒホッフの第二法則と呼びます。問題を解く際の使い方をしっかりと身に付けていきましょう。
キルヒホッフの第二法則
閉回路において,起電力による電圧(起電力)の和と,抵抗における電圧(電圧降下)の和は等しくなる。
しれっと「閉じた回路」と書きましたが,1周がちゃんと導線でつながれていることが大前提です。
スイッチが切られていて,導線が接続されていない回路では成り立ちません。
キルヒホッフの第二法則の使い方
問題を解く際には,閉じたループを見つけて,そのループごとにキルヒホッフの第二法則を立式していきます。
例題
次のそれぞれの回路において,色のついた抵抗にかかる電圧$V$ を求めよ。ただし,図中にかき込まれた $E,\,V_1,\,V_2$ は各素子の電圧を示し,(2) において色のついた抵抗を流れる電流は下向きであるものとする。
それぞれの回路で,閉じたループを見つけてキルヒホッフの第二法則を立式していきましょう。
まずは (1) の回路から!
そもそもループが1つしかないので,全体のループでキルヒホッフの第二法則を立式します。
まず,電池の向きに注意すると,回路を流れる電流は反時計回りであることがわかりますね。
この電流の流れに沿って抵抗の電圧は下がるので,抵抗における電圧の三角形の向きは次図の通りです。
このループ1周に注目したとき,まず電池の起電力 $E$ で高さが上昇し,2つの抵抗それぞれで $V_1,\,V$ だけ坂を下って元の高さに戻ることがわかります。
よって,キルヒホッフの第二法則より,
$$E=V_1+V\qquad\therefore \quad V=E-V_1$$として答えが得られます。
続いて (2) です!
電圧が分かっている抵抗をつないでできる閉ループを考えます。図に色を付けたループです。
また,電池の向きに注意すると,これらの抵抗を流れる電流は図の矢印の向きになります。
この電流の向きと対応するように,各抵抗に電圧の三角形をかき込んでいきます。
このループ内の起電力は $E$ であり,電圧降下はそれぞれの抵抗で $V_1,\,V,\,V_2$ ですから,キルヒホッフの第二法則より,
$$E=V_1+V+V_2$$が成立します。これを整理することで,
$$V=E-V_1-V_2$$として答えが得られます。
別解の考察
なお,本問では問われていませんが,たとえば次図のループにおいてもキルヒホッフの第二法則を立式することができます。
左下の抵抗の電圧 $V'$ を求めてみましょう。
このループには起電力がなく,坂道だけのループになっています。
たとえば図の $\rmA$ 点から $\rmB$ 点まで移動しようとした場合,下のルートで1つの抵抗の坂を上ると高さは $V'$,上のルートで2つの抵抗の坂を上ると高さは $V+V_1$ となります。
どちらの道で移動しても,上る高さは同じになるはずですから,キルヒホッフの第二法則より,
$$V'=V+V_1$$と立式することができます。これを整理することで,
$$V'=E-V_2$$であることがわかります。
このように,ループのある点から別の点まで移動する際に,2つのルートで上る高さが等しい,と考えて立式することも可能です。
「キルヒホッフの第二法則より」というと難しく聞こえてしまいますが,ジェットコースターの高さの話だと思えば当たり前のことをいっているだけなんだとわかると思います。