物理は点数が吹き飛びやすい?
物理の問題の特徴
入試で出題される物理の問題。
共通テストは単発の問題が多いですが,2次試験では1つのテーマに沿った内容の出題となっていることが多いでしょう。
そうした性質上,前半の問題でミスをしたためにその先全ての問題の答えが合わない,といった事故も起こりかねません。
模試でやらかしたことあります。どうすればミスはなくなるのでしょう…?
事故を防ぐ方法
こうした事故を防ぐための方法は以下の2つです。
ミスを防ぐ方法
- そもそもミスが起こらない方法で問題を解く。
- ミスしたとしても,答えの確認を行ってすぐに修正する。
あたりまえじゃん!と思うかもしれませんが,具体的な方法を知っていますか?普段から取り入れていますか?
この記事を読めば,そうしたミスをぐっと減らすことができるようになるでしょう。
【ミスを起こさない】図のかき方の工夫
$\sin\theta$ と $\cos\theta$
力を2方向に成分分解したときに,どっちが $\sin$ で,どっちが $\cos$ か,悩むことはありませんか?
いつも図に角度をかき込んで,丁寧に考えています。
毎回毎回図形的に考えていては時間がもったいない,アホらしい。
急いでいるときにはミスも起こるでしょう。
どっちが $\sin$ でどっちが $\cos$ かが一瞬でわかるようになり,ミスもほぼゼロになる方法を紹介します。
簡単な例
以下の図のような状況を考えてみましょう。
斜面上の物体の重力 $mg$ を斜面に平行な方向(①),斜面に垂直な方向(②)に分解することになりますが,どちらが $mg\sin\theta$ でどちらが $mg\cos\theta$ だかわかりますか?
正解は,
$$ \text{①}\ mg\sin\theta\qquad \text{②}\ mg\cos\theta$$です。
試験ではこのように力を分解する場面がたくさんありますが,どんなときでも瞬時に,しかも正確に「どちらが $\sin$ でどちらが $\cos$ か」がわからないといけません。
この,「どちらが $\sin$ でどちらが $\cos$ か」を判断するためのポイントは,自分で図をかくときに,$\theta$ が小さくなるようにかいておくことに尽きます。
次の図を見てください。
$\theta$ を小さく($20\Deg$くらいに)かきました。すると ① の矢印と ② の矢印の長さが明らかに違いますよね。
$\theta$ が小さいとき,$\cos\theta$ と $\sin\theta$ の大小関係を単位円で考えてみましょう。
図を見ると,$\cos\theta$ はほぼ $1$ であるのに対し,$\sin\theta$ は $\bun12$ にすら達していないですよね。
ということで,明らかに $\cos\theta>\sin\theta$ ですから,「長い矢印のほうが $\cos\theta$!」と見た目ですぐに判断できます。
つまり,② が $mg\cos\theta$ だということが一瞬でわかるのです。
見た目でどっちが長いか,なら一瞬で判断できますね!
先ほどの図は $\theta$ を $45\Deg$ くらいとしてかいてしまった結果,矢印の見た目の長さが同じになってしまったので区別が付けづらかったわけですね。
力の作用図は物体ごとに自分でイチからかくのでした。
この際に必ず $\theta$ が小さくなるようにかく習慣をつけておいてください。
そうすれば,「成分分解したときは長いほうが $\cos\theta$,短いほうが $\sin\theta$」と見た目で一瞬でわかるようになります。
ポイント
力の作用図は,角度 $\theta$ が小さくなる($20\Deg$ くらい)ようにかく。力を成分分解する際,長いほうが $\cos\theta$ に対応し,短いほうが $\sin\theta$ に対応する。
【ミスを見つける①】極端な状況を考える
文字を使った問題では
数値ではなく,文字を使って解く問題が物理では多いですよね。
重力加速度 $g$ や,万有引力定数 $G$ のように,値が決まっているものもありますが,物体の質量 $m$ や,坂道の傾斜 $\theta$ は一般的な文字であり,具体的な数値を代入することができます。
たとえば,$\theta$ の方向への斜め投射では,$\theta$ を $0\leqq\theta\leqq\bun{\pi}{2}$ の範囲の変数として考え,$\theta=\bun{\pi}{4}$ のときに水平到達距離 $L$ が最も大きくなる,といったことを考えますよね。
こうした,文字に具体的な数値を代入することができるという特徴を使うことで,答えの確認をすることができます。
極端な場合を考える
