仕事と熱の関係
まずはじめに,仕事と熱の関係を確認します。
力学で扱った仕事ですが,覚えていますか?
力学で運動エネルギーを扱った際に,$\varDelta K=W$ というエネルギー収支関係を学習しましたよね。
仕事をされた分だけ物体の運動エネルギーが増える,というものでした。
つまり,仕事は運動エネルギーに変換できる,と考えることもできます。
さて,熱力学の章では熱について扱ってきましたが,その正体は細かく見ると,熱運動による運動エネルギーだということを学習しました。
ということは,仕事によって熱を発生させられそうですね!
たとえば,動いている物体に動摩擦力が働くような場合には,物体の運動エネルギーが減少する代わりに摩擦熱が発生します。
運動エネルギーが減少しているのは動摩擦力が負の仕事をしたためですので,結局は動摩擦力の負の仕事によって熱が発生した,と解釈することができます。
このように,熱量も運動エネルギーと同様に扱うことができ,広い意味でエネルギー全体が保存されるわけです。
内部エネルギー
熱を細かく見ると,運動エネルギーとして考えられる,という話をしました。
温度が高い物体はより高い熱を持っているわけですが,温度が低い物体に触れない限りこの熱は物体が保持し続けることができます。
つまり,「その物体が内部に蓄えているエネルギー」と解釈することができるのです。
熱としての運動エネルギーの他にも,物体を構成する粒子同士の引力に対応した位置エネルギーも内部に蓄えています。
この運動エネルギーと位置エネルギーを合わせた,物体が内部に蓄えているエネルギーのことを内部エネルギーと呼びます。
物体を構成する粒子の熱運動による運動エネルギーが温度と密接な関係を持っていたように,内部エネルギーも物体の温度と密接に関連しています。
内部エネルギー
物体が内部に蓄えている運動エネルギーと位置エネルギーの和のことを内部エネルギーと呼ぶ。
熱力学第一法則
内部エネルギーの変化
物体が内部に蓄えているエネルギーが内部エネルギーでしたが,この内部エネルギーはどのようなときに変化するでしょうか。
「仕事と熱の関係」でも扱ったように,仕事によって熱(運動エネルギー)を発生させることができましたよね。
つまり,物体に対して外から仕事をすれば,その物体に含まれる内部エネルギーはその分だけ増加するはずです。
仕事でなく,熱そのものを与える(単純にその物体を温める)という方法でも内部エネルギーは増加しますよね。
逆に,物体が外に熱を放出したり,他の物体に対して仕事をすると内部エネルギーはその分だけ減少します。
気体の仕事
他の物体に対して仕事をする,という状況は少し想像しにくいかもしれません。気体の例で考えてみましょう。
簡単な例
図のように,シリンダー内に気体が封入されており,自由に動くピストンが取り付けられているとします。
気体を熱していくと気体は膨張して体積が大きくなりますが,この際にピストンを右向きに押すことになります。
ピストンに右向きの力(気体の圧力を $P$ としたら $PS$ )を加えながら,右向きに動かしたわけですから,気体は正の仕事をしたことになります。
熱力学第一法則
一般に,物体に与える熱を $Q^{in}$,物体が外部にする仕事を $W^{out}$ とすると,気体の内部エネルギー変化 $\varDelta U$ は,
$$Q^{in}=\varDelta U+W^{out}$$の関係式を満たします。
この関係のことを熱力学第一法則と呼びます。
「うわぁ,また新しい公式が出てきた…」と悲しい気持ちにならないでください…!
いっていることは,熱も仕事もエネルギーの一形態として考えることができ,熱や運動エネルギー,仕事は全体で和が保存されていますよ,というエネルギー保存則に過ぎません。
熱力学第一法則
物体に外部から与えられた熱量を $Q^{in}$,物体が外部にした仕事を $W^{out}$,物体の内部エネルギーの変化を $\varDelta U$ とすると,
$$Q^{in}=\varDelta U+W^{out}$$の関係が成立する。
お金の流れで考える
そうはいってもイメージがしづらいと思いますので,お金の流れで考えてみましょう。
みんなが大好きなお金で考えればわかりやすいに違いない…!