上で放物運動の例を考えましたが,$\theta$ といわれるとどうしても $30\Deg$ から $60\Deg$ くらいのイメージを持ってしまいますが,$\theta=0$ や $\theta=\bun{\pi}{2}$ だっていいわけです。
$\theta=\bun{\pi}{2}$ の状況ってつまり…。
$\theta=\bun{\pi}{2}$ ということは,真上に投げ上げているということですよね。
つまり,鉛直投げ上げ運動になるのです。
放物運動として求めた値(水平到達距離や,最高点に達するまでの時間など)に,$\theta=\bun{\pi}{2}$ を代入すると,鉛直投げ上げ運動と同じ値がでてこないといけない,ということです。
たとえば,放物運動で最高点に達するまでの時間は $\bun{v_0\sin\theta}{g}$ と求めることができ,これに $\theta=\bun{\pi}{2}$ を代入すると $\bun{v_0}{g}$ となります。
これは確かに,鉛直投げ上げ運動において物体が最高点に達するまでの時間 $\bun{v_0}{g}$ と一致していますね。
仮に $\bun{2v_0}{g}$ のような値になってしまったら,その時点で「自分の答えが間違っているな」と気付けるのです。
簡単な例
以下のような問題を考えてみましょう。
例
滑らかに動く定滑車に,質量の無視できる糸を介して質量が $M$ の小球Aと,質量が $m$ の小球Bが繋がれている。小球から同時にそっと手を離すと,小球Aが下降し始めた。下降するときの加速度の大きさ $a$ を求めよ。
問題自体は難しくないでしょう。運動方程式はそれぞれ
$$Ma=Mg-T,\ ma=T-mg$$となりますので,これを解くことで $a=\bun{M-m}{M+m}\,g$ であることがわかります。
さて,答えの確認をしてみましょう。
$m=0\ $のとき
この場合,小球Bはないものとして考えることができます。
そうなるともはや糸も滑車も役割がなくなり,小球Aがただただ自由落下することになります。
つまり,「$a=g$ になるはず」ということがわかりますね。
先ほど求めた答え $a=\bun{M-m}{M+m}\,g$ に $m=0$ を代入すると,確かに $a=g$ となりますので,明らかな間違いはなさそうです。
$M\to\infty\ $ のとき
質量 $M$ が非常に大きい場合です。
小球Aがボーリングの球,小球Bがほこり,くらいのイメージでしょうか。
この場合,ほこりはもはや無視できますよね。あってもなくても同じ。
ということで,$m=0$ のときと同様に $a=g$ となるはずですが,$a=\bun{M-m}{M+m}\,g$ で $M\to\infty$ とすると,確かに $a\to g$ になります。
確かに明らかな間違いはなさそうです。
$M=m\ $ のとき
このとき,2つの小球は力がつり合って静止します。つまり,$a=0$ となるはず。
$a=\bun{M-m}{M+m}\,g$ で $M=m$ とすると,確かに $a=0$ となります。
ここでも矛盾はなさそうです。
ということで,3通り確認して矛盾はありませんでした。
これでだいぶ答えに自信を持てますね!
仮に問題が正しく解けていなくて,$a=\bun{m-M}{M+m}\,g$ となってしまっていた場合であれば,$m=0$ のときと $M\to\infty$ のときに矛盾が生じるため,ミスに気づくことができるのです。
【ミスを見つける②】単位を利用した次元チェック
単位は考えるのが面倒だけれど…
ここまでの学習で,各物理量に対して単位を学習してきました。たとえば,加速度なら $\mss$,力なら $\punit{N}$,エネルギーなら $\punit{J}$ でしたね。
しかし共通テストでは単位が省略されて出題されることが多く,文字のみの計算で答えが出せてしまいます(それにならい,本書に掲載している問題では基本的に単位を省略しています)。
数値計算しなくてよいし,「見慣れた形」も出てくるし,解きやすいですよね。
では,単位は覚えなくてもよいのかといわれるとそうでもありません。
単位を利用することで,見直しをより有効に行うことができます。ここではその方法を紹介します。
次元の考え方
数学ではあまり意識しないかもしれませんが,物理では1つ1つの文字が単位を持っています。
そして,単位(次元)が異なるもの同士を比較することはできません。
つまり,「$=$」や「$<$」,「$>$」によってつながれている式の右辺,左辺では必ず単位が同じになります。
また,次元の異なるもの同士を足したり引いたりすることはできません。
たとえば,重力と弾性力の力のつり合いの式 $mg=kx$ は,右辺も左辺も単位が $\N$ になっていますよね。
仮に $x=mg$ のような式が出てきたら,$\m=\N$ となってしまっていることから,瞬時に間違っていると気付けるわけです。
式の「見た目」からしてもう違和感がありますね!