$Q^{in}$ は外から入ってくる熱量ですから「収入」を,$W^{out}$ は外にする仕事(外に出ていくエネルギー)ですから「支出」を表します。
$\varDelta U$ は内部エネルギーの変化,すなわち物体が内部に蓄えているエネルギーの変化ですから,「貯金の変化」を表しています。
「今月の収入は $3$万円,支出は $1$万円でした。いくら貯金を増やせましたか?」と聞かれたら難しくないですよね。$3-1=2$ なので $2万円$,とスムーズに計算できるはずです。つまり,
$$\stext{(収入)}-\stext{(支出)}=\stext{(貯金の変化)}$$が成り立つわけですから,$Q^{in}$,$W^{out}$,$\varDelta U$ をこれに当てはめると,$Q^{in}-W^{out}=\varDelta U$ になります。これを変形することで,
$$Q^{in}=\varDelta U+W^{out}$$が成り立つことが確認できます。
結局,「入ってきたものと出ていったものの差の分だけ貯金が増える」ということです。
熱が出ていった場合や物体に対して外から仕事が与えられたような場合を考えることもありますが,公式に当てはめるのではなく,図をかきながら意味を踏まえて立式すると混乱することがなくなります。
例題
次のそれぞれの場合について,気体の内部エネルギーの変化$\varDelta U$ を求めよ。
外部から $Q$ の熱量および $W$ の仕事が与えられた場合。
外部から $W$ の仕事がなされ,$Q$ の熱量を外部に放出した場合。
左側の図より,$\varDelta U=Q+W$
右側の図より,$\varDelta U=W-Q$
熱機関
熱機関とは
燃料を燃やすなどの方法で外部から熱を供給し,その熱を用いて仕事をすることができる機関を熱機関と呼びます。
蒸気機関車などがその一例ですね。
石炭を燃やすことで,その熱を仕事に変え,機関車を動かしています。
熱機関に外から与えられた熱を $Q_1$ とした場合,その全てを仕事 $W$ として活用できるのが理想ですが,100%の効率で熱を仕事に変えることはできません。
一定のエネルギーが熱量 $Q_2$ として外部に放出されてしまいます。
熱機関の内部エネルギー
熱機関にも内部エネルギーが存在しますが,その値は変化しません。
熱機関は何度も同じサイクルを繰り返して仕事をするのですが,各サイクルのたびに内部エネルギーが増えたとしたらどうなるでしょう…?
それを繰り返しているうちに内部エネルギーが無限に増加してしまい,パンクしてしまいますよね。
よって,必ず1サイクルの仕事が終わると内部エネルギーも元通りになり,$\varDelta U=0$ が成立します。
エネルギーの流れ
結局,熱機関は外部から与えられた熱量 $Q_1$ の一部を仕事 $W$ に変えて,残りを熱量 $Q_2$ として外部に放出していることになるため,エネルギー保存則として,
$$Q_1=W+Q_2$$が成立します。
与えた熱量 $Q_1$ のうち,どれだけを仕事 $W$ に変換できたかという割合はその熱機関の効率を表していることになりますが,これを熱効率と呼びます。
熱効率$e$ は,
$$e=\Bun{W}{Q_1}=\bun{Q_1-Q_2}{Q_1}=1-\bun{Q_2}{Q_1}$$として計算できます。
上でも述べた通り,$e=1$ となるような理想的な熱機関はどう頑張っても作り出せないことが知られています(熱力学第二法則)。
熱効率
熱機関に与えられた熱量を $Q_1$,熱機関がした仕事を $W$,排出された熱量を $Q_2$ とすると,その熱機関の熱効率は,
$$e=\Bun{W}{Q_1}=\bun{Q_1-Q_2}{Q_1}=1-\bun{Q_2}{Q_1}\ (<1)$$によって与えられる。