こうした「単位(次元)」を利用した答えのチェックの方法を「次元チェック」なんて呼んだりしています。
簡単な例①
それではこれまでの話を踏まえて,次元チェックによって答えの確認をする練習をしてみましょう。
例 ①
地面から測って $\theta$ の方向に初速度 $v_0$ で物体を投げ上げる。重力加速度の大きさを $g$ として,水平到達距離を求める。
まずは鉛直方向の運動に注目する。
初速度は $v_0\sin\theta$ なので最高点までの時間は $\Bun{v_0\sin\theta}{g}$ であり,落下するまでの時間はその $2$倍の $\bun{2v_0\sin\theta}{g}$ である。
続いて水平方向の運動に注目する。水平方向には $v_0\cos\theta$ で等速度運動をするので,求める距離は,
$$\bun{2v_0\sin\theta}{g}\times v_0\cos\theta=\bun{2v_0\sin\theta\cos\theta}{g}$$
さて,求めた値の分子は $2v_0\sin\theta\cos\theta$ ですから,単位は $\ms$ です。
一方,分母は重力加速度 $g$ ですので,単位は $\mss$ です。すると,分数全体での単位は,
$$\bun{\ms}{\mss}=\s$$となってしまいます。
求めているのは距離のはずですから,単位は $\m$ にならなければいけないので,「どこかで計算ミスをしているな…」ということがわかります。
次元チェックの限界
それでは,
$$\bun{2v_0\sin\theta}{g}\times v_0\cos\theta=\bun{2v_0\!^2\tan\theta}{g}$$という三角関数の計算ミスをしてしまった場合はどうでしょうか。
三角関数自体は数値と同じく,次元のない無次元量ですので,次元チェックによってミスを発見することはできません。
このようなミスを発見するためには上に紹介した「極端な場合を考える」という手法が有効です。
上の放物運動の例であれば,次のような極端な状況を考えるとよいでしょう。
極端な状況をチェック
- $v_0=0$ なら $L=0$(そもそも投げてない)
- $\theta=0$ なら $L=0$(その場にすぐ落ちてしまう)
- $\theta=\bun{\pi}{2}$ なら $L=0$(真上に投げているのでその場に戻ってくる)
$\Bun{2v_0\!^2\tan\theta}{g}$ という答えだと,$\theta=\bun{\pi}{2}$ のときに $L=0$ とならいため,ミスをしていることがわかるのです。
簡単な例②
次元チェックについて,もう1つ例を確認してみましょう。
例 ②
マーク式テストなどの答えを選択するタイプの問題で,$l-\bun{mv^2}{k}$ が選択肢に含まれている場合。
この場合,文字1つ1つに注目して単位を計算していってもよいのですが,多くの文字が登場している上にばね定数まで含まれているのでちょっと複雑です。
1つ1つ単位を考えて計算していたら日が暮れてしまいそうです…
そこで,「文字のまとまりで単位を考える」という方法をとってみましょう。
分数の分子にある $mv^2$ ですが,これは運動エネルギー $\Bun12mv^2$ と同じ単位になるはずですので,$\punit{J}$ となります。
これでもまだわかりづらいので,別のものに置き換えてみましょう。
分母に $k$ があるので,弾性力の位置エネルギー $\bun12kx^2$ を考えるとわかりやすいですね。
$\bun12mv^2$ と $\bun12kx^2$ はいずれも単位が同じく $\punit{J}$ ですから,分母の $mv^2$ を $kx^2$ で置き換えてしまえば,
$$l-\bun{kx^2}{k}=l-x^2$$と変形できます。
知っている物理量と結びつけて,まとまりで考えるのがポイントなんですね!
$l$ も $x$ も長さを表しており,単位は $\m$ ですから,$l-x^2$ という式は「$\punit{m}-\punit{m^2}$」という形になってしまっています。
次元が異なるもの同士は足し引きできないので,そもそもこの選択肢自体がおかしなことになっていることがわかります。
問題が解けなかったとしても,このように次元を考えるだけでその選択肢が絶対に答えにならないことがわかってしまうのです。
共通テストはこうした選択形式の出題ですので,このような次元チェックだけで選択肢を絞ることができます。
次元チェック
次元が異なるもの同士を足したり引いたりしていないかチェックする。そもそも求めるものとして単位が正しいかも確認する。
こうした次元チェックによる答えの確認は,慣れれば慣れるほど時間をかけずに速やかにできるようになります。
普段から問題を解く際には(特に自分の答えに自信がないときには),次元チェックで答えの確認をする習慣をつけておくとよいと思います。
まとめ
彼女に「勉強と私,どっちが大事なの?」と聞かれてしまったのですが…。
「次元が異なるもの同士は比較できないんだよ」と優しく教えてあげましょう。